あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2018年2月23日
U-10にパスの意識は必要か? 個性を生かした子どもの伸ばし方を教えて
U-10年代でドリブルが得意な子に、パスの意識も植え付けさせた方が良い? とお悩みのお父さんコーチ。声かけをしているものの、まだ効果はないそう。そもそもU-10年代でパスの意識を持たせるさせる必要はあるのでしょうか。同じような悩みを持つコーチもいるのでは?
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんはどのようなアドバイスを授けたのでしょうか。(取材・文:島沢優子)
<<中学生年代で習得必須なサッカースキルは何? おすすめのトレーニングを教えて
<お父さんコーチからの質問>
少年団でU-10を教えている保護者コーチです。
ドリブルが上手な選手に対し、周りは見えてるかな? パスの意識もしてみよう的な声かけをしています。
まだあまり効果はないのですが、この年代で無理にパスの意識を植え付けさせる必要はありますか?
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
「パスか、ドリブルか」
日本の少年サッカーでよく議論されるテーマですが、そろそろ考え方を変えたほうがいいのではないかと、私は思っています。
■パスかドリブルか、の前に「チームのために」サッカーの原点を考えよう
なぜなら、基本的にサッカーはチームで協力し合って点を取りに行く競技です。攻める人と守る人が分かれるわけではないし、パスをする人と受ける人が決められているわけでもありません。
「パスをつないで点を取りましょう」と呼びかけると、「じゃあドリブルをさせてはいけないのか。それでは個性をつぶすことになるのではないか」という意見が出てきます。そうではなく、運動能力や技術の高い子がひとりでドリブルして点を取り続けることを、大人は良しとしてはいけません。
そうなると、周りの子はサッカーがつまらなくなるし、そのうちほかの子もその子を真似て、ボールを受けたら離さなくなります。
つまり、「みんなで協力してゴールを奪う」というサッカーの原点から遠ざかってしまうわけです。
そんな話をすると、今度は「じゃあ、パスさせるほうがいいですね」と、"パス派"に振り子が揺れたりします。でも、これも違います。パスもドリブルも、チームのためにあるものです。そこを指導者自身が理解すべきです。
ゴールさえ入ればチームのためになりますか?
どんな方法でも、試合に勝ちさえすれば、チームのためになりますか?
そうではなく、チームのために、パスもドリブルもある。大人がそのようにサッカーを理解すれば、子どもたちのサッカーの理解も進みます。みんなが楽しくなるサッカーにたどりつけ、必然的にチーム力は底上げされるのです。
効率よく点を取ったり、攻撃の組み立てに貢献する選手のことを、大人は「あいつはサッカーをよく知ってるね」と表現したりします。つまり、少年サッカーは、サッカーというスポーツを正しく理解する期間なのです。
■小学生年代は「サッカーを理解する」期間
私は、そのことを昨夏視察したドイツで確信しました。
真ん中にパスしたら、そこからサイドに展開。外から真ん中にクロスをあげて、走り込んだ選手が決める。
そんなトレーニングを、ドイツでは7歳の子どもたちがやっていました。真ん中から外にパスすると、相手守備は一瞬そこにつられる。だから、すぐに外から真ん中に返すと効率よく点が取れる。
そのことを、彼らは理屈だけでなく、体に浸みこませていました。
そういった「サッカーを理解すること」を小学校低学年から中学年の時期にしっかりやってから、小学校高学年から中学生にかけて技を磨き始めます。動き方がわかったうえで、今度は個々のスキルを高めるわけです。タイミングをどう合わせるか、もっと強いボールが蹴れないか。日本で言うところの「精度を高める」という段階に入ります。
ところが、日本の少年サッカーは「技術の習得」から入ります。
止める・蹴るがおぼつかないと「技術がないやつは試合に出せない」となるわけです。サッカーの正しい理解を浸透させるドイツと、個々の技術習得が先にありきの日本。この「初期設定の違い」は、実はことのほか大きい。それが、なかなか追い付けない世界との差になっているのではないか。
そう感じた私は今、コーチングスクールを始めました。月に1回開催しています。
「サッカーをどのように学んでいくか」これがスクールのテーマです。
ご相談の方が指導している子どもたちはもう10歳です。サッカーがどんなものなのかを、すでに理解しておかなくてはいけない年齢です。
ただし「じゃあ、パスをやらせればいいんですね」とは考えないでください。子どもたちに「パスしろ」と命令してしまうと、パスしかしなくなる、というのはよく聞く話です。
そうではなくて、知らないうちに覚えてしまった、という状態を、トレーニングによって導き出すのです。