ベテランの金言「言わずに死ねるか」-今だからこそ、若い指導者・保護者に伝えたい-
2019年11月11日
「サッカーが上手いだけじゃダメ」大久保嘉人ら多くのプロを育てた元国見・小嶺忠敏監督が若い指導者たちに伝えたいこと
今年で指導者生活51年目。国見高校時代は日本一に何度も輝き、日本代表を多数育てたのが、高校サッカー界屈指の名将・小嶺忠敏監督です。
「ベテラン監督の金言 『言わずに死ねるか』-今だからこそ、若い指導者・保護者に伝えたい-」として行ったぜ前編のインタビューでは、子どもを教育するために大事な心構えについてお聞きしましたが、後半の今回は指導者として成長するために重要な考え方や、親としての在り方についてお聞きしました。
(取材・文・撮影:森田将義)
<<前編:大久保嘉人らを育てた元国見高校・小嶺忠敏監督が教える「選手を育てるために何が大事?」への回答
■指導者として成長するためには教科書に載ってない経験をすべき
若い指導者が言葉の重みを持たせるためには、経験を積むしかないと思います。教科書通りのことは誰でもできるため、教科書以外の人生経験をどれだけ多くできるかが指導者としての力になるのです。
部活指導について、様々な議論がされているかとは思いますが、社会経験としての側面からお話すると、部活動を教えている先生は、人との出会いということでは一般の先生よりも恵まれています。なぜなら、練習試合で日本全国に行くチャンスがあるからです。年代や経験が違う様々な指導者や保護者、企業の方と会える。講演を聞くのも一つの手かもしれませんが、一緒に食事をしたり、人生経験が豊富な方の懐に飛び込んで話を聞くことが自身の人生経験を豊かにするのです。
私も指導者として駆け出しの頃は先輩方に様々な勉強をさせてもらいました。帝京高校の古沼貞雄先生、習志野高校の西堂就先生、浦和南の松本暁司先生が高校サッカーを牽引していた時代で、私は三人の側に常にいるようにしました。私と同年代の指導者は、恐れ多くて近寄れなかったのですが、積極的に飛び込んでいきました。
三人が口にする「古沼さんはFWにDFをさせて意表を突くんだよ」、「この間の練習では同じ背番号を着た別の選手が試合に出ていたぞ」なんて笑い話には、勝つためのヒントがたくさんありました。
人間には本音と建て前があり、教科書には建て前しか載っていません。特に勝負師であればあるほど、本音は言いません。本音を言えるような雰囲気を作れるかが大事なのです。過去に行った私の講演会では別の競技の指導者から「せっかくお金を使ったんだから、本音を言ってください!」なんて言われたこともありました。そんなことを言われると私も建て前は言えません(笑)。ジョークっぽく本気のことを言って本音を引き出せるのも、その人が持つキャラクターで指導者として成長するために重要な要素でしょう。
今の若い指導者はサッカーのことをよく勉強していると思いますが、もっと本質を学ぶべきだとも思います。世界の流れがパスサッカーだと言って、一時期は日本もパスサッカーが主流になりました。一流の選手が集まるチームなら同じサッカーをしても上手く行くかもしれませんが、我々が真似をしても上手く行きません。彼らは人件費だけで何百億もかけているチームに対し、Jリーグでも数億円の規模しかない。今いる選手に応じたチーム作りや選手の育成をしなければいけないのです。
そうした現実を無視して、1週間ほど海外に行った指導者が、「現地のサッカーはこうだった」と主張するのは間違っているのではないでしょうか。また周囲もそうした指導者をチヤホヤし、若い指導者も彼らが発する美しい言葉を正しいと信じ込んでしまう傾向がある。本当に何が大切なのか考えて指導しなければいけません。立派な横文字に流されていては、指導者として間違った方向に進むでしょう。
■世渡り上手な子どもと親が増えている現代
時代に合わせて、子どもをしっかりと分析しなければいけません。家庭環境や性格も分析しながら、自分が過去に経験してきたことを照らし合わせて、指導すべきです。分析するには毎日、子どもたちと接する必要があり、私は今でも週に何度かは寮に泊まり、生徒の話に耳を傾けます。
話をしていると、この子はワガママな性格かなとか、自分を満たすために人の批判ばかりする子かな、などの気付きがあります。そうした子には、「人には色んな性格があって、人の悪口ばかり言う奴も居るんだ。人のせいにしちゃいかん」とチクリと皮肉を言ったりね。
