中村憲剛の「KENGOアカデミー」
2020年11月11日
ドリブルしなくても相手を抜ける!?「駆け引きでDFを突破する方法」
中村憲剛選手が、これまでのサッカー人生で培ってきたサッカーがうまくなるヒントをお届けする「KENGOアカデミー」。第八回目は目の前の相手を、ドリブルを使わずに抜くための技術を教えます。
<< 前回
■ドリブルじゃなくても相手は“抜ける”
今回はみなさんに質問したいことがあります。
「相手を抜く」と聞いて、どんなシーンがパッと思い浮かびますか?
華麗なフェイントで相手の逆を突くプレーでしょうか。
正解です。
スピードで豪快に相手をぶっちぎるプレーでしょうか。
これも正解です。
おそらく、ほとんどの子供たちがこの2つを思い浮かべたはず。子供だけじゃなく、大人でも「相手を抜く」といえば「ドリブル突破」を思い浮かべる人が大多数です。
そもそも、「相手を抜く」とはどういうことか、考えてみましょう。サッカーは相手のゴールに向かっていくスポーツです。相手選手がたくさんいたら、ゴールを決めるのは難しくなるから、「相手を抜く」という行為が必要になります。
ドリブル突破というのは、サッカーの「目的」であるゴールを奪うための一つの「手段」でしかありません。それ自体が「目的」ではない。だけど、子供のサッカーを見ていると、目の前の相手をドリブルで抜くことに一生懸命になっているシーンをよく見ます。まるでドリブルで抜くことが「目的」になっているかのように——。
決してドリブル突破を否定しているわけではありません。目の前の相手をテクニックやスピードではがすことは価値がある。でも、ドリブルじゃなくても相手をかわすことはできるんだよ、ということはみなさんに伝えたいと思います。
■サッカーでは「いつ」が大事
それが「ボールに触らずに抜くプレー」です。
ボールに触らずに相手をどうやって抜くのか。とてもシンプルです。「パス」と「フリーランニング」を組み合わせれば、フェイントをたくさん仕掛けなくても、スピードがなくても抜くことはできます。
具体的なシーンを出して説明しましょう。中盤でボールを持っています。自分の正面には相手の選手が立っていて、その奥には味方のFWがマークを背負った状態でいる。
自分の正面にいる選手を抜くために、僕だったらどうするか。
まず、味方のFWに縦パスを出します。いわゆる「クサビのパス」です。クサビのパスが入ったら、自分の正面にいる相手は、ボールが移動した方向に首を振ります。
人間の視野というのは基本的に180度までしか見えません。自分の背後の状況を見るには首を振るしかない。後ろを見ているということは、前にいる自分のことは見えていません。このタイミングを利用するんです。
首を振って、自分が視野から外れたとわかった瞬間、相手の背後のスペースに向かって動き出します。当然、相手は見えていないので、こちらの動きには気付かない。そして、相手の裏のスペースに入って、パスを出した味方FWからのリターンを受けます。
僕がリターンパスを受けた時点で、相手は自分の背後にいます。つまり、相手を抜いている。僕はボールにたくさん触ってもいないし、スピードで振り切ったわけでもない。パスを出して、短い距離を走る。それだけで、相手を抜いたのです。
大事なのは「いつ」です。
いつ動き出すか?いつパスを出すのか?いつスピードを上げるのか?
僕自身、試合中に何度もドリブルを仕掛ける選手ではありません。足が遅くて、フィジカルコンタクトが強い方ではない僕がドリブルを仕掛けても、成功する確率は高くないからです。だけど、相手を抜くことはできます。
それは「いつ」という部分に、徹底的にこだわっているからなのです。
<< 前回
1