U‐12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2018

2018年12月14日

ジュニア年代最高峰のバルセロナとアーセナルが行う「攻守の切り替え」の違いとは?

日本で観戦できる『ジュニア年代最高峰の大会』。それがジュニアサッカーワールドチャレンジです。今年の夏に開催された同大会では、FCバルセロナとアーセナルが対戦し、バルセロナが3対1で勝利しました。この試合を「エコノメソッド」(サッカーサービス)のウリオール・フォントコーチが分析するこの企画。前編では両チームの攻撃と守備のコンセプトを紹介しました。後編では「攻守の切り替え」について説明します。(取材・文:鈴木智之)

■ボールキープで様子を見るのか、リスクを犯して素早く攻めるのかの「状況判断力」を身につけることが大切

サッカーの重要な局面である「攻守の切り替え」。「トランジション」という言葉で説明されることも多いですが、フォントコーチは攻撃のトランジションを「相手からボールを奪い、カウンターを狙う。もしくはキープして落ち着いた状態を作ること」と定義します。

バルセロナは奪ったボールを、まず失わないことを考えます。そのため、選手たちはボールを奪った直後に『攻撃をするのに有利な状況なのか』。それとも『ボールを失う可能性があるので、キープするのか』を認識する能力に長けています。ボールを奪い返した直後、前方に有利な状況や相手の守備にギャップがある場合、縦に速い攻撃をすることもありますが、全体の傾向としては、まずはボールを失わないことを考え、ボールをキープします」

相手から奪ったボールを、すぐに奪い返されるとピンチになります。なぜなら、意識が前がかりになっている状態なので、周囲にスペースが生じやすくなるからです。

「バルセロナの選手は、ボールを奪ったあとの"一本目のパス"を大事にします。ボールを奪った直後は、周囲に相手がいますし、攻撃に転じるための位置に、味方選手がいないこともあります。そこで、確実に攻撃を始めるために、まずはボールをキープします。そのためには、周囲の選手のサポートが大切です。ボールを奪い返した味方に対して、横や後ろの位置でサポートをすることで、すぐに奪い返されることを防ぎます」

ボールを奪い返した後、やみくもに縦方向へと攻めると、成功することもあるかもしれません。ですが、相手からすると守りやすく、攻撃側は有利な状況を作ることができません。この「状況を見て、有利になるようにボールを動かす」というのが、バルセロナの選手たちの特長です。

「我々はU-12年代から、どの状況でボールをキープし、どの状況であれば縦に素早く攻めるのかといった『判断』を磨くことが大切だと考えています。周囲の状況を確認せず、常にボールを持ったら縦へプレーすることだけを考えていると、年齢が上になるにつれて難しくなります。バルセロナの選手は奪ったボールを安易に前に運ぶのではなく、相手の人数が密集しているのを見ると、フリーな味方や別のスペースを探すために、逆サイドへと展開していきます。『ボールを奪い返した後は、プレッシャーから遠ざける』という原則を実行していたのです。広いスペースを見つけて前に運び、有利な状況をみつけていきます」

一方のアーセナルは、バルセロナとはスタイルが違います。フォントコーチは「バルセロナは奪った直後に、ボールキープを考えてスペースを探す。アーセナルはできる限り縦に早くボールを送り、空いているスペースを使う」と説明します。

「アーセナルはボールを奪うと、一番奥にいる選手を探してカウンターを仕掛けます。一人がスペースに入り、空いたスペースに別の選手が入る、人の動きで相手の守備を崩す狙いがあります。長い距離を一人でドリブルしたり、フェイントで相手を抜いてチャンスを作るスタイルです。アーセナルは個人の力が高く、テクニックを持った選手が多いので、ボールホルダーに強いプレスをかけることができ、少ないパスで相手に驚異を与えるプレーができます」

チームによってスタイルは様々です。フォントコーチは「大切なのは、状況を理解した上で、縦に素早く攻めるのか、ボールをキープするのかを判断すること」と言葉に力を込めます。

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