インターネットが発展し、情報化社会となった現代は、様々な情報が手に入るため、世渡り上手な子どもが増えました。大人が喜ぶ言葉を発する子どもが増えているため、受け取る大人の目が問われる時代と言えるかもしれません。立派な言葉に心が伴っているかどうかを日常の言動から判断しなければいけない。
親御さんも子どもが試合に出られるよう一生懸命、気に入ってもらおうとしすぎているような気がします。子どもと同じで世渡り上手な親御さんが増えました。そうした親の背中を子どもたちは見ているため、同じような性格に育つのです。
人間とは面白いもので、子どもが活躍すると親が平常心でいられなくなるものです。国見時代も含めて、勘違いをしてしまう親御さんをたくさん見てきました。ただ、V・ファーレン長崎にいる中村北斗の親父さんは違って、息子が一年生からレギュラーになり、二年生で優勝しても勘違いをしなかったんです。島原の屋台に顔を出したら、店の大将が「先生の学校にいる中村北斗って子は応援団の団長らしいね」と声を掛けてきたのです。「一年生からレギュラーなのにな」と思っていると、親父さんは店の常連だけど息子の自慢を一切したことがなく、「うちの息子は応援団の団長だ」と言っていたそうなんです。そこまで男気を持った親父さんはなかなかいません。大したもんですよ。
■子どのたちの組み合わせは性格を考慮して考える
一人ひとりの性格を見極めた上で、重要になるのが練習や日常生活での子どもたちの組み合わせです。例えば、性格的に合わない二人をあえて同じグループで1週間練習させますが、試合が近づくと離してみたりします。1年生が5人いれば全員の性格は違うため、気が弱い子どもは優しい先輩のグループに入れたらのびのびプレーできるかな、甘えん坊同士が一緒になると、練習の雰囲気が緩んでしまうので厳しいグループ入れようなどと考えてグループ分けをするのです。
遠征の部屋割りも同じで、ワガママ同士をあえて一緒の部屋にしたり、連泊する時は一年生がずっと先輩と同じだと疲れてしまうので途中で気を遣わない先輩の部屋に代えます。そんなことを毎日、30分から1時間ほど頭を悩ませるのが日課です。指導者によって適当にグループ分けする人もいますが、私はそこまで拘りたい。もちろん「組み合わせは失敗したな」と思うこともありますが、次に活かせば良い。
パーフェクトな人間なんていません。未だに「俺の見る目がなかったな」なんて思うことがたくさんあります。若い時は特に勢いだけで突き進むから、数えきれないほど失敗してきました。若い頃は身体が動くからドンドン色んなことにチャレンジできる。歳をとると身体が動かなくなり体力も無くなるから、過去の経験を基に頭を動かす。世の中うまくできていますよ。
■自分のポリシーや考え方を持った選手でないとプロで成功できない
今の時代では珍しくなった芯の強さを持った選手は大事で、セレッソの安藤瑞季は私がいくら大学を進めても、「先生僕はプロに行きたいです!」と折れなかった。今年、湘南ベルマーレに加入した鈴木冬一も同じで転校してから成績が急激に良くなったため、大学を勧めたのですが、どうしてもプロに行きたいと譲らなかったので、高卒でのプロ入りを認めました。
もちろんプロでやれるだけの能力は必要ですが、彼らのような「絶対にプロになる」といった意思の強さも必要です。プロに来いと言われたからといった簡単に行くようではダメなのです。
18歳の人間だから、サッカー以外の誘惑に打ち勝つのは難しい。それでも、流されないためにも人間的にしっかりしているかも重要で、二人はその点での心配はしていないのも認めた理由です。きっちり返事ができ、自分のポリシーや考え方を持っている選手でなければ厳しいプロの世界で活躍できないのです。プレーや口先だけなく、指導者が総合的に判断した上で進路を決めてあげなければいけません。
サッカーが上手いだけの選手ではプロで通用しないのは過去の歴史を見れば一目瞭然ですが、「俺は違う」と勘違いしてしまう選手や指導者が多いように感じます。
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サッカー指導者 1996年JFA 公認S級コーチ(S級ライセンス)取得
長崎県出身。大学卒業後教師になり1968年より長崎県立島原商業高校でサッカーの指導をスタート。1977年インターハイで長崎県勢として初優勝。1984年に長崎県立国見高校へ赴任。サッカー部を全国高校サッカー選手権で戦後最多タイの6度の優勝に導いた。2006年3月に国見高を定年退職した後は、2011年から長崎総合科学大学附属高等学校サッカー部で指導。
国見高校サッカー部は高木琢也、三浦淳宏、大久保嘉人、平山相太をはじめとする日本サッカー界を代表する選手を輩出している。