あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2021年5月14日
どんな時に味方に声を出せばいいのかわからない子どもたちに理解させる練習はある?
小6だけど、プレー中どんな声を出せばいいかわかっていない子どもたち。自分のプレーで手いっぱいで周りを見る余裕がない。
コーチもサッカー経験がなく、どんな場面でどう声を出させればいいのか上手く指導できない。 とのご相談をいただきました。みなさんのチームではどうしていますか?
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、ご自身も実践しているメニューを例にアドバイスを送ります。
(取材・文 島沢優子)
<<目的は一緒なのに、コーチ間で練習メニューやアプローチに相違が。指導方針のギャップを埋めるにはどうしたらいい?
<お父さんコーチからの質問>
こんにちは。
地方のスポーツ少年団で6年生の指導をしています。サッカー経験はほとんどなく、前任の指導者が引っ越されることになり、お父さんコーチとして補助していた自分が引き継ぐことになりました。指導は3年目です。
池上さんの本やサイトの記事なども読んで勉強中ですが、質問したいことは「どういう声を出させたらいいのか」です。
小6でしょ? と思われるかもしれませんが、自分のプレーで手いっぱいで、周りをよく見る余裕や味方に声をかける場面がほとんどないのです。
どんな時に声を出せばいいのか、サッカーをまだわかっていないという事だと思います。私がそれをちゃんと教えられてないということでもありますが......。
中学以降もサッカーを続ける子はいると思うので、今のうちに声を出して味方をサポートすることを教えたいのですが、何かいい練習方法はありますでしょうか。
チームのメンバーは14人で、全員同じ学校の子たちです。学年に1クラスしかない地域なので、みんな未就学のころからの付き合いなので、声をかけにくいということはないと思います。
<池上さんのアドバイス>
ご相談、ありがとうございます。
子どもたちは、周りが見えていないのでしょう。その点も考えながら、私が実際にやっている声を出すためのトレーニングを紹介します。
■まずは仲間の声を聞くことを意識させる
まず、事前に以下のような説明をします。
「パスをもらいたいときは、パス! って声をかけてください。そして、ボールをもらった人は、また他の人からパス! と言われたら、パスをします」
これは7~8人くらいでやります。人数は適当に決めていただいて大丈夫で、もっと少なくてもかまいません。最初は、ディフェンスはつけずに、みんながフリーランニングしている状態で、ボール持ってドリブルしながら周りを見ます。周りも動きながら「パス!」と呼ぶ。呼ばれたら必ず、そこにパスをします。一度に3人くらいから呼ばれることもあります。誰にパスするのかは、無論ボール保持者が決めてパスをする。そういう練習です。
これは、声を出してパスを呼ぶ、つまりコーチングも大事ですが、仲間の声を聞くトレーニングでもあります。ずっと「パス!」と言っているのに、聞いてないことがよくあります。そうすると、子どもたちは声を出さなくなりますね。そんな現象を注意深く観察してみてください。
■慣れたら守備をつけレベルアップ
慣れてきたら、例えば「7対1」にして、ひとり守備をつけます。ただ、やることは同じです。声が聞こえたら、必ず呼ばれた人にパスをする。複数の声がかけられますから、ディフェンスの位置を確認してボールをカットされない、取られないような味方に出さなくてはいけません。声を出していない人にはパスしません。
最初にやると、子どもたちは一斉に「パス! パス!」と呼びます。そこを少しずつ整理してあげます。
例えば、呼ばれた方向に守備者がいないときは、呼ばれたらすぐに出せます。そういうことを考えて、やってもらいます。そうすると、パッサーは自分の体が向いているほうにパスをします。そこで「もらったら、なるべく早くパスしよう」と言います。後ろから呼ばれたからと言って、ターンしていてはボールを素早く出せません。たくさんの声を選んで、できるだけ早くパスができる人を選ぶように促します。
そうすると、子どもたちは、自分が受け手になったときに、周りを見ていないとパスをもらいづらいことがわかります。パッサーがどちらを向いているか、味方はどこにいるか。自分はもらいやすい位置なのか、そうでないのか。そこを学ぶと、徐々に声を出すタイミングが絞られてきます。
■状況判断ができるようになると、かける声のレベルが上がる
ボールをもらうためにはどのスペースに走り込むのか。視野と判断が求められます。例えば、ディフェンスの子から一番遠いところを選ぶ。もしくは、ディフェンスが自分の近くにいれば、そこは安全ではないから声をかけないでおこうという判断もできます。「僕には今、守備がついてるから」と気を使えます。
そんなふうに「パス!」と呼ぶだけでなく「こっちにはパスしちゃダメ」という声も出てきます。そうなると「左が開いてるぞ」「右が開いてるぞ」と自分がかかわらないところにもコーチングするようになります。そういう声が出始めたら、「いい声だ」「ナイスコーチング」と褒めます。
そんな練習を5~6回やれば、声を出すようになります。声を出すように! と認識を。うまくいくようになったら、デイフェンスを2人にしたり「声を出さずにやってこごらんよ」と一段ハードルを上げてもいいでしょう。声がないので、そこにはさらに判断が生まれます。声出されたからパスを出すのではなくて、パッサーが自分で選ぶという判断です。
■練習でやったことを試合で使わなければ意味がない
私が今、一番気になっているのは、練習のときは元気なのに試合ではそうでない子どもたちです。まさしく、練習でやったことを試合でやっていません。もちろん、練習したからすぐ使えというのは難しいのですが、トライしてもらうことが肝要なのでミスしても叱らずにどんどんやってもらいましょう。
「リアリティのあるトレーニングをしてください」と日本サッカー協会も言っています。
「今練習したこと、使った?」と確認してあげてください。特に、小学生は夢中になると、考えなくなります。したがって、その日の試合は、その日やその週に練習したことをやるよう、コーチが仕向けてください。そうでなければ、練習をやる意味がありません。
「今週練習したのだから、フリーのときは声を出そう」
そんな声が子どもたちから聞こえてくるといいですね。
■大きくて速くて強い、以外の武器を持ってないと中学、高校で困る
先日、高校生の試合を見に行きました。ボールを繋ぐサッカーを2年生はできるようですが、3年生は裏に蹴って競争をしてしまうサッカーになってしまう引退試合だったので、3年生中心に試合をしました。すると、どんどん蹴ってしまいます。対戦相手もそういうタイプだったので、そうなってしまったのかもしれませんが、ほぼ制御不能な状態です。監督さんは「こうしかできないんですよ」とあきらめ顔でした。
そういう選手たちが育っています。「考えながらやるよ」などと言われずに育ってしまったようです。勝つために頑張ろうという感覚で育った子たちです。そうなってしまうと、スピードが速い方が勝てるし、体が大きいほうが強い。それ以外の武器を持っていなければ、中学、高校と上に行ったときに困ってしまいます。
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