あなたが変われば子どもは伸びる![池上正コーチングゼミ]
2023年10月27日
動きながらボールを受けてパス、海外選手のように流れるようなプレーを身に付けるには、どんな指導が必要なのか教えて
なぜバルサの子どもたちは、動きながらボールを受けてそのままパスを出せるのか。止まる・蹴るの動きが全然違う。流れるようなプレー、その判断スピードなどレベルが高い。
そのようなスキルや判断を身に付けるには、いつからどんな練習をすればいい? という、この夏バルサの子たちを見たお父さんコーチからの相談。
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、海外の育成や、いつからどんな練習をすればいいかをアドバイスします。
(取材・文 島沢優子)
<<ドイツと日本の育成年代で大きく違うところは? 指導経験が浅くてもマネできる練習メニューを教えて
<お父さんコーチからの質問>
こんにちは。私は街クラブでU-12年代の指導者をしています。
大会で上位に入るような強豪ではないのですが、長期的な視点でサッカーの本質を理解させるような育成を心がけています。
先日この記事を見ました。(「止めて蹴る」ではなく「止めながら運ぶ」へ 止める蹴る運ぶのクオリティを高めるためにセレッソ大阪が取り組むこと)
近所なので大会を見に行きましたがまさにその通りで、日本の子たちは止めて蹴る(それでも相当上手いと思います)に対して、バルセロナの選手たちは流れるようにボールを受けてドリブルしたりパスを出すので、プレースピードが違いました。
相手にボールを奪われないようにプレーするには必要なスキルですが、これを小学生年代で身に付けるためには、いつごろからどんな練習をすればいいのでしょうか。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
バルセロナの子どもたちが流れるようにボールを受けたり、パスが出せて、プレースピードが速いのはなぜか。まず、そこを考えましょう。
■バルサの子たちが流れるようにボールを受けたりパスが出せる理由
私は彼らが小さいときから試合に必要な技術を学んでいるからだと思います。それは止める・蹴るといった足元の技術ではありません。
パスの受け手はいいポジションに動く。出し手はそこにパスしようとします。スピードに乗ってボールコントロールし、相手を出し抜く。そういったことをジュニアの時期に学習しています。動きながらコントロールする。つまりスピードに乗ってコントロールしたほうがチャンスになることを理解するので、正確にコントロールすることの価値を実感できます。
小学1年生から動きながらパスをするトレーニングをします。うまくいかなくてもいいし、ミスが起きてもいい。その都度「どう動くか」を理解させ、動けるよう育成しているのです。練習では、止まったままプレーさせません。ひとりでやる練習は非常に少なく、ほとんどのメニューが2人以上で行うものです。
■育成の順番が大事、認知力を小学生年代で会得させるための順番とは
一方の日本の小学生は、周りを見たり、スペースを探してタイミングよくパスを受けたりできません。その大きな原因は育成の順番が違うからです。この連載でも何度か説明したように、バルサや欧州の強豪国は「認知→判断→実行」の順番です。サッカーの成り立ちを理解するのです。
認知力を小学生のうちに会得します。このため練習メニューは対人のオープンスキルを磨くものが大半を占めます。だから2人以上で行うものが増えるのです。
ところが、日本では長年にわたって「小学生はまずクローズドスキルの練習をさせましょう」と始めるケースが少なくありませんでした。これでは認知能力は育ちません。ちゃんと順番通りに育成しておかないと、もっと上でプレーするとき選手は大変になります。
■海外移籍した選手たちが「日本とは別のサッカー」と発言する理由
過去にも欧州でプレーした日本人選手たちが「日本とは別物のサッカーだった」といった主旨のことを発言していますが、彼らは欧州で「周りを見たり、スペースを探してタイミングよくパスを受けたり」できる認知・判断能力の重要性を実感したのではないでしょうか。
それを欧州では小学生時代に育んで、中学や高校といったユース年代で技術のところをしっかりやります。したがって、日本の指導者はまずその場で止まってやるトレーニングはやめたほうがいいと思います。そんな話をすると、みなさん「それでは足元の技術を磨けないのでは?」と不安そうにおっしゃるのですが、そんなことはありません。
■多くの子が「自分のやりやすい方法」に変えてしまう
例えば私のスクールのトレーニングは最初に鳥かごをやります。それだと動きが少ないので、2人でシザースパスをします。40メートルくらいの距離でしょうか。動きながらパス交換して最後にシュートです。
そのなかで、自分の味方が自分の右側にいると、左足を使ったほうがパスしやすいです。動きながらなのでアウトは使いづらいです。そこで、行きに右を使った子は、帰りは左を使うように話します。右利きの子は総じて左は苦手なのですが「絶対に使ってください」と言います。
ところが、半分くらいの子どもが、行きも帰りも使いやすい右足を使います。これは下級生だけでなく、6年生になってもそんなことが起きます。「絶対に換えてね」と言ってもやりません。ほかでも「パスはダイレクトでやるよ」と言ったときも、やっぱり2タッチにしてしまいます。ダイレクトでやろうとしてできないのではなく、やりやすい方法に変えてしまうのです。そこにあまり罪悪感がないというか、そこをちゃんとやらなければという意識がありません。
■できないことをできるようにするのが練習
なぜそうなってしまうかというと、コーチの言う通りに利き足でないほうでパスしたり、ダイレクトで返すとミスになりやすい。そこに抵抗があるのと、「できないことをできるようにするのが練習だ」とあまり思っていない。できないから、利き足で全部蹴ればいいし、無理ににダイレクトで回さなくてもいい。そう思っているのかもしれません。
そんなとき、私は「右足で蹴ってもいいんだけど、左足が使えるとどう?」と彼らに問いかけます。子どもたちは「左足も使えたら便利だ」と言います。そこで「そうでしょ?じゃあ左足も使う練習しましょう」と言ってまた始めます。この状況は、大学生なっても一緒です。できないことをできるようになるのが学びだと理解していません。
私は本来左利きなのですが、サッカーを高校から始めたので懸命に練習しました。大学時代は、自分で勝手に「今日は右だけで蹴ろう」と決めて練習に臨んだりしていました。そうなるとコントロールミスが必然的に増えるので仲間から文句を言われましたが、続けました。今でも、子どもたちに「池上コーチは右利きだと思っていた」と言われます。
次ページ:小学生年代で「サッカーをよく知っている子」を育てる