あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2018年4月 6日
【特別寄稿 前編】日本サッカーに足らないもの~ハリルジャパンの現状から見える育成の課題
6月に開幕するW杯ロシア大会を前に、ハリルジャパンがもがいています。前大会までの中心選手から新世代へのバトンがつながらないという新旧交代の難しさはあるにしても、本番を想定したマリとウクライナ戦は1分1敗。結果もさることながら、内容も本番での修正を楽観できるようなものではないと思われました。
日本代表に何が足らないのか。
そして、今の代表の姿から見える育成の課題とは何か。
池上正さんに聞いてみました。(取材・文:島沢優子)
<<抜かれるとあきらめる。どう言えば切り替えの重要性に気づく?
■攻めの"厚み"を形成する「アイデアと意思」
「マリ戦もウクライナ戦も、相手と比べると攻撃の迫力が違っていました」
池上さんは、日本のボールを奪ってからの攻め上がりに注目します。
「中盤から前線の選手に当てて戻すでしょ。それを受けた選手が前に進んでいません。多くは止まったまま、もしくは下がりながらパスをする格好になっている。そのとき、例えば前にドリブルを仕掛けながら外(サイド)に出すなりすれば、迫力が出てくるのに」
つまり、攻めに厚みがないということです。当てて受けた選手が止まっているので、他の選手もゴールへ向かうスピードが下がり、二次攻撃が遅れてしまうのです。
「このところの代表でずっと出場している長谷部はバランサーの役割です。となると、あとの二人がいかに自分の役割を理解してプレーするかにかかってくるのですが、起用された選手が積極的に前に出ていかない。絡まない。バランサーが3人いるように見えました」
香川や本田らが中盤で躍動していたころは「彼らがフリーランニングをし、前を埋め、ゴールへ向かっていろんなことをした」。加えて、バックラインから前線に長いフィード(パス)も出たので、中盤が一斉に前を向いてプレーできました。だから、攻めに迫力があったのです。
また選手個々に、動きのアイデアと、連動しようとする強い意思が感じられました。
「国内組中心で戦った韓国戦も観ましたが、連動できていなかった。やはりジュニア世代から連動することの重要性を理解させ、トレーニングしていかなくてはいけません」
そう話す池上さんは2000年代前半、ジェフ千葉時代から「日本の選手に足らないのは、モビリティー(連動性、流動性)です」と話していました。
日本で、育成の見直しや重点化の必要性が言われ始めたのは2010年南アフリカ大会後からだと記憶していますが、池上さんはそれよりずっと以前から育成年代に連動することへの理解を促していました。
育成のエキスパートであるブラジル人コーチのジョゼと地域のトレセンメンバーのセレクションに立ち会ったときのことです。他のコーチが丸をつけた選手は、池上さんとジョゼが選んだメンバーとは見事に違っていました。
なぜなら、他の指導者たちはボールを保持してからのプレーしか見ていないからです。ですが、池上さんたちが探すのは、自分で考えて何かしようとする子。チャンスとみれば躊躇なくスペースに飛び込むような「ミニ香川」でした。
その意味では、ジェフ時代にロシアのU‐14チームにいた選手たちのプレーが印象深いです。ポジションがディフェンシブな選手でも、チャンスと見ればどんどん前線に上がっていくのです。連動しよう、攻撃に絡もうとする強い意思が見てとれました。
失敗を恐れず次々とチャレンジする選手の自由な発想を、コーチらはひと言も指示せず静かに見守る。そこにはゲームの勝敗ではなく、未来へつながる育成を理解している様子がうかがえました。
「未来につながる育成」を理解して改革を成し遂げたのが、ドイツでしょう。
1990年代に世界の頂点に君臨し続けたものの、2000年の欧州選手権(EURO)で惨敗。その直後から、ドイツサッカー協会はすぐに低迷した理由を分析しました。
その結果、「洗い直すべきは育成であり、ジュニアの育て方」という結論に到達したのです。そこから10数年を経て、2014年のW杯ブラジル大会で優勝。王者復活を見せつけてくれました。
「一対一やフィジカルの強さ、そしてゲルマン魂を強調してきたあのドイツが、インテリジェンスを育てることをジュニアから始めた。過去の強味に固執せず、世界のサッカーの潮流を分析し自分たちのやり方を否定したわけです。すごい勇気だと思う」
ブラジル大会の翌年の2015年、池上さんが訪ねたドイツ・レバークーゼンのコーチは確信に満ちたまなざしでこう言ったそうです。
「子どもに必要なのは試合だ。たくさん実戦経験を積ませたほうがいい」
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