子どもの疲れやケガを防ぎパフォーマンスを高めるには?

2023年6月28日

成長のための貯金づくりとして行う親のサポートとは? 谷真一郎×坂口望対談

ヴァンフォーレ甲府のコンディショニングコーチを長く務め、タニラダーを通じて、子どもたちや保護者と関わることも多い、谷真一郎さん。戦略的なリカバリーを提唱し、「より良いトレーニングと栄養、休息が合わさることで、選手はさらに成長していく」と、日々の活動を通じて伝えています。

管理栄養士/公認スポーツ栄養士の坂口望さんは、野球やバスケットボール、バレーボールなどを通じて、成長期のアスリートの栄養指導に携わっています。また、医療法人 良整会 よしのぶクリニックの血液内科に勤務し、スポーツと医療、両面の知識を活かしたサポートを行っています。

今回は様々な知見を持つおふたりに、栄養とケガ予防の観点から話をうかがいました。お子さんの身長を伸ばすためのヒントを知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。(取材・文 鈴木智之)

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■食べる理由を理解させる

谷:坂口さんは管理栄養士として活動しながら、3人のお子さんを育てるママさんでもありますね。

坂口:はい。長男が高校生で次男が中学生、長女が小学生で、上の二人が野球、下の子がバレーボールをしています。

谷:お子さんの食事に関して、どのような取り組みをしていますか?

坂口:長男は子どもの頃、野球のピッチャーをしていました。本人が「プロになりたい」と言っていたので、「ピッチャーでプロになるには、身長がないとだめだよね」という話をして、段階を経て食べるようにしていきました。

谷:素晴らしいですね。具体的にはどのようなことをしていたのですか?

坂口:やみくもに「たくさん食べなさい」と言っても難しいと思ったので「ピッチャーでプロになるには身長が高い方が有利」「成長期までしか、体が大きくならないのだから、その時期にたくさん食べよう」と、理解させるところから始めました。


谷:それはすごく大切で、理由も言わずに「たくさん食べなさい」と言うと、子どもにとって食事が苦痛になってしまうんですよね。給食を全部食べるまで、片付けさせないみたいなことになりかねません。

坂口:プロを目指すとなると、高校から寮に入ることが一般的ですよね。なので、高校生になるまでに、寮に入っても食事面で困らないようにと考えていました。具体的には、好き嫌いをしないことと、朝から量を食べられるようにしておくことです。

■徐々に食べる量を増やす

谷:どのようにして、食べる量を増やしていったのですか?

坂口:まずは「出されたものは全部食べようね」というところから始まって、朝からお米をしっかり出すようにしていました。長男の場合は徐々に量を増やしていって、中学を卒業する頃には、朝からお米を500g食べていました。その姿を見ていたので、次男も長女も自然と食べるようになりましたね。

谷:小中学生の頃、練習量はどのぐらいでした?

坂口:長男も次男もクラブチームに入っていて、活動が週末だけだったんですね。なので基本的には自宅でキャッチボールやランニング程度でした。私としては「早く週末にならないかな、野球がしたいな」という気持ちに持っていきたかったんです。

谷:それはすごく大切なことで、心身ともに良い状態でトレーニングするからこそ、効果があって成長していくんです。私の周囲にいるサッカーの子たちは、とにかくサッカーをしすぎだと感じます。「もう少し、休んでも良いんじゃない?」と思ってしまうぐらいに。

坂口:うちの子は、やりすぎとは程遠かったですね。というのも、プロを目指すのであれば、高校時代にピークを持ってこなければいけないと思っていたんです。そこから逆算すると、小中学生時代は成長のための貯金を作ることが大事だと思っていました。


谷:その重要性を理解している坂口さんはすごいと思います。まさにそのとおりで、私がアドバイスできることはなにもありません(笑)

坂口:ありがとうございます(笑)。長男は練習をしすぎず、たくさん食べて、夜9時半には寝ていました。それで体も大きくなりましたし、大きなケガもなく、高校でも野球をできているので、結果としては良かったのかなと思います。
そういう指導方針や環境を作ってくれた指導者やチームに感謝しています。

■急激に身長が伸びた末っ子

谷:それはすごいですね。坂口さんは栄養士として、スポーツをするお子さんやご家族の相談に乗っていると思いますが、印象的な事例はありますか?

