あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2017年12月15日
21歳コーチの悩み~フレンドリーな関係でいい?もっと真剣にやらせるべき?
選手たちと年齢が近いためかお兄さんのように慕われているけれど、それがピッチ内でも続いてしまっているのが悩みのコーチ。指導者と選手のあるべき関係とは。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんはどのようなアドバイスを授けたのでしょうか。(取材・文:島沢優子)
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<お父さんコーチからの質問>
僕は現在21歳で、中学生のコーチをやらせていただいています。
1つだけ悩んでいるのが、選手との関係です。
ピッチの外ではお兄ちゃんの様なフレンドリーな関係でも構わないのですが、それがピッチの中まで続いてしまっている状態です。
僕の感覚として、ピッチの中では指導者と選手がフレンドリー過ぎるのもどうかなと思っていますが、どうすればトレーニングの時にもう少し真剣な雰囲気が出るのか考えあぐねており、池上さんのアドバイスがお聞きしたいです。
よろしくお願いします。
<池上さんのアドバイス>
ご相談、ありがとうございます。
指導者と選手の関係性について三つのアドバイスをさせてください。
■旧来の上下関係を生む必要はない
まずひとつめ。
旧来の「指導者像」のイメージに、とらわれないでください。
スポーツの指導と言えば、選手を前に、こうしなさい、ああしなさい、これをやりなさいと指示をしていく。そのコーチが言った通りのことを、選手はパフォーマンスで示していく。相談者を含めた多くの方が、そんなイメージを持っていると思います。
だから、21歳の若いコーチは、伸び伸びとふるまう選手をみて(もしかしたら、自分はなめられているのかもしれない)とか(もっと真剣にやらせないといけない)と焦るのかもしれません。恐らく、ご自分も、コーチのいうことを聞いて、真面目に練習に取り組んできたのでしょう。
「フレンドリーな関係」というのが、具体的にどんなものかは相談の文章だけでは測りかねますが、ふざけたり、私語ばかりでサッカーに集中しないわけでなく、選手とコーチが対等で意見を言い合えるような雰囲気なのであればそんな関係こそ理想的です。
■選手の本音を聴けるのはチャンス
例えば「この練習やるよ!」と子どもに言ったとき、対等な関係であれば、選手は正直に「えーっ!コーチ、それ面白くない!」と言えます。
ところが、冒頭に挙げた旧来のコーチ像であれば、「文句言わないでやりなさい」となります。
でも実は、これは指導者にとって大きなチャンス。大変いいことなのです。
「じゃあ、どんな練習が、今の君たちに必要だと思う?」
「シュート練習?本当?こないだの試合は失点が多かったよね?今日は守備のことを整理したいんだけど、どう思う?」
そんなふうに、選手と意見を交わすことで、選手の本音も聞けます。何よりも、「練習をやらせる側・やらされる側」もしくは「提供する側・提供される側」といった対等でない関係ではなく、「一緒に練習をつくっていく共同体」になれます。
ぜひ、今の関係を「困ったもの」ととらえず、肯定的に考えてください。これがふたつめです。
■選手が意見が言いやすい環境は指導者の成長にもつながる
そして、三つめ。
この対等な関係性を、ぜひ自分の成長につなげてください。
選手が苦手だと思っていることや、できるのに自分でできなと決めつけているスキルもあります。そういったことを聞き出せたり、日常会話の中で気軽に「コーチ、僕、こう思っているんだけど」と選手が自ら相談してきてくれることになります。
彼らが一番伸びるのは、自分たちがやりたい練習、もしくは、自分たちで「これをやれば強くなるからやろう」と納得して取り組む練習です。対等で意見交換できる間柄であれば、コーチのほうもそれを追求していけます。
逆に、指示命令で子どもを動かすのが指導だと考えているチームでは、こんなことが起こります。
例えば、練習前にグランドで遊んでいた子どもたちのなかのひとりが「コーチが来たぞ!」と知らせた途端、みんな顔がこわばる。よく見られる風景ではありませんか?
そのようにピリピリした空気で、子どもたちがコーチを恐れているようでは、本音を言えません。
そのような姿をみて、「まずいな。何でも言い合える関係になっていないな」と思える人と、子どもが自分に従っている証拠なので安心する人と二通りあるでしょう。