中村憲剛の「KENGOアカデミー」

2020年11月25日

「攻撃のスイッチ」を入れられる選手とそうでない選手の違い

中村憲剛選手が、これまでのサッカー人生で培ってきたサッカーがうまくなるヒントをお届けする「KENGOアカデミー」。第十回目となる今回は、攻撃のスイッチを入れるパスを出すために必要なことを教えます。
 
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■攻撃のスイッチを入れるとは?

「攻撃のスイッチ」この言葉を聞いたことはありますか?
 
攻撃のスイッチとは、これからゴールに向かっていくという合図のようなもの。1本のパスをきっかけにして、前線の選手が一気に動き出し、スピードアップしていくことです。川崎フロンターレでは、主に僕が「攻撃のスイッチ」を入れる役目を担っています。
 
攻撃のスイッチとなるのは、主に縦方向のパスです。このコラム『ドリブルしなくても相手を抜ける!?「駆け引きでDFを突破する方法」』でも説明しましたが、縦パスで攻撃のスイッチが入るのは、ディフェンスの視野と関係しています。
 
縦パスを通されると、ディフェンスの選手はボールの方を見ます。そうすると、ボールよりも手前側にいた選手は、自分がマークしている選手と、ボールを持っている選手を同じ視野に収めることが難しくなります。
 
「KENGO Academy~サッカーがうまくなる45のアイデア~」より
 
この状態は、ボールだけを見ていることから「ボールウォッチャー」と呼ばれ、攻撃側にとってはチャンスになります。なぜなら、ディフェンスがボールを見ている間、味方の選手は自由に動き回れるので、攻撃を仕掛けやすくなるからです。
 
ただし、守る側も、縦パスが入ったら危ないということはわかっているので、縦パスを通されないように中央のコースを締めてきます。「攻撃のスイッチ」を入れるために出したパスをカットされて、カウンターを受けてしまうことも少なくありません。
 
縦パスはゴールにつながる確率もありますが、失点にもつながる諸刃の剣でもあるのです。

■パスコースは"最初からあるもの"じゃなくて"自分で作るもの"

同じように縦パスを出していても、味方の元にしっかり通る選手と、相手にカットされてしまう選手がいます。
 
この違いはどこにあると思いますか?
 
それはパスを出す前に相手をだませているかです。
 
ディフェンスの選手は、ボールを持っている選手を見て、さまざまな情報を得ます。ディフェンスが見ているのは、主にこの3つです。
 
・目線
・カラダの向き
・ボールを置いている位置
 
「攻撃のスイッチ」を入れるには、相手に“ウソの情報”を教えることが重要です。
 
例えば、僕が中盤の左寄りの位置でボールを持っているとします。前線へのパスコースには相手選手が立っています。僕だったら、右足の外側にボールを置いてから、チラッとサイドのスペースを見て、カラダをその方向に向けます。
 
 
ディフェンスは「サイドを変えてくる(逆サイドにパスを出す)」と予想するので、そちら側にポジションを修正しようとします。1、2歩、距離にすれば数十センチぐらいかもしれませんが、それによって、わずかにパスコースができます。パスコースが空いた瞬間を狙って、素早く縦パスを入れます。
 
 
相手に簡単にパスをカットされてしまう選手は、「目線」、「カラダの向き」、「ボールを置く位置」で相手をだますことを意識してください。最初は難しいかもしれませんが、慣れてくれば、パスを出すほうを見なくても出せるようになるはずです。
 
プロの世界ではこのような細かい駆け引きが常に行われています。常に「だまし合い」をしているようなイメージです。良いパスが通ったときは、どうして通ったのか、どんな駆け引きをしていたのか、そこにも注目してみてください。
 
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