子どもの本気と実力を引き出すコーチング
2019年4月16日
「教えすぎ」「オーバーコーチング」はなぜ起こる!? 子どもの思考力を伸ばすコーチングとは
自分の指導していることが子どもにうまく伝わらない。「なぜ出来ないんだ」と言ってしまうあなた。人間の本能と心理を理解すると、ガラっと子どもを見る目が変わります!! するとあなたの指導力もグッとレベルアップします。
4月6日に発売された「子どもの本気と実力を引き出すコーチング」(内外出版社)より、「なぜ出来ないの?」ではなく「どうすればできる?」のか、失敗を怖がって無意識にかけてしまうブレーキの外し方、緊張のコントロールなど、現代の子どもたちのコーチングに必要なスキルと、ケガの応急処置など大人が知っておかなければならないことをピックアップしてご紹介します。
「子どもにこうなってほしい」と思っているだけでは現状は変わりません。
あなたが変われば子どもも変わるのです。指導者だけでなく、保護者の方も普段の会話に取り入れるなど参考にしてください。
第一回目は、国際武道大学でスポーツ心理学、コーチング科学の教育・研究に携わる前川直也准教授による、子どもたちの成長のベースとなる「安心」を与えるコーチングについてです。
■人間は無意識のうちに勝とうとしてしまう生き物
ちょっと変わったジャンケンをしましょう。後出ししていいので、相手にわざと負けてください。
どうでしょう。難しくなかったですか? 勝てる手は容易に浮かんでくるものの、負ける方となるとなかなか浮かんでこなかったと思います。
皆さんは日常の中で、いつも勝とうとしているからです。勝負をしたら、人と比べたら無意識のうちに勝とうとしてしまうものなのです。それが人間の本能です。そのためにギスギスとした軋轢が生じてしまったりするものなのです。その考えを一度リセットしてください。
人間はみな人それぞれ特徴があり、長所・短所もあり、それを比較するものではないのですが、でも負けたくない、勝ちたいという気持ちが働いてしまう。人間というより生き物としての本能なのかもしれません。これは指導においても、チームづくりにおいてもキーワードになるので一つ覚えておいてください。
■盲点――指導者からは見えていても、選手には見えていない
ここにあるのは「妻とその母」という絵です。若い女性が見えますか? それとも老婆が見えますか? 若い女性が向こうを向いている絵に見えますが、見方によっては、鼻の大きなアゴの出た老婆に見えてきます。
人は二つのものを同時に見ることはできません。見方によって必ず盲点が生まれるということです。視界に入っているはずなのに、脳は認識することができない。専門用語でスコトーマと言います。皆さんが生きていくなかで、指導をしていくなかで、何かを見ようとする時、必ず盲点があるのです。
どんなにベテランの指導者でも「えっ、この子ってこんなイイところがあったの?」逆に「こんな弱いところがあったんだ」と感じることがあります。
別にその子が隠していたわけではありません。それは見ている人の盲点なのです。
「なぜ私の言ってることがわからないんだ!」と言ってしまったことはありませんか?
指導者とその選手に見えているものが違うからです。その選手には見えてない。見えないものは見えない。だからわからない。 同じものを見ていながら、同じことをやっていながら、指導者の視点から見えているものが、選手側の視点からは見えていないということがあるのです。
■人の心を左右するのは出来事ではなく受け取り方
選手が練習に遅刻してきました。どうしますか? あなたが選手に対して怒鳴ったとします。あなたがその怒鳴られた選手だったらどう思うでしょうか?
「自分が遅刻したのだから当たり前」「自分のために言ってくれた」
こんな素直な選手ばかりだったら幸せでしょうね。
「そこまで怒らなくてもいいじゃないか」と思うこともあれば「うるさいな。余計なお世話だよ」と思う選手もいるでしょう。
つまり同じ出来事でもとらえ方によって全く違ってくるわけです。
出来事には何の色もついていません。人の心を左右するのは出来事ではなくて受け取り方。 目の前の出来事には何の意味もなく、人それぞれが価値観というメガネをかけて見ていることで意味が変わってきます。
「遅刻してはだめだ」「時間通りにくるべきだ」
これは「~~すべきだ」「~~しなければならない」という「べき思考」と呼ばれるもので、これにとらわれてしまうと視野が狭まります。その子への評価の見誤りにもつながりますし、その子が遅刻をしてしまう理由、どうすれば遅刻をしなくなるのかというところに辿り着くことはできません。
■人は足りないところに目がいく
ここに二つの円があります。どこに目がいきますか?
円がつながっていないところ、欠けているところに目がいきませんか? 心理学で「未完の円」と言います。
人は足りないところに目がいくものです。言い換えればその人の足りないところ、欠点・短所というのは非常に目につくものなのです。
さらには、足りないところ、短所を見て「補ってあげたい」「手伝ってあげたい」という気持ちが働きます。
「未完の円」の穴をみて、それを埋めたくなってしまうのです。これも人の心理で、時に「おせっかい」につながってしまう。「教えすぎ」「オーバーコーチング」と言われる現象はこうやって起きているわけです。
■長所、いいところに視点を変えていこう
組織で行動しているなかで、必ず嫌いな人、苦手な人、合わない人がいて、その短所・欠点に目がいってしまう。そんな自分を「人間ができていないからだ」と責める必要はありません。これは人が誰しもがもつ本能です。
本能的に短所に目が行きネガティブになってしまうのだとしたら、意図的にとらえ方をポジティブなもの変えていかなければなりません。とらえ方を変えることで長所・いいところが見られるようにしていくのです。
次回はより具体的に、どんな声かけが子どもの本気と実力を引き出すのかご紹介します。
【著者プロフィール】
前川直也(まえかわ・なおや)
1977年生まれ
国際武道大学体育学部准教授、同大学大学院武道・スポーツ研究科准教授
博士(スポーツ健康科学)
著書...「公認柔道指導者養成テキストA指導員」公益財団法人全日本柔道連盟
その他...日本傳講道館柔道六段、全日本柔道連盟公認Aライセンス審判員、全日本柔道連盟公認柔道指導者A指導員、公益財団法人日本スポーツ協会公認柔道コーチ、国際武道大学柔道部コーチ