あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]

2021年6月18日

サッカー経験者だが感覚でやってきたので教え方がわからない。U-8からU-12年代は何から教えればいい?

高校までサッカーをしていて、今年初めてチーム指導に携わる。サッカー経験はあるけど、誰かに教わって技術が上がった覚えがなく感覚でプレーしてきたので、教え方がわからない。

U-8からU-12年代の小学生を指導するとき、何からどう教えていいのか、お勧めのメニューなどを教えてほしい。という新米コーチからのご相談をいただきました。

今回もジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、ご自身のアカデミーでも実践している方法などを元にアドバイスを送ります。
(取材・文 島沢優子)

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(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)

<<ベテランコーチも呆れるほど集中力が続かない子どもたちを集中させるにはどうしたらいいか教えて

 

<お父さんコーチからの質問>

最近初めて指導者側に立たせて頂いた者です。指導年齢はU-8からU-12です。

自分自身少年サッカーから高校サッカーまでやって来ましたが、誰かに教わってサッカーの技術が上がった覚えがなく、いわゆる感覚でサッカーをしてきました。

ですので、いざ指導者側に立ってみたら、感覚でやってきた私にとって小学生にどう教えたらいいのか、どう教える必要があるのか、がわからなくて。

サッカーが好きなら自分で沢山の時間をサッカーに費やしてどんどんうまくなっていくものなのかな? と考えてますが、ある程度の基礎知識、技術はこちらから与えるものだと思います。

この年代に初めて教えるとき、どういった指導をしたらよいのでしょうか。

指導法や何から教えるか、お勧めの練習メニューなどがあれば教えてください。

 

 

<池上さんのアドバイス>

ご相談ありがとうございます。

高校までサッカーをやってきて、初めて指導者側に立ったとあります。お子さんのことが書かれていないので、お父さんコーチではなくもしかしたら20代くらいの若い方でしょうか。

「ある程度の基礎知識、技術はこちらから与えるものだと思います」と書かれてますが、その「教えたい技術」が日本的なものであってほしくないと考えます。日本的なものとは、コーンドリブルや対面パスなど実践的でないメニューを繰り返したり、コーチからこうしなさい、ああしなさいと一方的に指示命令される練習を指します。

基礎練習は必要ですが、実践的な練習の中でも十分養えます。2対1や3対2など数的優位がつくれる練習を行って、子どもたちに「味方を使うためにはどうしたらいい?」「仲間と協力してボールをつなぐには、どこにいけばもらえる?」と尋ねて、子どもたちに考えさせましょう。

 

■ドリブルやパスを教える前に伝えるべきこと

この連載でも何度か書かせていただいていますが、まずはサッカーの認知(能力)を高めてください。

サッカー先進国であるドイツ、ブラジルなど外国のコーチの本を読むと「日本は戦術的なことをやる(練習で行う)のが遅すぎる。子どもがサッカーを理解していない」と書かれています。

つまり、私たち少年サッカーの指導者が子どもに伝えるべきは「サッカーってこんなスポーツだよ」「こういう成り立ちだよ」ということです。ドリブルの技術やパスを正確に蹴ることだけではありません。

 

■3人目の動きは低学年で知っていてほしい

例えば、3人目の動き。高校までサッカーをやっていたということですが、相談者様ご自身は高校で知ったのではないでしょうか。でも、これを高校生で理解するのでは遅い。3人目の動きは低学年で知っていてほしいのです。

例えば、ドイツの小学生は「フニーニョ」という3対3の試合をたくさんやります。この年代であれば、大人に言葉やホワイトボードで説明されて理屈でとらえるわけではありません。いつの間にか3人目の動きができています。

「自分がどこに行くと、もらえるか?」

理屈じゃないところからスタートするのです。それを実現すべく、ドイツでは近年フニーニョを積極的に取り入れています。先進国ですら、育成年代をどう育てればいいのか、何が必要なのか、どう変えなくてはいけないのかと試行錯誤しています。この姿勢を、サッカー後進国である私たちも学ぶべきです。

