あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2021年1月22日
サッカー初めての子たちに楽しく基礎を教えるメニューが知りたい
職場でU‐8以下の子どもたちを指導することになったけど、自分自身はサッカー経験なし。初めてサッカーをする子たちばかりだけど、楽しんで基本が身に付くような練習はある? とお悩みのコーチよりご相談いただきました。
長くサッカーを続けるためにも、サッカーに出会う時期の楽しさは大事ですよね。現在低学年や未就学児に指導されている方も池上さんのアドバイスを参考にしてください。
これまでジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、この年代への指導で大事なことをお伝えします。
(取材・文 島沢優子)
<<何をやっても楽しそうじゃない子のテンションを上げる練習を教えて
<お父さんコーチからの質問>
こんにちは。職場の幼稚園、小学校低学年でボランティアコーチをしています。
自身はプレーの経験は無く、元2級審判員です。今は3級で現役です。
これまでも何回も聞かれているかもしれませんが、サッカーが初めてのこの年代に楽しみながら基本を教えるには、どうすれば良いでしょうか?
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
メールに「サッカーが初めてのこの年代に楽しみながら基本を教えるには、どうすれば良いか?」とありますね。ご相談者様がおっしゃる「基本」とは、ボールを蹴る、運ぶ、止めるといった主には個人スキルを想像されていると想像します。
しかしながら、サッカーは自分以外の仲間がいますね。その仲間とパスをつなぎながら、相手にボールを取られずシュートまでもっていく。そしてゴールを狙う。それがサッカーです。たとえ幼児だろうと、指導はそこから入ってほしいと思います。
ところが、未就学児や小学校の低学年にミニゲームをしてもらうと、団子になります。特定の子どもだけがドリブルをし、他の子が追いかけて行くような場面が多く、ボールを扱う子どもが限られてしまいます。そのため、ボールを扱えるように、止める、蹴るを体験できる対面パスやコーンドリブルの時間が増えていく。そんな傾向があります。
■「まだ団子サッカーで仕方がない」ではダメ
先日、千葉県柏市サッカー協会からの依頼で、セミナーを開きました。その際に町のクラブの方から、団子サッカーをどう解消したらいいか? といった質問がありました。
多くの方が「まだ幼稚園だから団子で仕方がない」と考えているようです。しかし、そのままにしておかないでください。そこからどうサッカーにつなげるか。指導者の方に対策を立ててほしいのです。仲間とつないでいくのが当たり前のこと。それがサッカーだという認識を持てるよう子どもを育てる必要があります。
団子サッカーを卒業させようと考えた場合、子どもたちに「団子にならないようにしよう」とか「団子にならないで広がって」と指示することが少なくありません。ところが、言っても、言っても、団子になってしまう。指導者は途方に暮れます。
■団子サッカー解消のためにどうすればいいか
では、どうするか。
まずは、子どもたちに、自分たちがどんな状況になっているかを理解してもらいます。
「いま、どんなふうになってる?」
問いかけると、子どもなりの意見が出てきます。
「○○君は僕の味方なのに、僕のボールを取りに来る」
「人がいっぱいいるから前に行けない」
2、3人だけでなく、みんなに尋ねてみてください。そういうことを認識させることが大事です。
そのあとで、「なるほど。みんなそんなことを感じているんだね。じゃあ、どうしたらいいかな?」とまた問いかけます。そして、それぞれが「みんな広がってみる」とか「空いてる人にパスする」と、対策が出てきたら、「じゃあ、そこに気をつけてやってみよう」とまたミニゲームをやらせます。
子どもですから、もちろんすぐに「自分で気をつける」ことはできません。が、やりながら、コーチからも、考える材料になる問いかけをします。
「味方の近くにいるのと、遠くにいるのとでは、どっちが相手からボールを取られないかな?」
そんなふうに話し合いながら練習を進めてください。そのとき、決して答えを言わないでほしいと思います。
■手取り足取り教えることが指導ではない
以前、私が日本人コーチの佐伯夕利子さんが所属するスペインのビジャレアルの5歳児たちのミニゲームの動画を見せた時のことです。
幼児でもパスをつなげることを見せて、「ここまでに育てるのに2~3年かかるそうです」と話したら、参加していた方がこうおっしゃいました。
「私はそんなに我慢できません」
日本の指導者は、どうも早く結果がほしいようです。
コーチが我慢する、しないの問題ではないことを理解してほしいものです。子どもたちにサッカーがどんなスポーツかを教えるには、前述したようにやり取りしながら理解を深めていく「時間」が必要不可欠だということをわかってもらえないでしょうか。
「コーチがこんなに言ってるのに、どうして君たちはやらないの?」
「やらないから上手くならないよね」
そんなふうに責めたり、手取り足取りして教えることが指導だと思っていませんか?
子どもたちを「一日も早くうまくしなければ」と思っていないでしょうか?
何かができたら、次はこれというふうに、進み具合を大人のほうで決めて、そこに当てはめようとしてしまう。そこに追い付けない子どものことを心の中で否定したり、成長をあきらめていないでしょうか?
指導に決まったマニュアルはありません。いま、目の前の子どもは上手くできないかもしれません。ただ、大人の目には見えないけれど、前述したように考えさせる指導をしていけば、子どもは日々何かを獲得するはずです。
ビジャレアルの子どもたちも、そのようにしてサッカーの認知度を上げたのだと考えます。
■サッカー経験がなくてもできる、子どもたちが自分で考えるようになる「問いかけ」
また、「上手くなってもらうには、どんな声がけをしたらいいですか?」という質問をよく受けます。
すでにお伝えしたように決まったマニュアルはないので、こう声をかければ上達する、という魔法の法則はありません。
あるとすれば、いまのどう? うまくいった? というような問いかけです。子どもが自分で考え始めるきっかけになる問いかけは、別にベテランでなくても、サッカー経験者でなくても、誰でも聞けます。
考え方を理解してもらえれば簡単なことです。ただし、この問いかけを続けるには、そういうことが必要であることを大人のほうがきちんと理解していなくてはいけません。ミスパスを「それはミスだね」とだれにでも言えますが、それは指導ではありません。そういったことを理解してもらわなくてはなりません。
■問いかけと対話を重ねて子どもたちの視野を広げてあげる
ミスパスがあれば、「いま、誰にパスしようと思ったの?」と聞くことができるコーチになってください。
「だってあそこに味方がいたんだもん」「右に味方がいたから」と答えれば、「じゃあ、左にいたのは見えた?」と尋ねる。そうすれば、「じゃあ、右も左も見られるといいね」となります。
その次に「両方見ました」と言ってくる日が来ます。そのときは、じゃあ、その選択はどうだった? となります。対話だけをみても、その子どもが進化しているのがわかるかと思います。選ぶのはその子の権利。コーチの役目は、視野を広げてあげることなのです。
次ページ: 「こっちでしょ」コーチが答えを教えると、ほかの可能性を見逃す