あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2020年9月25日
U-10年代の運動能力を高めたい。サッカーの時間にできるお勧めメニューを教えて
U‐10年代におすすめの、子どもたちの運動能力を高めるメニューを教えて。という指導者からのご相談です。
自分の身体を自由自在に動かせるようになるほうが競技のスキルも伸びるとされていますが、忙しくて色んなスポーツや運動経験をすることが少ない現代の子どもたちに、サッカーの時間を使って運動能力を高めるメニューが知りたいとのこと。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、神経系、筋力系を刺激し瞬発力(アジリティ)や調整力を伸ばし、その年代に沿った体幹をつくるお勧めメニューをご紹介しますので参考にしてみてください。
(取材・文 島沢優子)
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<お父さんコーチからの質問>
チームは小学生年代全般が所属しており、日にちや時間帯でそれぞれの学年を担当しています。
今回はU‐10世代について相談です。
過去にも「ボールを投げられない」など近い相談があったようですが、子どもたちの運動能力を高めるためにサッカーの練習時間の中で何かできることが何かあれば教えていただきたく思います。
というのも、世間ではマルチスポーツが推奨されているのは知っていて、自分も賛成なのですが現代の子どもたちは、ほかのスポーツ、運動を体験する機会が少ないような気がするのです。
私のチームも週2日は休みを設けていますが、少年スポーツも何だかんだ練習が多いですし、小学校から塾に行っている子も増えてきているのでスポーツの掛け持ちをすること自体が難しいというのも理解します。
中にはサッカー上達のために専門のスクールに通う熱心な親子もいますが、とにかく複数のスポーツを並行してやっている子は多くないと思います。やっているとして水泳などです。
また、今年は夏休み自体が少なかったですが、例年は合宿や遠征、大会参加などもありサッカー漬けになります。
好きで楽しんでくれるのはありがたいですが、やはり小学生年代からの競技への専門特化によるデメリットも気になるのです。なので、サッカーの時間のなかで全身を使って運動能力を高められるメニューなどがあれば教えていただきたく思います。
<池上さんのアドバイス>
ご相談いただき、ありがとうございます。
10歳以下は小学3~4年生の子どもたち。スポーツのスキル習得など、さまざまなことを吸収しやすいゴールデンエイジと呼ばれる年代の前半です。
■様々な運動が複合的に組み合わさったサーキットトレーニングがお勧め
この年代は、全身をバランスよく動かすことが大切です。よって、さまざまな運動が複合的に組み合わさったサーキットトレーニングをお勧めします。例えば、ジグザグで進む。走る。ジャンプする。でんぐり返る。そのような動きが入ったものを、練習やゲームのウォーミングアップでやってみてください。日本サッカー協会も、トレーニングに鬼ごっこなどを取り入れることを推奨していますね。
これらは、神経系、筋力系を刺激していくものです。瞬発力(アジリティ)や調整力を伸ばし、その年代に沿った体幹(※胴回りの強さ)をつくります。子ども自身が、こうしたいとイメージしたとおりにスムーズに動けるようにすることを助けるメニューが、サーキットトレーニング。個々の運動能力をアップさせるためのものです。
ここで気をつけるべきは、サーキットトレーニングが「サッカーのドリルトレーニングとは違う」ということです。じゃあ、いつもやっているジグザグドリブルの時間を増やせばいい、というわけではありません。
コーンを置いてのジグザグドリブルを何か月も続けてしまうと、そのタイミングでしか曲がれなくなります。同一距離で曲がっていくのですから、それが試合で使える技術ではないことはおわかりいただけると思います。サッカーはその都度、状況に応じて選択するプレーは変化します。それを素早く認知する能力が重要です。
理論的にいうと週二回。何か月か続けると向上していきます。すぐに目に見えて効果が出てくるものではありませんが、3か月くらい続けていくと変わってきます。ただし、個々に変化の速度には差があることと、あくまでも楽しく取り組むことを忘れないでください。
■現代の子どもたちが苦手な「跳ぶ」は、空間認知にもつながる
メニューについては、ネットで検索するとたくさん出てきます。例えば「サッカー協会・キッズ・トレーニング」などと打ち込んでみてください。
歩く・走る・スキップする。人間の動きにはいろいろありますね。跳ぶ・ボールを受ける(キャッチする)・投げる・蹴る。様々な運動動作が入っているものを取り入れてください。
なかでも、今の子どもたちが一番弱いのは「投げる」動作でしょうか。サッカーばかりやっていると、特にそうなってしまいます。あとは、ジャンプ系。昔の子どもは木登りをしたり、高いところにつかまろうとしたり、跳びついてぶら下がる、といった動作を野外の遊びのなかでやっていました。ジャンプする動作は重要で、空間認知にもつながっていきます。成長するにつれ、ヘディングが出てきますし、コーナーキック時など空中での争いも増えます。
ところが、外遊びをしなくなった子どもたちは、日常の動作で「跳び上がる」がほぼありません。特に都市部の子どもたちに言えることです。縄跳びも学校によっては技を競わせてやったりするところもありますが、日常からは減りつつあります。女子のゴム跳びも跳躍運動につながるのですが、今はほとんど見ません。
加えて、ご相談者様が「世間ではマルチスポーツが推奨されているのは知っていて、自分も賛成」と書かれているように、小さいときから複数のスポーツに親しむことで身体はバランスよく鍛えられます。
■ほかのスポーツの動作を応用するなど、考える力がつく
もうひとつ効果があるとすれば、マルチスポーツを選択している子どもは自分で考える機会が多いことです。例えば、スローイングの動作など、野球のときはこうだったけど、これはサッカーで使えるかな? と考えられるかどうか。ここが鍵になります。自分たちでスポーツが上手くできるようになるために、自分で考えて答えを導き出す。野球のコーチがこう言ってたなあ、などと関連付けることができます。
野球とサッカーで考えると、サッカーのコーチが野球を並行してやっている子に期待するのは空間認知です。今、自分は一塁を守っている。相手の打球がこう飛んだ、こうしたらいいかな? 内野ゴロだとダブルプレーになるからこうしよう。そんなふうに予測して、ポジションをとる。そういった頭の訓練もできます。そういった予測する力を、サッカーにも転化して活かせるはずです。
マルチスポーツを経験している子どもは、成長するにつれてやりたいものが増えていきます。やりたいことを新たに始めることを躊躇しません。他のスポーツの楽しさも知っているからです。それはとりもなおさず、その子の生活そのものが豊かになるということに違いありません。
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