[いつでも、だれでも、ずっとサッカーを楽しむために]JFAグラスルーツ推進
2020年3月23日
サッカーや運動でエネルギーを発散させ、生活リズムも整い健康に。サッカーと福祉を両立させるリコプエンテFCの取り組みとは
日本サッカー協会(JFA)の松田薫二グラスルーツ推進グループ長が、あなたの街のサッカーチームを訪ね歩くこの連載。今回の訪問先は、愛知県豊橋市を拠点に活動する「リコプエンテFC」です。
JFAグラスルーツ推進・賛同パートナーの6つのテーマ、すべてにエントリーしている同クラブは、どのような活動をしているのでしょうか? 代表を務める江口力也さんに話を伺いました。
(取材・文・写真:鈴木智之)
■ただサッカークラブを作るだけでは限界が来る
松田:リコプエンテFCはJFAグラスルーツ推進・賛同パートナーとして「引退なし」「補欠ゼロ」「障がい者サッカー」「女子サッカー」「施設の確保」「社会課題への取り組み」の6つのテーマで申請してくれています。クラブチームの運営、サッカースクールだけでなく、障がい者福祉にも関わっておられますが、どのような経緯で活動を始めたのでしょうか?
江口:もともと私は熊本の大津高校、愛知県の中京大学でサッカーをしていました。大学卒業後にサッカーの指導に関わりたいと思い、熊本高校で講師とサッカーのコーチをしていました。結婚と同時に妻の実家がある愛知県の豊橋に移り、そこではサッカーとは関係ない仕事を10年間していました。
松田:その間はサッカーからは離れていたのですか?
江口:はい。でも年月が経つにつれて、どうしてもサッカーを教える仕事がしたいと思い、失効した指導ライセンスを再度取得して、地元の高校に外部コーチとして教えに行っていました。仕事をしながらサッカーの指導をしている中で、親族に障がい者福祉に詳しい者がいて、話を聞かせてもらったのが最初です。
松田:私は日本障がい者サッカー連盟の理事もしているので、障がい者福祉とサッカーをどう結びつけているのか。非常に興味があります。
江口:私の親族に知的障がいを持つ男の子がいたんですね。それと、妻の祖父が障がい者福祉に詳しい方で、障がい者福祉サービスの事業所設立に携わったことがあり、知見をたくさん持っていました。
松田:障がい者福祉が身近にあったわけですね。
江口:そうなんです。当時の私はサッカーの仕事をしたい思っていたのですが、住んでいる愛知県の豊橋は野球が盛んな地域で、10年先、20年先を考えたときに、子どもが減っていく現状があります。その中でサッカークラブを作って、子どもたちを教えるだけでは、いろんな意味で限界が来ると思ったんです。
松田:少子化はサッカー界だけでなく、日本全体の問題ですね。
江口:クラブを立ち上げて、コーチを雇用するとなるとリスクがあると思いました。10年、20年と継続して運営できるクラブにはならないのではないかと。どうにかして方法がないかと考えていたときに、妻の祖父から障がい者福祉の話を聞いて「協力するから、やってみたら?」と言われて、妻と二人でスタートしました。
■エネルギーを運動で発散することで家庭でもいい影響が
松田:障がい者福祉とサッカーをどう結びつけていったのですか?
江口:障がいを持った子どもたちを預かる施設は各地にたくさんあるのですが、多くのところが、施設の一室に子どもたち集めて、時間が来たら家に帰すという形が一般的です。でも私にはサッカーの指導経験があり、スポーツについても勉強してきたので、ただ預かるだけでじゃなくて、子どもたちができることを増やしてあげよう。スポーツや遊びを一緒にする中で、子どもたちの成長を見守ろうと考えて、カリキュラムを作りました。施設の横にグラウンドを作り、そこでサッカーや遊びをする時間を設けています。
松田:障がい福祉施設に集まってくるのは、どういう子たちなのですか?
