[いつでも、だれでも、ずっとサッカーを楽しむために]JFAグラスルーツ推進

2021年6月 1日

早寝早起き朝ごはん&サッカー、元Jリーガー長谷川太郎さんが主催する「朝TRE」が子どもたちにいい影響を与えるワケ

日本サッカー協会(JFA)グラスルーツ推進グループの松田薫二さんが、賛同パートナーを訪問し、現在の取り組みや今後の展望について話を聞くこの連載。

今回は東京を拠点に、全国に活動を広げるストライカー育成プロジェクト『TRE2030』を主催する一般社団法人TREの代表、長谷川太郎さんです。長谷川さんは、かつてヴァンフォーレ甲府などで活躍し、2005年にはJ2日本人得点王を記録したストライカーでもあります。

対談後編では、サッカーと学業の両立や引退した選手のセカンドキャリアなどについて、話は進んでいきます。
(取材・文:鈴木智之)

「朝TRE」が子どもたちにどんないい影響があるのか教えてもらいました(写真提供:一般社団法人TRE)

 

<<前回:元J2得点王、長谷川太郎さんが提案する、現役とセカンドキャリアをつなぐ「1.5キャリア」とは

 

<グラスルーツ推進6つのテーマ>

 

■朝にサッカーすることで勉強との両立も可能に

松田:長谷川さんが主催している『朝TRE』は、学校が始まる前の朝にトレーニングをする活動ですが、朝に練習するメリットはどんなことがありますか?

長谷川:はい。早寝早起き、朝食をしっかりとることなど、いまの子どもたちに習慣にしてほしいことが、『朝TRE』を通じて身につくと思っています。

松田:東京の子ども達の動向でよく聞くのが「中学受験のために小学4・5年生でサッカーを辞めて塾に行く」というケースです。でも朝にサッカーをすれば、放課後に塾に行く時間をとることもできるかもしれないですね。

長谷川:大学サッカーは練習を朝だけにしているチームも多いですが、それは授業と両立するためだと聞いています。また、朝に活動することは、指導者にもメリットがあります。サッカー指導者は、家族の時間が持てないことも多いです。平日は夜遅くまでトレーニングをして、週末は遠征で遠くに行ってしまう。家族揃って、夜に食事をする時間を作ることも必要だと思います。

松田:ストライカー育成だけでなく、社会課題の解決にも取り組んでおられるんですね。そのような視点を持っている人は貴重だと思います。SDGs(※国連が定める2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標)への取り組みのように、社会課題に取り組むことが人々からの信頼につながっていくと思います。商業ベースのサッカー教室だけでなく、社会課題を解決するために、サッカーを用いて行動を起こしているのは素晴らしいことだと思います。

 

■大人が楽しんでいる姿を子どもたちに見せることが大事


大人が楽しんでいる姿を見せることも大事だと話す長谷川太郎さん

 

松田:他にはどのような活動をされていますか?

長谷川:大人向けのサッカースクールを開催しています。その参加費の一部を、子ども達のための活動費にあてるなどしています。

松田:大人になっても上手くなってサッカーをもっと楽しみたいですよね。大人がサッカーを楽しんでいる姿を子どもが見たりすることも大事なことじゃないかなと思います。「サッカーを続けていたら、大人になっても、こうやってサッカーを楽しめる」という気持ちになってくれたらいいなと思います。

長谷川:そうですね。「将来、サッカーを楽しむために、もっと練習がんばろう」という気持ちにもなるかもしれません。子どもの頃に身につけた技術は大人になっても落ちませんから。

松田:いろんなことにつながっていきますね。

 

■サッカー引退後のキャリアに移行するためにも1.5キャリアは必要 

長谷川:僕が引退してからやってきたことの、点と点がつながっていけばいいなと思っています。引退直後の選手の手助けになる活動もそうですし、自分が通ってきた道を、少しでも整備することができればと思っています。

松田:プロを引退して、セカンドキャリアとして、サッカー以外の職業に就いたとしても、最初から順応できる人は少ないのではないかと思います。長谷川さんが考えているような「1.5キャリア」の場は必要ですね。

長谷川:たとえば引退してスクール活動をするにしても、グラウンドを貸してくれる学校や行政と話をするのも、最初はハードルが高いと思います。でも、そこを越えると協力者が出てきて広がっていきます。その部分のお手伝いといいますか、きっかけ作りができればと思っています。

 

■スポーツと勉強の両立はできる 

松田:いまの子どもたちは遊び場が減り、さらにコロナ禍によって外での運動機会が減り、エネルギーを発散する場が少なくなっているのではないかと思います。保護者も子どもにスポーツや運動をさせたい気持ちはあるけど、勉強をする時間も必要だと考えると、そちらの方が優先されてしまう。そこに何か手を差し伸べられるといいですね。

長谷川:スポーツと勉強の両立はできないと考える人が多いけど、やり方次第でできると思います。

松田:勉強ばかりしていても能率は上がらないし、たまにはリフレッシュして体を動かすことも必要ですよね。

長谷川:すべては時間の使い方次第で、やり方はいくらでもあると思います。ゆくゆくは『朝TRE』を47都道府県で、プロを引退した人達を賛同アスリートのような形にして広がってほしいと思っています。

松田:セカンドキャリアに不安を抱えている選手が多い中で、長谷川さんの活動のように、サッカーを通じて、社会との接点を作るのはとても良い方法だと思います。

長谷川:ぜひ、多くの方々に認知していただけたら嬉しいです。

 

■長所をアピールし、実行に移す力はサッカーを通じて得られる 


日本サッカー協会の松田さんも、長谷川さんの取り組む「1.5キャリア」に賛同します

 

松田:Jリーガーは、目標に向かって集中して取り組んできた人だと思うので、努力する力や集中して物事に向かっていく力を持っていると思います。長谷川さんのようにきっかけを与える人がいれば、次のステージでも輝くことができる力を持っているのではないでしょうか。

長谷川:その力を、うまく社会とつなげることができればいいですよね。僕自身、まだまだ模索中の身ではありますが......。

松田:そのきっかけを作る場という意味で、「1.5キャリア」という言葉はとても良いなと思います。階段の踊り場のような形で次のキャリアへの準備ができるのは良いですね。

長谷川:僕が引退後に大事だと思ったのが、企画力や営業力、行動力です。つまり、自分で考えてアピールし、実行に移すことで、それらはサッカーを通じて得られるものでもあります。試合に出るためには、自分の長所をアピールして、周りに認められることが大切なわけです。

 

■成功体験が自信につながり、次のステップのきっかけになる

長谷川:引退試合もそうですが、なにかを自分たちで企画して、SNSなどを通じてPRするなど行動を起こして、イベントを実施することができると、成功体験になります。それが自信につながり、次のステップに踏み出すきっかけになると思っているんです。

松田:まずは『朝TRE』をロールモデルに、引退者向けのワークショップをするのもいいかもしれませんね。自分の地元で、どんなことができるかを考えてみようというテーマもおもしろいと思います。自分を客観視して、自分の特徴を生かして、社会に価値を与える。その結果が、次のキャリアにつながっていくと思います。

長谷川:いろいろ考えてやっていきたいです。

松田:応援しています。ありがとうございました。

長谷川:こちらこそ、ありがとうございました。

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