子どもの本気と実力を引き出すコーチング

2019年5月 7日

「落ち着け」は逆効果! ビビるのは力を出しきるのに「準備OK」なサイン

自分の指導していることが子どもにうまく伝わらない。「なぜ出来ないんだ」と言ってしまうあなた。人間の本能と心理を理解すると、ガラっと子どもを見る目が変わります!! するとあなたの指導力もグッとレベルアップします。

4月6日に発売された「子どもの本気と実力を引き出すコーチング」(内外出版社)より、「なぜ出来ないの?」ではなく「どうすればできる?」のか、失敗を怖がって無意識にかけてしまうブレーキの外し方、緊張のコントロールなど、現代の子どもたちのコーチングに必要なスキルと、ケガの応急処置など大人が知っておかなければならないことをピックアップしてご紹介します。

「子どもにこうなってほしい」と思っているだけでは現状は変わりません。
あなたが変われば子どもも変わるのです。指導者だけでなく、保護者の方も普段の会話に取り入れるなど参考にしてください。

第三回目の今回は、国際武道大学でスポーツ心理学、コーチング科学の教育・研究に携わる前川直也准教授による、力を出しきらせる声のかけ方をご紹介します。

<<前回:言い方ひとつでこんなに変わる! 責めワードにもやる気アップにもなる「なぜ?」の使い方

■「ビビる」「緊張する」のは「準備OK」のサイン

あなたの目の前にライオンが現れたとします。ビビるはずですよね。

緊張してドキドキするのは「準備OK」な状態

心臓がドクンドクンとなって心拍数が上がります。これは自然な現象です。試合前と同じ身体症状ではないですか? これは人間が持っている本能的な機能です。すぐに体を動かして逃げられるようにするために、心拍数を上げて体中に酸素と血液を行きわたらせているのです。

ウォーミングアップと同じで、いつでも動ける状態になっているということです。つまり、緊張して、心臓がドクンドクンとなっているということは、「準備OK!」という状態だととらえることができるのです。試合の前や、大勢の前で何かを発表する時も同じ状態になるはずです。それに対して「ビビるな」「何ビビッてるんだよ」と言うのはおかしな話です。ビビっているのではなく、いま準備が整ったと考えましょう。そうとらえるだけで気持ちは全く違ってきます。

■「守られている」感覚を与えて力を出しきらせる

選手が「ビビッているな」と感じた時の声かけは、「不安」をとりのぞいてあげるもの。つまり安心、「守られている」という感覚を持てる言葉を使います。

「私が見ているから。一緒についているから大丈夫だよ」と指導者に守られているという感覚を持たせてあげてください。

そのうえで、「思い切っていきなさい」と声をかけて背中を押してあげましょう。結果を出すためには力を出し切らないことにはどうにもなりません。力を出し切きることに集中できるように導いてあげましょう。

人を育てていくうえで、厳しさと同時に包み込むような優しさが大切になります。守られている状態でないと人間は心を開きません。それでは行動も積極的なものにはなりません。

人間は「安全」に対する欲求を持っており、安全を確保するために自分でブレーキをかけようとします。その安全に対する欲求を指導者が満たしてあげて、ブレーキを外してあげるわけです。


力を出し切らせるためには安心が必要。「大丈夫だよ」と声をかけましょう

 

◆「リラックスしろ」「落ち着け」は逆効果

実力を発揮させるためには適度な緊張が必要です。

リラックスさせるためには先にも説明した「守られている」という感覚を与えましょう。安心しないと眠れないのと同じです。「大丈夫だよ」「思い切っていけばいいよ」と声をかけましょう。

緊張の度合いが高い時は、「ゆっくり大きく息を吐いて、深呼吸してみようか」「一回、大きく体を伸ばしてみようか」とリラックス効果を得られる行動を直接的にうながします。その時もゆっくりと、優しい口調で諭すように、時には背中をさすったりして、身体的感覚に働きかけていく。泣きじゃくる子どもをなだめるようなイメージです。

「リラックスしよう」「落ち着こう」という声かけは逆効果です。言われれば言われるほど、「自分はリラックスできていない。落ち着いていない=緊張している」という意識が生まれ、焦りが生じてしまいます。


「大きく身体を伸ばしてみようか」など、リラックス効果を得られる行動に直接促すのも効果的

 

一方、緊張感にかけているなと感じた時は、リラックスさせる時とは反対にリズミカルな胸式呼吸を行います。短く数回吸って、短く数回吐く。またダッシュジャンプなどで心拍を上げます。

声かけの口調もハッキリと短く強めに「今日は調子いいね」「動きがいいね」「気合入ってるね」「よし、行ってこい!」と気持ちが昂るようなものにします。


良いパフォーマンスを発揮するイメージを持たせると適度な緊張感が生まれます

 

「勝つぞ」「勝とう」という結果を意識させるものよりも、「昨日の練習はすごく良かったから、それをイメージしてみようか」と良いパフォーマンスを発揮するイメージを持たせます。

また人間は未来をイメージする力があります。「勝ったら気持ちいいだろうね」「チーム全員、笑顔になるだろうね」「私(指導者)もとても楽しみだ」と気持ちを高めるために、良い結果が出た、良いパフォーマンスを発揮できた先にあるもの、うれしい気持ち楽しい光景をイメージさせてあげるのもいいでしょう。

その先に喜びがあるから人間は試合や練習を頑張れるわけですから、そこに働きかけていきましょう。

次回は集中力を欠いていたり練習に身が入らない子どもにどんな声かけをすればいいのかご紹介します。

<<前回:言い方ひとつでこんなに変わる! 責めワードにもやる気アップにもなる「なぜ?」の使い方

【著者プロフィール】
前川直也(まえかわ・なおや)
1977年生まれ
国際武道大学体育学部准教授、同大学大学院武道・スポーツ研究科准教授  
博士(スポーツ健康科学)
著書...「公認柔道指導者養成テキストA指導員」公益財団法人全日本柔道連盟
その他...日本傳講道館柔道六段、全日本柔道連盟公認Aライセンス審判員、全日本柔道連盟公認柔道指導者A指導員、公益財団法人日本スポーツ協会公認柔道コーチ、国際武道大学柔道部コーチ

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