あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2019年12月13日
「ただ動き回ってバカじゃね?」入部したばかりの子を名指しでバカにする親への対応を教えて
「ルールも知らず動き回ってバカじゃねー?」など、入部して間もない子を名指しでバカにする保護者がいる。
言われた側から、そういう指摘を受けないよう家でポジションを教えたいと言われたが、それはコーチの仕事だし親がやらなくてもいいと言った。自分の対応間違っている? とのご相談をいただきました。
指導者の悩みで非常に多い「保護者対応」。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、保護者対応の「最適なタイミング」を教えてくれましたので参考になさってください。(取材・文:島沢優子)
<<練習時間がJFAの規定より長いことで選手たちへの弊害があるか教えて
<お父さんコーチからの質問>
U‐8クラスの指導をしている者です。
入部して日が浅い子の親からの相談を受けました。
試合中数名の親が、その方の子どもに対して「○○番あいつ誰? サッカールール知らずにただ動き回ってバカじゃねー? 守備なのに上がっていつてマジでバカじゃん? ○○番のバカな動きを動画に誰か撮って! 本当にあいつアホだわー」と騒いでいたそうなのです。
相談をいただいた親御さんが騒いでいる親たちの後ろでわが子の試合をムービーで撮影しているのに気づかずに、周りに聞こえる声で話していたらしく...。
その親御さんからは、わが子を名指しでバカにした親たちに怒ってはいないけれど、今後別の親から同じ事を言われないように家でポジションの説明をどのようにしたら良いか尋ねられました。
「ポジションは父兄でなくチーム(監督やコーチ)がするので家では説明しなくても良いです。また親の中にはいろ色々癖を持った人がいるので気にしないで」と返事しましたが、池上さんの考えをご教授頂けると幸いです。
最近は、託児所的に早くからスポーツを始める子も多くて、小3ぐらいから始める子は珍しいのかもしれませんが、だれだって最初から上手なわけでもないのにチームメイトをバカにするような発言をするのはどうかと思います。
現場を見ていなくて直接その親御さんたちに注意できなかったのですが、このような保護者達の対応についてもアドバイスをいただけますか。
また、子どもたちが、サッカーのポジションごとの動きを理解できるようになるお勧めの練習があれば教えてください。
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
以前、私の講演に来られたお母さんからこんな質問を受けました。
「自分はサッカーをやったことがないから、技術的なこともわからない。子どもに教えられるよう、自分が勉強しないといけないと思っている。どんな勉強をすればいいでしょうか?」
私はすぐに「勉強する必要なんてありませんよ」と答えました。
■親がサッカーのポジションについて話す必要はない
親御さんたちは、「今日も楽しかった?」とわが子が楽しくサッカーをしているかどうかを聞いてあげるだけで十分です。友達はたくさんできた? とか、そういうことで良いのです。
逆に、サッカー経験があってご自分のほうが詳しいと思っている方はつい口出しをしたくなります。ですが、何も言わず、サッカーのことはコーチに任せるほうが、子どもはのびのび取り組めます。
したがって、家庭でサッカーのポジションの話を親がする必要はありません。ご相談者さまがおっしゃったことで正解です。
もし、親御さんが話をするとしたら、その場でコーチが子どもに伝えた内容をしっかり理解しないといけません。「たぶんこういうことでしょ」といった憶測で話すと、子どもは混乱します。
そうではなく、もし子どもが「どうしたらいいのかわからないんだけど」と相談してきたら、「自分でコーチに聞いてごらんよ」と答えるといいでしょう。あくまでも自主性を引き出し、自分で解決できるようにします。
■バカにした保護者は個別対応でなく「最適なタイミング」で気づかせる
その次に質問いただいた「親御さんたちへの対応」は、バカにしたことを取り上げて個人的に話すのではなく、チームとしての指導方針をわかってもらうことに注力したほうがいいでしょう。
例えば、コーチが子どもたちに話しているところを、親に見てもらう。どんなことを伝えているかを聞いてもらいます。
それには、ハーフタイムが最適です。
私の場合、試合のときは保護者にベンチの後ろに来てもらいました。
「動きがわからない子がいたら、どうしたらいい? サッカーはチームでやっているのだから、助けてあげないといけないでしょ?」
ご相談者さまが指導する8歳くらいであれば、そういったことを話します。ほかにも、技術が他の子よりも抜きんでていて自分ひとりでやってしまう場合は、そういう子を少し抑えます。
「自分だけでサッカーをしていても、周りのみんなは楽しいのかな?」そんな問いかけも、保護者に聞かせる。そうやって、自分たちのやり方を伝えていきます。
私がチームをもって指導しているころは、ハーフタイムで私の話を聞いた保護者が「もっとポジションとか注意してください」と言うので、わかりましたと言って、ポジションを決めてそれぞれのエリアを教えました。すると、子どもたちはそのポジションから動かず、楽しそうにプレーしません。
これでいいですか? と親御さんに尋ねたら「わかりました。もとに戻してください」とおっしゃいました。ポジションをうるさく言わないようにしたら、子どもたちは自由に自分の意思で動き楽しそうに走り始めたのです。
こんなふうに指導を親たちに見せていくと、コーチが何を大事にして指導しているかを少しずつ気づく方もおられます。そのうちに、親同士で「コーチの狙いはこうなんじゃない?」と話してもらえるようになります。毎年、夏にドイツへ視察に行きますが、ドイツの親たちはベンチの後ろで応援しています。
■ドイツが導入した低学年の新しい試合形式「フニーニョ」とは
さて、サッカーのポジションごとの動きを理解できるようにするには? という質問もありましたが、そのドイツでやっていることをお伝えしましょう。
ドイツは、10歳以下を3対3の試合に変えようとしています。それは、こんなやり方です。
小さなコートにミニゴールが4つ置かれます。シュートエリアも決められています。遠くからは打てないので、3人でゴール前までボールを運んでいかなくてはなりません。全員が攻撃するし、全員が守らなくてはならない。ポジションはなく、みんなにシュートチャンスがある。しかも、4ゴールなので、視野を広く持っていないと攻撃できません。まさしくオールラウンドな育ち方ができます。
この試合形式は「フニーニョ」と呼ばれます。これは昨年の国際コーチ会議でドイツの大学教授が「新しい低学年サッカーの在り方」というテーマで講義とトレーニングのデモンストレーションをしています。これまでは5対5とか7対7だったのですが、3人なのでさらにボールを触る回数が増えます。「フニーニョ」が浸透すれば、ドイツの育成はさらに前進することでしょう。
一方の日本は、子どもをどう育てるかが、チームに任されています。もっといえば、それぞれのチームのコーチに任されています。指針がありません。小学生に11人制が消えてようやく8人制になったかと思えば、小学6年生の夏を過ぎると「もうすぐ中学生になるから」という理由でカップ戦は11人制で行われることが多いのが現状です。(千葉県は中学1年生は8人制にしようと動き始めています)。ドイツでは8人制はありません。