あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2019年10月21日
【番外編】同じ年数サッカーしているのに強さに差が出るのはなぜ? サッカー大国ドイツの育成と日本の大きな違い
いつもは指導者の皆さんからのご相談にお応えしている本連載ですが、今回は番外編としてこの夏池上さんがドイツで視察してきた内容をお伝えします。
ジュニア年代が一番多く、年齢が上がるとともにプレー人口が減るピラミッド型の日本と違い、ドイツは子どもから始めたら大人までやめるプレーヤーがほとんどいない、逆三角形に近い。なぜならサッカーを好きでい続けられる環境や、プレーができる受け皿があるからです。
「日本とは環境が違う」という方もいらっしゃるかもしれませんが、サッカー大国ドイツの育成には、日本の指導現場でも参考にしたいこと、取り入れたい姿勢があります。
(取材・文:島沢優子)
■普段の練習一つとっても、上達に差が出る要因がある
夏の終わりに、ドイツの育成現場を視察してきました。今年で3回目。ドイツで長年育成コーチを務めている、サカイクでのおなじみの中野吉之伴さんが、案内係を引き受けてくださいました。
今回あらためて感じたのは、子どもたちが何かに煽られて必死でやっている感じがまったく見受けられないことです。ここは日本の小中高校生と大きく違ところです。
小学生が、左右の足で交互でボールを蹴るような練習をしていたときのことです。
全員、交互に蹴っていました。日本で似たような練習をすると、左足は得意じゃないから、右で蹴る、という子が必ずいます。日本の子は自分が下手なのを見せたくないわけです。
ところが、ドイツにはいませんでした。みんな練習をやる意味をちゃんと知っているからです。冒頭で伝えたように、そんなに必死に全力でやっているようには見えませんが上手くなるためにできないことにも挑戦する姿勢が見受けられるのです。
いかがでしょうか。
言われたことをきちんと理解してやっている子ども。
うまくやらないとコーチから刺激を受けながら、煽られながらやっている子ども。
私は、相当差が出るように思います。
■右足しか使わない日本人、上手くいかなくても左右を使うドイツの子
小学校高学年の練習に、ひとり日本人の子どもが入りました。このときはロングキックの練習で、時計回りで走ってきて蹴る、その逆に回ってきて蹴るといった動作を4か所に分かれて行っていました。
反時計回り、つまり左から回ると、蹴るなら右足になります。逆だと左足になる。そうすると、ドイツの子はコーチに何も言われなくても左右使います。
でも、日本の子どもは時計回りのときも右足で蹴ってしまうことがあったのです。動作がつながらないのでなんとなく不自然です。
これはその子の個人的な問題ではありませんでした。その時に参加していた他の指導者の方にも聞いたのですが、上手くできないことが恥ずかしいとか、叱られるとかというプレッシャーからか、できないことを隠してしまう傾向は多くの日本の子どもに見られるということでした。
この練習で、右利きらしいドイツの子は左足をうまく使えない子が何人もいました。でも、失敗して照れくさそうだったり、暗い顔をしたりする子はひとりもいません。つまり、「うまくできないことが恥ずかしい」と思っていないのだと感じました。
ただ、ただ、楽しそうに、でも、熱中してボールを蹴る。次はこう蹴ってみよう、もうちょっと体をたてて、軸足を踏ん張ってなど、自分でいろいろ考えながらやっているのだと思います。
■「そんなの無理!」日本の子たちが難しい課題にチャレンジしない理由
中学生の練習でも、すごくよくチャレンジする姿が目につきました。
ディフェンスの裏をとってゴール前に抜けだして、こんなふうにシュートしてごらん、とコーチが一度デモンストレーションをしたら、それをひとり3回ずつくらいやります。その後に、コーチが「じゃあ、ここからは自分たちで考えてやってごらん」と言います。
そうすると、ドイツの子どもたちは、コーチに教えられたかたちではひとりもやりません。
日本の中学生に「ここからは自分で考えてごらん」と言っても、きっとコーチが見せたかたちを繰り返す子が大半だと思うのです。そして、もしかしたら、そもそも「自分で考えてやってごらん」というコーチが少ないのかもしれません。
日本で「こんな練習をします!」と子どもたちに言うと、「いや、ぼくはそれは上手くないから、こっちをやりたい」言ったりします。特に難しい課題を与えられると、「よし、じゃあがんばるぞ」という感じになりません。「そんなの無理!」のほうが、圧倒的に多いのです。つまり、根本的にサッカーと向き合うベースが違います。
そのことを、一緒にドイツを訪れた日本人のコーチたちに話したら、みなさんうなずいていらっしゃいました。
ほかにも、3対2をやると、2人チームの方が、一人少ないから勝てるわけないよ! と言って真剣に取り組もうとしないことがあります。
少しでも難易度が高いと、チャレンジしなくなってしまいます。きっと普段から、少し難しいことをやって失敗すると、何か言われたり、言われないまでにもなんとなく嫌な雰囲気になる。ダメだったね、というネガティブな空気を恐れながら生きてきたのだと思います。
恐らく日本の大人たちが、うまくできないことを、悔しいとか、恥ずかしいと感じることを、子どもたちのモチベーションにしてきたのだと考えます。怒鳴ったり、声を荒げるといった方法しか知りません。
そのことによる悪い副作用が、失敗を恐れてチャレンジしたがらないマインドを作って来たのではないでしょうか。
ドイツでもコーチはポイントをアドバイスするほかは、子どもと楽しそうにトレーニングをしていました。
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