[いつでも、だれでも、ずっとサッカーを楽しむために]JFAグラスルーツ推進
2020年3月30日
グラウンドでは誰もが楽しめるように。スポーツの力を活用して差別意識をなくしたいと奮闘する街クラブ指導者の思い
日本サッカー協会(JFA)の松田薫二グラスルーツ推進グループ長が、あなたの街のサッカーチームを訪ね歩く、この連載。前回は、JFAグラスルーツ推進・賛同パートナー制度の6つのテーマ、すべてにエントリーしている「リコプエンテFC」(愛知県豊橋市)代表の江口力也さんに、サッカーと福祉を効果的に回すスキーム作りのお話などを伺いました。
後編では、そもそもどうしてグラウンドを作ろうと思ったのか、共生社会をつくるための思い、今後の展望などをお送りします。
(取材・文・写真 鈴木智之)
<<前編:サッカーや運動でエネルギーを発散させ、生活リズムも整い健康に。サッカーと福祉を両立させるリコプエンテFCの取り組みとは
■公園でスポーツをしていると苦情が来る
松田:そもそも、なぜグラウンドを作ろうと思ったのですか?
江口:障がいのある子たちが地域の公園でスポーツや遊びをしていると、周囲の人から苦情が来たり、行政からひどい扱いを受けたりすることが多々ありました。それで、自前のグラウンドを作れば、誰にも文句を言われずに、好きなように運動できるだろうと思ったことがきっかけです。
松田:それは胸が痛い話ですね。健常者と障がい者がともに生きる「共生社会」という言葉がありますが、その認識を改めなければ、とてもじゃありませんが、共生なんてできませんね。
江口:そう思います。だから僕は、共生社会をつくるために、間にスポーツを入れることで、スポーツでつながりを持たせたいという想いがあります。スポーツをして、生き生きしている様子を見れば、周囲の人たちも危ない行動をする子たちなのでは...... とは思わず、スポーツをしている子として見てくれます。その子達が、障がいがあるだけなんです。どうしても差別意識があるので、それをなくすためにも、スポーツの力を活用できればと思っています。
松田:障がい者施設に通う子どもたちの様子はいかがですか?
江口:スポーツが存分にできる環境は少ないので、辞める子はいません。親御さんも、ここに預けたいと言って、ずっといてくれるので継続性があります。そうすると、職員も辞めないんですね。放課後等デイサービスは高校3年生までなので、卒業する子が出るタイミングで、生活介護の部門を作りました。卒業生はそこに通ってくれています。同じ場所に継続的に通えるので、生活環境も変わりません。保護者からも喜ばれます。
■サッカーや遊びを通じてエネルギーを発散することは、心身に良い影響をもたらす
松田:障がい者福祉の経験がない中で、この活動を始めた頃は、どんな苦労がありましたか?
江口:慣れるまでは、思春期の子どもたちの面倒を見るのは大変でした。自分の気持ちをうまく表現できない子や、いろいろな面で難しさを抱えている子、自傷してしまう子もいて、格闘の日々でした。噛まれたり、つねられたり、毎日体のどこかにあざを作っていました。子どもたちの姿を見ていると心苦しいというか、胸が痛むんです。なるべく穏やかに過ごせる環境を作ってあげたい。子どもたちそれぞれ特徴は違うので、職員みんなで情報を共有して、乗り越えていきました。
松田:その中で、サッカーはどのような役割を果たしたのですか?
江口:サッカーや遊びを通じて、身体を動かしてエネルギーを発散することは、心身に良い影響をもたらします。それに、施設の中と外をつなげるキーワードがサッカーだったように思います。
松田:施設を作って、2017年にスクールを立ち上げていますね。カテゴリーは?
江口:スクールは小学生と中学生です。アカデミーもあります。最終的にはユースを立ち上げようと思っています。部員は全カテゴリーで50人ぐらいです。人数は、いまの倍にはしたいですね。
松田:アカデミーは田原市にもありますよね。
江口:はい。豊橋市の隣にある田原市に作りました。グラウンドは廃校になった中学校を使って、サッカーやバレーボール、バスケットなどのクラブも合わせて、総合型スポーツクラブにする構想もあります。ほかには、ふるさと納税を活用して、体験型のサッカークリニックをすることも考えています。
松田:素晴らしいですね。
江口:色々な形を作って、スポーツをする環境が整っていく、ひとつのモデルになればと思っています。うちの福祉施設に来てくれている子たちは、長ければ65歳まで残り続けるんですね。これからどんどん入居者も増えていくと思うので、どう施設を増やすかは、常に考えています。
■障がいを持つ人たちが当たり前に社会に接していく仕組みが必要
松田:リコプエンテのサッカークラブと、障がいのある人達の関わりはどうしているのでしょう?
江口:リコプエンテでサッカーをしている子たちが、社会に出ていくまでの間に、障がいのある子たちと、なにか接点を持たせたいと思っています。それは保護者にも伝えていて、ウェルカムだと言ってもらっています。接点があれば理解度が深まりますし、サッカーという共通のスポーツがあれば、交流は可能だと思っています。
松田:政府も障がい者雇用を促進しているので、社会に出れば接する機会も増えます。そのときに、子どもの頃にサッカーやスポーツを通じて、互いに接した経験があることはプラスに働きますよね。
江口:小さいうちから接点があれば、心強いと思います。でも、今の日本にはなかなかありません。障がいのある人たちが、当たり前のように社会に接していく仕組みが必要で、それを僕らが手探りでやっているところです。
松田:「スポーツの価値を高める」という言葉がありますが、そもそもサッカーは地域に価値を提供できているのか? という疑問があります。好きなことをやっていて「応援して下さい」と言っても、共感は得られませんよね。江口さんのように、世の中の役に立ちながら、スポーツの重要さや世代を超えた交流する場を作っているのはすごいですし、それがスポーツの価値を高めることにつながっていると思います。
江口:我々は障がい者福祉があってのサッカーチームです。その気持ちは常に持っています。働いてる職員も、ここで学んだことを地元に持ち帰って、ノウハウをもとに起業することもできます。
松田:福祉とサッカーで新しいビジネスの形が生まれ、さらに多くのことを学ぶことができるんですね。
■福祉とサッカー、地域貢献のモデルになれるように
江口:最近は、うちで勉強したいという大学生が来てくれました。ノウハウを学び、環境を作ろうと思えば、日本各地で私達がやっていることと、同じことができると思います。
松田:地域貢献なので、周りも協力しやすいですね。
江口:企業の方やメディアの方も協力してくれています。この形を作って、みんなに見てもらって、同じことを志してくれる人が増えることが、結果として地域のため、サッカー界のためにもなると思っています。
松田:素晴らしいです。今後の活躍も期待しています。
江口:この取り組みが世の中に広まり、良いつながりができればと思っています。良いモデルになれるようにがんばります。ありがとうございました。
<<前編:サッカーや運動でエネルギーを発散させ、生活リズムも整い健康に。サッカーと福祉を両立させるリコプエンテFCの取り組みとは
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