江口:小学校3年生から高校3年生までを預かっています。子どもたちは、日中は支援学校に行っているので、放課後に施設に連れてきて、おやつ作りやスポーツをして、夕方に家に送り届けています。日中は常時介護を要する障がい者の方を預かり、調理実習やスポーツ、遊びの場を提供しています。
松田:放課後等デイサービスは、今まで預かるだけのところがほとんどだったんですか?
江口:そうなんです。とくに思春期の子は、エネルギーをどう発散していいかがわからないので、外に出て運動をすると体に良いですし、疲労感もあるので、家に帰って暴れることが少なくなりました。インフルエンザにかかる子もほぼゼロで、生活リズムが整うので、保護者の方には非常に喜ばれます。
松田:障がい者福祉とサッカーを両立させているところは、他にあるんですか?
江口:私が知る限りですが、うちだけだと思います。このやり方は、サッカーコーチの雇用の面でもメリットがあります。サッカーの指導者として生活をしたい人を雇用して、昼間は障がい者福祉施設の職員として仕事をしてもらい、夕方からサッカーコーチとして活動してくれれば、十分な賃金を払うことができます。
松田:それは素晴らしいアイデアですね。コーチもサッカーだけでなく、地域とつながって様々な経験をすることができて、給料の面でも不安がない。
■障がい福祉もサッカーも無理なく回るスキームで、賛同パートナー制度の6つのテーマを実現
松田:活動場所はどうなっているのですか?
江口:豊橋市に生活介護・放課後等デイサービスの「forライフ」という施設を作り、日中はそこで小学生から大人まで、障がいを持つ人を預かります。「forライフ」の目の前にフットサルコート2面の人工芝のグラウンドを作ったので、昼間はそこで障がいのある人達がスポーツをしたり、遊んだりして汗を流し、夕方から夜にかけては小学生のスクールとクラブチーム、ジュニアユースのクラブが練習をします。
松田:まさにグラスルーツ推進・賛同パートナー制度の「障がい者サッカー」「施設の確保」「社会課題への取り組み」ですね。施設やグラウンドを作るとなると、かなりのお金が必要だったのではないですか?
江口:立地的にも駅から離れていますし、もとは防風林だったところを整地してグラウンドにしたので、土地代はそれほどではありません。それでも、それなりの金額はかかりましたけど(笑)。障がい者福祉は国から支給される金額があるので、その中から職員を雇用したり、グラウンドを福祉施設に貸し出す形にすることで金銭的な補填をしたりして、障がい福祉もサッカーも無理なく回るようにしています。
松田:素晴らしいスキームだと思います。グラウンドは普段、どのように活用しているのでしょうか?
江口:フットサルコート2面を1つにするとソサイチができる広さになるので、U‐9、U‐15、社会人のカテゴリーでソサイチリーグを立ち上げています。そこはスポンサーを募って参加費を安くすると同時に、交代自由にしているので「補欠ゼロ」ですし、大人もプレーできる環境なので「引退なし」です。そのグラウンドでは、女子サッカーのなでしこひろばも開催しています。
■近県の外部チームを誘致してサポートも
松田:障がい者サッカーについては、どのような関わりをしていますか?
江口:チームを持っているわけではないですが、アンプティサッカーのガネーシャ静岡AFCやブラインドサッカーのミックスセンス名古屋などを誘致して、サポートしています。うちのグラウンドに来て練習をしてもらったり、スタッフがお手伝いして競技のサポートをしたりしています。障がい者サッカーのチームが気兼ねなく借りられるグラウンドは少ないですし、施設にはボランティアのスタッフがいるので、練習パートナーにもなることができます。
松田:グラウンドを拠点に様々な活動をしているわけですね。脱帽です。
後編では、江口さんがそもそもどうしてグラウンドを作ろうと思ったのか、障がいを持つ子どもたちへの地域住民や行政の態度、今後の展望などを伺いましたのでお楽しみに。
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