中村憲剛の「KENGOアカデミー」
2021年5月25日
「止める・蹴る」を切り取って練習していないか? 中村憲剛が伝えたいトレーニングの本質
「育成年代から日本サッカーをより良くしたい」という想いから、引退後は育成年代の指導や情報発信を積極的に行っている中村憲剛さん。
前回につづき、テーマは「止める・蹴る」。今回は、その練習法についてお話を聞きました。(取材・文:鈴木智之/写真:新井賢一)
※写真は2020年1月撮影
■「対面パス」は止めて蹴るを最速にする練習
僕が、サッカーをする上でもっとも大切だと思うプレー。それがボールを止めて、蹴ることです。前回の記事でもお伝えしましたが、今回は「止める・蹴る」を上達させるためのトレーニングについて、話をしたいと思います。
多くの子どもたちや保護者のみなさんに「止める・蹴るを上達するためには、どうすればいいのでしょうか?」と聞かれることがよくあります。
止める・蹴るを上達させるベーシックな練習に、2人1組で行う「対面パス」があります。みなさんも一度はやったことがありますよね?
「対面パス」は実際の試合に即したトレーニングではありませんが、「ボールを止めて、蹴る」という一連の動作を速く行うため、その動きを身につけるためには、適したトレーニングだと思います。
相手がいない状態で「止めて蹴る」が素早くできなければ、相手のプレッシャーがある、実際の試合でできるはずがない。僕はそう思っています。
■大切なのは「止める」を次のプレーにつなげること
しっかりとボールを止めて、すぐにパスを出すための動きのベースを作らなければ、試合中、ボールコントロールが乱れ、相手に寄せられて奪われてしまいます。
「止める・蹴る」を試合で活きるプレーにするためにも、基礎的な動作の習得は必要です。
しかしながら「対面パスだけをしていればいいんだ」というわけではありません。そこは誤解しないようにしてくださいね。
対面パスは、あくまでもボールを受けて、最速で蹴るための動作習得のトレーニングです。その段階では、試合で活きる技術にはなっていません。
大切なのは「止める」を、次のプレーにつなげること。KENGO Academyの選手たちには「つなげよう」と繰り返し、伝えています。次のプレーとはパスやドリブル、シュートなどです。「素早く止めて、次のプレーに移る」ことを、スピードを落とすことなく、一連の動作としてつなげてほしいのです。
■「止める・蹴る」を切り取って練習していないか?
鳥かご(ロンド)のような練習をしていると、相手がいない状況では「止めて蹴る」がうまくできているのに、相手が入るとボールが止まらず、止めてから蹴るまでに時間がかかってしまう選手もいます。
そこで僕は「相手の動きを見るためにも、しっかりボールを止めることが大切だよ。ボールが一度のコントロールで止まると、相手を見る余裕ができるよね? 相手がいない練習ではできたのに、そこができないということは、止める・蹴るを切り取って練習しているということ。プレーをぶつ切りにするのではなく、一連の流れとしてやってみよう」という話をします。そうすると、選手の動きが変わっていきます。
そうやって繰り返しながら、選手を上達に導いていきます。例えばミニゲームでも、しっかりボールを止めた結果、次のプレーがうまくいくと、子どもたちはもっとこだわるようになります。
そこで練習が終わったときに「練習の最初と最後でプレーが変わったよね。コーチが何かしたわけではなく、自分たちでこだわってプレーした結果、変わったでしょう? 最初はうまくいかないことが多かったけど、最後はうまくいくようになったよね? どちらも、やったのは自分自身だよ。」と言うと、子どもたちも「たしかにそうだよな」って納得してくれます。
■たくさん情報がある時代だからこそ「本質」が大事
うまくボールが止められなかったのも自分だし、練習で気がついて、意識してプレーするようになったことで、うまくなったのも自分です。僕たち指導者が突いてあげるのは、その「意識」の部分だと思います。
そのためには、わかりやすい言葉を用いて話してあげること。「このプレーができれば得だな」と思えば、子どもたちは勝手にそうしはじめます。僕自身、KENGO Academyなどで子どもたちと接する中で、言葉のムダが省けてきて、伝える内容もブラッシュアップされてきました。
KENGO AcademyのDVDを制作してから5年が経ちましたが「止める・蹴る」の重要性を再認識する日々です。サッカーを上手くプレーするためには、今回お話したような本質の部分をしっかりと理解しておくことが重要です。
たくさん情報がある時代だからこそ、こういった本質の部分を、今後もみなさんに伝えていければと思っています。
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