中村憲剛の「KENGOアカデミー」
2020年10月21日
中村憲剛のパスは味方へのメッセージ。いつも「強くて速いパス」が正解ではない
中村憲剛選手が、これまでのサッカー人生で培ってきたサッカーがうまくなるヒントをお届けする「KENGOアカデミー」。第五回目は憲剛選手が得意とする「パスの駆け引き」について話をしてもらいました。
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■味方のどちらの足に出すかを考える
現代サッカーは「パスゲーム」だと言われています。当たり前ですが、ドリブルだけでサッカーをすることはできません。ボールを持った選手がシュートばっかり狙っていては試合にならない。
サッカーの最大の目的である「ゴール」を決めるためには、パスをつないで、ドリブルを仕掛けやすい状況や、高い確率でシュートが決まる状況を作り出すことが重要になります。
では、しっかりとパスをつなぐためにはどんなことが大事になるでしょうか? 僕はパスに「メッセージ」をつけることだと思います。
サッカーの試合中にゆっくりと話したり、声をかけたりしている時間はありません。だからこそ、ボールを使って「しゃべる」ことが必要になるのです。
例えば、ボールを受けようとしている選手に対して、マークする相手が距離を空けているときは、「前を向いて仕掛けろ」というメッセージを込めて、ゴールに近い方の足を狙ったパスを出します。
逆に、相手が距離を詰めてきていて、しっかりとキープしたほうがいいと思った時は、相手から遠い方の足を狙ってパスを出します。このパスには「相手が来ているぞ」というメッセージが込められています。
メッセージをつけることによって、パスを受けた選手は相手が来ていないのにスピードを落としたり、相手が来ているのにドリブルを仕掛けたりするというミスがなくなるし、次に何をすればよいのか判断が早くなるので、プレーのテンポが上がります。
■弱くて遅いパスもうまく使う
パスへのメッセージの付け方は、どちらの足を狙って出すかだけではありません。ボールのスピードを変えることでも、メッセージは伝わります。
練習中や試合中、監督やコーチから「強くて速いパスを出せ!」と言われることはありませんか?
確かに、相手にカットされないように、強くて速いパスを出すことは大事です。僕自身もコンパクトなフォームから、強く速いパスを出すことを心掛けています。
でも、どんな場面でも強くて速いパスが“正解”になるわけではありません。シチュエーションによっては、むしろ弱くて遅いパスのほうが効果的な場合もあるのです。
中盤でボールを持っていて、前線の選手に縦パスを入れようとしている場面をイメージして下さい。前線の選手に対して、ピッタリとDFがマークしています。ここで、セオリー通りに強くて速いパスを出してしまうと、どうなるでしょうか。
前線の選手は背後からボールを奪いに来ているDFのことを気にしながら、強くて速いパスをコントロールすることが求められます。そうなると、正確にボールを止めることが難しくなって、せっかくキープしていたボールを失ってしまうことになります。
僕がボールを持っている選手だったら、こういうときは「DFが後ろから来ているから、ワンタッチで返せ」というメッセージをつけて、わざと弱くて遅いパスを、DFから遠い方の足を狙って出します。
前線の選手からすれば、パススピードが遅い分、時間ができるので余裕を持ってプレーできますし、DFから遠い方の足に出すことでカットされるという心配もなくなります。また、相手DFが遅いパスに食いつくことで、その背後に攻撃のスペースを生み出すこともできます。
レベルの高いチームは、言葉でコミュニケーションをとっていないのに、まるで味方同士が会話をしているかのようにお互いの意図を汲み取ってプレーします。それは1本1本のパスにメッセージが込められているからなのです。
今度、もし僕の試合を見る機会があれば、それぞれのパスにどんなメッセージが込められているのか、ぜひ想像してみてください。
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