「子どもを伸ばす親は、これをする」高妻教授の保護者メンタル強化論
2012年8月20日
一緒に笑って、感動しよう。サッカーを楽しむ保護者は、子どもの成長見本
夏から秋へ。スポーツ観戦にも適した時期を迎え、子どもたちの練習や試合を見に行く機会も増えるのではないでしょうか。応援は「自分の子もよその子も、公平に」(第2回)でした。では、どう応援したらいいのでしょう?「無理をする必要はありません。子どものスポーツ参加を一緒に喜び、練習や試合を楽しむ。これが大事なのです」。保護者がスポーツに興味を持ち、楽しんでいる様子を見せれば、子どもたちが「自分はこの競技に熱中していいんだ」と安心でき、スポーツに打ち込むための心理的サポートが得られます。皆さんができる範囲で、子どもの好きなスポーツをポジティブに楽しむ。それが選手の成長にもたらす意味を、改めて考えてみました。
■ミスを責めないで、前向きな応援を続ける
子どもの成長のために、何か役立つアドバイスをしたい。そう考える方は多いのでしょう。練習中の子どもに話しかける保護者も増えているそうです。しかし応援とコーチによる指導とはしっかりと区別する必要があります。
【練習や試合の応援では、こんな態度に要注意】
練習や試合で、自分の子どものプレーに何か言いたくて、コーチや監督の指示を待たずに呼んでしまう。「ちょっと、こっちに来なさい。何だ、今の気の抜けたプレーは。こんどはしっかりシュートして、点を取りなさいよ」。さらには指導者を怒鳴るようなケースまで。「コーチ、さっきの指示はよくないでしょう。あなた、何もわかってないじゃないか」……。
「ミスをひとつ取り上げて、あれがよくない、こうした方がいいとネガティブに批評されると、プレーする選手は落ち込むでしょう。サッカーは誰かミスをしても試合は続きますし、そのミスは違う人がカバーすることも当たり前です。さらに点を入れた後ですぐ守備に回るような、素早い気持ちの切り替えが必要なスポーツ。落ち込んでいる時間はありません。常に気持ちを前向きに保つよう、保護者の皆さんにもポジティブに応援してほしいのです」。
例え練習や試合でミスをしても、「この経験は、選手が欠点を克服するチャンス」と考えて、「次はがんばれよ!」と励まし、よかったプレーをほめたたえる。そんな前向きな応援を続けたなら、リラックスして試合や練習を楽しんだ選手たちが好結果を残してくれるでしょう。また言葉以外の表情やしぐさといった、ノンバーバル(非言語)なコミュニケーションでも、子どもたちに気持ちは十分伝わります。言葉だけでなく、心から前向きに応援できるよう、保護者も自分のメンタルを強くするような工夫は必要かも知れません。
一方で、子どもたちの非常識な言動(団体行動を乱す、レフェリーに反抗するなど)は明確に叱ることが大事。こうした言動を放っておくと、“勝てばいい、結果さえよければいい”と誤解を招く原因にもなるからです。
「これまで多くのサッカー選手を育ててきた経験から、サッカーを本当に好きになった人は、大人になってもずっと続けてくれると信じています。だから、お子さんとサッカーとの関係は始まったばかり。成長するチャンスはこれから数多くありますし、保護者の皆さんもそれを楽しむ力を育ててほしいですね。詳しくない方は詳しい人に話を聞くなど、保護者同士で交流を深めることも1つの方法です。そうした親の姿を見るだけでも、子どもたちは安心するのではないでしょうか」。
■子どものやる気を維持するのは、保護者の環境作り
子どもたちがポジティブに練習する。保護者の皆さんがポジティブに応援する。そうした前向きの姿勢を支えてくれるのは、「これがやりたい」と自ら進んで思う内発的なやる気だと高妻先生は言います。
「学問的にも、『このスポーツが好き。やっていて楽しい。上達することがおもしろい』といった気持ちにあふれた、“内発的なやる気”のある選手が伸びると証明されています。勝手な目標を押しつけたり、追い込んだりしないよう、子どもの現状を理解した後押しをすることが、保護者の役割だと思います」。
しかし子どもを脅し、怒るなどは、保護者を嫌いにさせ、スポーツ自体も続ける気をなくさせる、最も下手な指導方法、コミュニケーションだと高妻先生はアドバイス。
「試合や練習の後、子どもが楽しいと感じること、上達したと思うことなどを話し合い、努力の大切さが伝わるようコミュニケーションしてほしいと思います」。
もちろん毎回無理をして応援に駆けつける必要はありません。応援に行けなかった時も、練習や試合の内容を聞き、本人がどんな進歩をしたのかを話し合うことで、きっと次へのやる気が生まれてくるでしょう。結果の評価ではなく、そのプロセスを聞き、努力を評価することが必要です。
「自分の仕事や生活に支障が出るほど、無理な応援は長続きしません。保護者の皆さん自身が自然体で暮らしていただくことが、子どもがスポーツを取り入れた生活をする見本になってほしいですね」。
「『子どものやる気』を支えるため、保護者ができること」
高妻容一(こうづまよういち)//
1955年生まれ。東海大学体育学部教授。国際メンタルトレーニング学会、国際応用スポーツ心理学会など多数の学会に所属。1994年にはスポーツ心理学を背景としたメンタルトレーニングの組織「メンタルトレーニング・応用スポーツ心理学研究会」を設立し、日本でのメンタルトレーニングの正しい理解と情報交換を目的に活動を続けている。
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