U‐12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2019
2019年9月 4日
U-12世代の世界大会『ワーチャレ』で旋風を巻き起こし、初優勝を遂げたナイジェリア選抜の強さの秘密とは?
2019年のU-12ジュニアサッカーワールドチャレンジは、ナイジェリア選抜が初出場で初優勝を果たしました。準々決勝ではバイエルン・ミュンヘン、準決勝でJFA大阪府トレセン選抜、決勝戦で広州富力足球倶楽部と、ヨーロッパ、アジアの強豪を倒しての栄冠でした。ナイジェリアのどこが優れていたのでしょうか?
(取材・文:鈴木智之、写真:吉田孝光)
■10番と7番が牽引した攻撃
ナイジェリアのシステムは4-3-3。中盤の底(アンカー)の位置に、大会MVPに輝いた、10番のオグボナヤ・スンダイ・エイケ選手が入り、攻守に存在感を発揮します。「得意なプレーはドリブル。アザールに憧れているんだ」という背番号10は、持ち味のドリブルだけでなく、中盤の底から斜め前に通す、絶妙な浮き球のパスで攻撃をリードしていました。
相手に囲まれても奪われないボールキープは圧巻で、決勝戦では左サイドで2人に寄せられながらも、軽やかなステップとボールコントロールでボールを運び、中央へラストパス。それを9番のオラスンカミ・ダヨ・アブドルワヒード選手が決めて、決勝点となりました。
攻撃の多くはエイケ選手を経由します。そして、右サイドにいる"メッシ"こと7番のスライモン・ファクス・エニオラ選手が、ニックネーム顔負けの鮮やかなドリブルで敵陣を切り裂きます。身長は142cmとひときわ小さく、わずか10歳ながら、明らかなタレント(才能)を持った選手です。
彼はドリブルをする際に、足のインサイド、アウトサイドのどちらでも触れるところにボールを置くので、守備をする相手は的を絞りにくいのです。さらに左利きであり、他の選手とはドリブルのタイミングが違います。スピードとアジリティにも優れているので、彼を止めるのは至難の業でした。メッシが好きでチームメイトから、試合中に「メッシ」と呼ばれるエニオラ選手。"ミニ・メッシ"の突破力があるからこそ、右サイドバックの選手は守備に専念することができていました。
■素早い攻守の切り替えで相手を圧倒
ナイジェリアの攻撃の選手たちはスピードがあり、ドリブルの技術が高く、ボールを奪われません。数的不利の場面でも突破することができます。"ミニ・メッシ"を筆頭に、味方のサポートをそれほど必要としないので、後方の選手はボールを奪われたときに備えて、守備のポジションをとります。
スピードを活かしたボールへのアプローチは速く、決勝を戦った広州富力(中国)の足高裕司監督が「想定外の圧力で、何もさせてもらえなかった」と舌を巻くほどでした。
決勝戦までの7試合で、失点はわずかに2。固い守備も優勝できた要因のひとつです。彼らの守備を語る上で外せないのが"エースキラー"こと、センターバックのイシアカ・ババトゥデ・フアド選手。対人プレーに優れたフアド選手は、相手のFWのキーマンをみつけると、ボールがないところでも徹底的にマンマークします。体をぶつけ、手を出すといった駆け引きは大人顔負けです。いつでも、どこまででも付いてくるフアド選手のことは、対戦したバイエルン、大阪府トレセン、広州富力のFWも非常に嫌がっていました。
相手のキーマンをマンツーマンで封じ込め、もうひとりのセンターバック、アブドルラハマン・テスリム・オライタン選手がカバーリングに入ります。さらに、アンカーのエイケ選手も守備に加わり、サイドバックはあまり攻撃参加をしないので、対戦相手からすると攻め入るスキがないように感じられます。
ナイジェリア選抜は、チームとしての練習期間は2週間程という短さながらも、各選手の特徴を最大限に活かした配置をベースに、攻守をオーガナイズしていました。バク宙を連発できる身体能力、最後まで集中が途切れることなく、ひたむきに戦う姿勢。そして高い個人の技術、スピードと多くを備えたナイジェリア選抜の力は、大会を通じて頭一つ抜けていました。大会の目玉であるFCバルセロナの選手と比べても、個のタレント力では上回っていた印象です。
■観客の大声援を受けた、ナイジェリア選抜
さらには攻撃的な姿勢、華麗な個人技、ゴールを決めた後のセレブレーションなど、ナイジェリアの選手たちのエモーショナルな行動は、スタジアムに集まった観客を虜にしました。試合中、どこからともなくナイジェリアコールが湧き上がり、試合後には、選手や観客とハイタッチするのが恒例になるなど、サッカーはただのスポーツではなく、互いの文化を知り、国際交流のツールになることを改めて感じさせてくれました。
決勝戦後、大きな声援を受けていた、MVPのエイケ選手は言いました。
「お客さんがたくさん応援してくれたことが、とても嬉しかったです」
ピッチの中では味方選手を叱咤激励。ボールを持つとダイナミックなプレーで観客をわかせたエイケ選手は、スパイクを脱ぐとシャイな少年です。「お客さんは、キミを一番応援していたよ」と伝えると、かすかな笑みを浮かべ、恥ずかしそうに目を伏せました。
監督・選手たちの通訳も務めたナイジェリア人のオーナーは「このチームは今後、ナイジェリアのU-14やナイジェリア3部リーグのチーム(大人)と練習をしていきます。将来、ヨーロッパチャンピオンズリーグやワールドカップで活躍するような、世界ナンバーワンの選手を出したい」と、意気込みを語りました。
大いなる可能性を秘めた、ナイジェリアの原石たち。未来のスターを目指す彼らの今後が楽しみです。
【ナイジェリア選抜のメンバーリストなど】U-12ジュニアサッカーワールドチャレンジ2019 公式ホームページ>>