あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2018年4月17日
【特別寄稿 後編】日本サッカーに足らないもの~日本代表の現状から見える育成の課題
■日本のサッカーに足りないもの
日本のサッカー選手に足りないのは「自己決定力」なのです。
「あの話を読んで、日本の子どもに自己決定力がないのは、やはり教育に問題があるとあらためて感じた」
池上さんはそう言って、ジュニアユースCriacaoの総監督を務める成山一郎さんと、順天堂大学スポーツ健康科学研究科教授の吉村雅文さんの対談の記事を教えてくれました。
「あの話」とは、吉村さんがオランダ在住時に同国の教育に言及したものです。
――自分の子どもがオランダのベーシックスクールに行っていたんだけど、クラスみんな手を挙げるんですよ。ずっと見てて不思議で仕方がなくて、先生に聞いたことがあって、「何でみんな手を挙げるんだ?日本やったらあり得ない」。でもスタートのところでベーシックスクールの先生は子ども達に「先生の質問の意味が分かったら、みんな手を挙げるんだよ、その後誰に当てるかわからないけど、間違ってても大丈夫だから。自分の意見を言って」って教える。
日本は「わかった人、手を挙げなさい」。日本の先生は答えを求めているんですよ。日本のテレビで海外の学校の授業風景を放送しているのを見て、さすが海外の子ども達は積極的に取り組んでいるんだなと感心する人が多いようですが、実は、もともと授業のスタートにあるのは、「先生の質問の意味が分かった人は手を挙げて」というのが海外の教育のベーシックになっている。それを聞いて僕もびっくりした。手を挙げて喋った子が間違っていても間違っていなくても、どうでもいい――(Criacao Channelより)
吉村さんは「人とものを喋るというのは、正解か間違いか、それを決めるだけの価値観で育っている」と日本の教育の危うさを語り、中学生を指導してきた成山さんは「ジュニアユース世代に対して感じる大切こととは、自分で考えて自分で決めて自分で責任を持って行動すること。主体性を発揮するということ」と応じています。
■論理力と言語力を伸ばしたいなら、大人はしっかり「聴く」こと
主張しない日本の子どもたちの資質について、「論理力と言語力が足らないからだ」とする向きもあります。
ですが、吉村さんや成山さんが語ったように、言葉で表現するためにはまずは「自分で決める」ことが習慣化されていなければなりません。
また、一生懸命しゃべってくる子どもが非常に少ない気がします。「ちゃんとしゃべれないと、大人に相手してもらえない」ことを知っているからではないでしょうか。
どんなに拙くても、大人が「ほう、そんなこと考えているの?それで?」と耳を傾けてあげることが、子どもの論理力と言語力を伸ばす第一歩でしょう。
もっと言えば、正否はどうだろうと「自分で考えた・決めた」を、「へえ、自分で考えたんだね」と認めること。話してほしければ、聴くことが重要なのです。
■個人練習をたくさんすると危険なことが起きる
池上さんが以前、ケルン体育大学で学んできたコーチに聞いた話ですが、「個を育てるためにと、個人練習をたくさんすると、実は危険なことがたくさん起きる」と言われたそうです。
危険なこととは何でしょうか。
それは、個人練習に時間を費やし過ぎると「他者を感じられない」選手になる、というものだそうです。
「チームで試合をしたときに、味方が次にどうしたいか、どんなことをすべきか。そんなことを感じられなくなる。感じられなくなるというよりも、他者を感じる訓練ができないと言ったほうが正確かもしれない」と池上さんは言います。
教育の"差"を、サッカーで埋めていかなくてはならない。
ドイツは育成改革の際、さまざまな研究やデータ分析の結果をもって「ミニゲームを中心に」「常に全員で」「もしくはグループで行うメニュー」に切り替えたそうです。
日本も、研究やデータ分析を生かした"本質に迫る改革"をする時期が来たのではないでしょうか。