あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2018年10月20日
個々の運動能力、理解力の差でうまくいかない。 小学1年生にパスサッカーはマイナスか?
スペイン人指導者の話を聞いて価値観の違いに驚いたコーチ。海外の指導法も取り入れようと思うんだけど「サッカーIQの高い子に育てる」をモットーに教えている自身のチームで、低学年からパス主体の考えるサッカー、フィールドを大きく使うサッカーは適していないのか? とお悩みです。
小1からパスサッカーは子どもたちの成長にとってマイナスになるのでしょうか?
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが授けるコーチングを参考にしてみてください。(取材・文:島沢優子)
<<上手い子たちが後片付けをしない。「ドリブルが上手ければそれでいい」の空気を変えるにはどうすればいい?
<お父さんコーチからの質問>
幼稚園生から小学6年生までのサッカークラブで指導している者です。
先日、スペイン人の指導者とお話しする機会があり、海外の少年サッカーの指導方法や考え方に触れ、価値観の違いに驚き自分のチームでも実践しようと思いました。
「サッカーIQの高い子どもを育てる」をモットーに、小学1年生からオフザボールの動き、ゴールまでのボールの運び方等を指導しています。
すぐに試合で結果がつかないのは分かっていましたが、小学生低学年だとサッカーの能力、知能差が違いが大きすぎる事に苦悩しています。
小学生低学年にパス主体の考えるサッカー、フィールドを大きく使うサッカーは適していないでしょうか。
また、1年生からパス主体のサッカーは子どもの将来にマイナスだと思いますでしょうか。
<池上さんのアドバイス>
スペインの指導者はサッカーをよく知っています。育成年代からきちんと教えている人たちですし、彼らのこの意見は間違ってはいないと思います。
まずは、小学生低学年にパス主体の考えるサッカーや、フィールドを大きく使うサッカーは適していないのか? という質問を考えていきましょう。
■選択肢は「パスorドリブル」だけなのか
力が弱く長いパスを蹴られない低学年の段階で、フィールドを大きく使うサッカーを指示してもパスが届きません。だから、小さいコートで行うわけです。
ただし、サイドチェンジがされてフリーでもらったら大きなスペース空いていることに気づく。そのときは前に運びなさい。それがサッカーだよ、ということは教えなくてはいけません。
日本の指導者のあまりよくないところは、「パスかドリブルか、どちらを教えるべきか」とすぐにこだわってしまうところだと感じています。
「パスか、ドリブルか」ではなく、「パスも、ドリブルも、どちらもある」ということを教えなくてはいけません。
ボールを回していると、ドリブルしなくてはいけない場面も出てきます。一方で、ドリブルだけでは相手を崩せないので、パスを回す場面も出てきます。
そのことを理解することが、相談者様の言う「サッカーIQ」でしょう。そして、このサッカーの本質は、小学1年生のサッカーでも変わりはありません。
■どちらかのプレーにばかりフォーカスするのは、サッカーIQが低いから
それなのに、日本の少年サッカーは「パスか、ドリブルか」にずっとフォーカスしています。それは、指導者のサッカーIQが低いからとも言えるでしょう。
パスとドリブル、両方をバランスよく使って、子どもは賢くなっていきます。
例えば、パスにこだわり過ぎると、こうなります。
パスしたので、当然のようにボールを渡す味方を探します。周りを見ます。ところが、自分にマークがいて、相手もマークされているためボールを出せません。
そこで、ボールを保持している子に「ちょっとドリブルしてごらんよ」と伝えます。マークを外すためのドリブルを教えます。ドリブルは、いつでも目の前の相手を抜いていくためのものと教えてしまうと、このことが理解されづらくなるので要注意です。
しかしながら、パスをすることを学んでいる子は、すぐに「ドリブルが必要なんだ」と理解できます。パスばかりする子から、ドリブルも上手く使える子にはすぐに変われます。なぜなら、視野が確保できて周りが見えているから、何のためにドリブルするかを理解できるのです。
ところが、ドリブルばかりしている子は「パスもドリブルも融合して使える子」になかなか変われません。それは視野が狭いからです。サッカー自体が、ドリブルで目の前の相手をかわすという発想になっています。
ドリブルで一人抜いても、次の相手が来たらどうするか。次の相手を抜くしかないと思っています。
よって、パスは小学1年生でも教えてください。パスができる子にドリブルを教えると、「こいつをかわせばパスできるぞ」と考えるので、プレーの幅は広がります。幅の広い選手を育てるほうが、成長はがぜん速い。それは、私が40年ほど指導してきた時間のなかで実感していることです。
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