ドイツなど欧州の子どもにできて、日本の子どもにできないわけではありません。そういう育ち方をしていないだけです。

 

■サッカーの認知力を高めるためには試合を観よう

以前は、サッカーの認知度が低いのは、暮らしの中にサッカーの文化が育っていないからだと考えられていました。しかしながら、Jリーグができて、今では親世代にもサッカー経験者が増えています。と同時に、有料テレビで海外のサッカーをふんだんに観戦でき、どこにいてもネットの動画で観ることもできます。

子どもが親と一緒に欧州チャンピオンズリーグを観られる環境になってきました。海外の試合を多く見ることで、子どもも大人もサッカーの認知力が高まります。

 

■池上さんが実際に行っている指導法

では、実際に私がどう指導しているかをお伝えしましょう。

先日は、私が運営する「IKOアカデミーFC」の子どもたちに、ポジションの理解をしてもらいました。

例えば、右のサイドバック。「君のポジションここだよ」と言ったら、自分たちのゴールに向かって右側を守る役割があります。ところが左に行ってしまうことがあります。そのときは周りが気づいて声をかけてあげたり、自分で気づいてポジションを修正することが必要です。右を守る人はしっかり右を。センターバックは真ん中を守る。この基本的なきまりを、最初の入り口で伝えてください。

そこから「守備の人でも、チャンスのときは攻めていいんだよ」と発展させていくことです。「あまり決めつけてしまうと、ディフェンスの子が攻めなくなるのでは?」という質問を講習会でも受けます。

しかし、絶対やらなければならない基本を忘れないよう指導する必要があります。そのなかで、ポジションを変わりながら、役割を果たすことができるようになります。

 

■日本の子が圧倒的に不足している「経験」とは

練習していくと、子どもたちから「バランス」という声が出てきました。ほかにも「おまえ、右バックだろ。戻れ!」とコーチングができてきます。一方、攻撃になると、ボールをコントロールしてつなげる状態だったのにドカンと蹴ってしまった子どもに対し、「空いてるやつ、いたよ。つなごうよ」とコーチングできます。

ぜひ、子どもも大人も海外の試合をたくさんみてください。

「攻撃のとき、選手はどうしてる?」「守備のときは?」「フォワードも下がってきて守ってるよね?」と子どもの認知を刺激してください。攻撃のポジションにいる子は、守備の意識がほとんどありません。

指導者も、1対1になったらドリブルで抜き去ってシュートを打てと教えてしまいます。フリーの味方を見つけたり、数的優位の状態に気づいてパス交換をして崩すトライをしないので、ジュニアの6年間でそういった経験が圧倒的に不足しています。

 

■久保建英選手が安定的に起用されないのは、日本での指導が原因!?

アルビレックス新潟を率いるスペイン人のアルベルト・プッチ・オルトネダ監督は、バルセロナでアカデミーコーチやダイレクターを務めています。10歳だった久保建英選手に入団許可を出した彼は、現在の久保選手について「ボールを持たないときのプレーに課題があるから、(スペインで)安定的に起用されない」と語っています。

その点は私も同感です。久保選手がボールを持ってゴールに向かうとワクワクしますが、ボールがないときにスペースを作るなど有効な動きが欲しい。それを身につけるとひとつ階段を上がれると思います。オルトネダ監督も同じ見方だと思います。

彼は育成年代の途中、中学、高校年代で日本に帰国しました。あのままヨーロッパに居たら、変わった育ちをしたかもしれません。これは多くの指導者が口にすることです。であれば、日本の育成を、そうしたことを伝えられる指導環境にすればいいのです。そのために私たち指導者は、サッカーの認知という部分に注目すべきです。

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練習メニューは「なんでもいい」、それより大事なことがある

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