坂口:3兄妹の末っ子(男の子)の栄養相談を受けたことがあるのですが、3兄妹のうち、一番上のお兄ちゃんが160cmほどで、真ん中のお姉ちゃんが153cmでした。一番下の子が小学6年生のときに相談を受けて、中学3年生になったときに175cmまで伸びたんです。

谷:兄妹の中でも、だいぶ背の高さが違いますね。

坂口:そのとき、お母さんが「上の子に申し訳ないことをした。私が与えていた日々の食事が不十分だった」と言っていました。栄養相談にのった一番下の子は、一度の料理で卵を2個使ったり、お米をたくさん食べるようになど、様々なアドバイスしました。

谷:栄養指導の影響は間違いなくあるでしょうね。

坂口:その子は県外の高校の寮に入る予定だったので、お母さんとは「中学生のうちに、体の貯金を作って送り出したいよね」という話をしました。私は血液内科に務めているので、血液データをとって、食事では補えない鉄やビタミンB12をサプリメントで摂取してというのを続けました。

■スポーツ選手に不足しがちなビタミンB群

谷:栄養士の方の中には「栄養は食事からとりましょう」と言って、サプリメントに拒否反応を示す人もいますが、坂口さんはそうではないんですね。

坂口:はい。鉄はとくにそうですが、どれだけ頑張っても、食事だけでは補えない栄養素があります。ビタミンB群も同じで、成長期のスポーツ選手にお伝えしたいのは、汗をたくさんかく、食が細い、練習量が多い、帰宅が遅くて食事が十分にとれていない時は、ビタミンB群が不足している可能性があるということ。栄養素をバランスよく摂取できるのであれば、サプリメントを適切に活用するのはありだと思っています。

谷:私も同じ考えで、選手にサプリメントを勧めています。

坂口:働きながら子育てをしている時に微量栄養素をとるためには、食事だけでは難しいので、自分の子どもには必要な時はサプリを飲ませる時もありますし、プロテインも活用する時もあります。食事の内容が良くないと、ケガの治りが遅かったり、コンディション不良になってしまう選手も多く、その結果、不登校になる選手をたくさん見てきました。

谷:それはとても残念なことです。

坂口:私がよく行く整骨院の先生も「食事をしっかりとっていない子は、ケガの治りも悪いし、ケガを繰り返す」と言っていました。骨折にしても、折れた骨を修復するための材料は食事からとる栄養です。その理屈はわかっていても、本当に理解して実行している方は、あまり多くはない印象があります。

■栄養や休息に目を向ける

谷:それは声を大にして言いたいですね。練習をハードにするのであれば、その分、適切な栄養と休息をとらなければいけません。せっかく頑張って練習しているのに、体が回復しないまま続けると、ケガにつながるので逆効果です。

坂口:おっしゃるとおりで、私は栄養士として多くの選手に接し、3人の子どもを育てる中で、食事と休息の大切さを実感してきました。子どもたちがケガなくプレーすることができて、夢に向かって進んでいくためにも、保護者のサポートは欠かすことができません。ぜひこの記事を読んだ方は、食事や休息に目を向けていただけたらと思います。

谷:実体験に基づいた、とても貴重なご意見をありがとうございました。

坂口:こちらこそ、ありがとうございました。

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●谷真一郎(ヴァンフォーレ甲府・フィットネスダイレクター)

筑波大学在学中に日本代表へ招集される。同大学卒業後は柏レイソル(日立製作所本社サッカー部)へ入団し、1995年までプレー。 引退後は柏レイソルの下部組織で指導を行いながら、筑波大学大学院にてコーチ学を専攻する。その後、フィジカルコーチとして、柏レイソル、ベガルタ仙台、横浜FCに所属し、2010年から2019年までヴァンフォーレ甲府のフィジカルコーチを務め、現在はフィットネス・ダイレクターとして幅広い年代の指導にあたる。『日本で唯一の代表キャップを持つフィジカルコーチ』

●坂口望(管理栄養士/公認スポーツ栄養士)

糖尿病専門クリニック、産婦人科、スポーツクラブ、スポーツ栄養運営会社などを経て、現在はスポーツ貧血に力を入れながら高校非常勤講師、バレー部寮献立、血液内科で外来栄養指導、ジュニアスポーツ栄養相談などの活動を行っている。プライベートでは硬式野球少年2人、バレー少女1人の子を持つ母。実体験を元に「簡単で・わかりやすく・継続しやすい」をモットーに栄養アドバイスを行っている。

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