「サカイクキャンプ」でサッカーの技術とライフスキルを身につける
2017年6月 8日
自分に足りないことを見つけ、考える力がつく 「人生に必要な"5つのスキル"」がサッカーの上達にも重要な理由
前回は、ライフスキル・アドバイザーの東海林祐子先生(慶應義塾大学准教授)に「なぜスポーツにライフスキルが必要なのか」、また「ライフスキルを身につけることで結果が変わるのか」などをお話いただきました。後編も引き続き、ライフスキルの研究における体験談やサカイク・ライフスキルの考察など様々なことをお聞きし、サカイクキャンプとはどんなものなのかをお伝えします(取材・文:サカイク編集部)
■自分たちで考え、意見を伝えたことが結果につながったあるチームの話
考える力を身につけるためには時間が必要なことを前回触れましたが、東海林先生は過去ライフスキル教育を導入した「ある野球部が素晴らしい変化を遂げた」エピソードを語ってくれました。
「考える力を養うには時間がかかりますし、まずは選手たちが『自分で考えてそれを実践できる』指導者との信頼関係が大事になります。練習や試合で失敗してその原因を追及されるような雰囲気では選手は自分の考えを本音で安心して発言できません。指導者には選手が自分の考えを言える環境づくりが必要です。
たとえば、ある野球部の監督にライフスキルを理解してもらい、部活でライフスキル教育として野球ノートを始めました。監督にとってはものすごく大変だったようですが、『選手たちが何を考えて練習に取り組んでいるのかがわかるようになった』と初期段階でその変化を言っていました。
これまでと違い、選手が練習でやっていることの意図が見えるようになり、監督は彼らの行動を容認できるようになったから練習を見守るようになれたと言います。そういう信頼関係がある中での練習が続き、次にある日選手同士が自分たちの考えを伝え合いながら練習をするようになったそうです。
そして、大事な試合に勝ちました。日頃からの野球ノートなどのライフスキル教育が身を結んだワンシーンが試合の勝利につながったそうです。その試合のある局面で監督がバントのサインを出したそうなのですが、選手がそれに意見を言いました。なぜなら、その試合のピッチャーの球にはクセがあってなかなかバントがうまくいっていなかったからです。
そこで、そのチームでバントのうまい選手が「バントがやりにくいピッチャーだからバントじゃないほうがいいと思います」と監督に意見を伝えたそうです。すると、監督も納得してヒッティングのサインに切り替えたら見事に得点できてその試合に勝つことができました。
これまで選手たちが自分の意見を監督に伝えることはなかったのに、その重要な場面でなぜ意見を言うことができたのでしょうか。それは日頃から野球ノートを通じてお互いの考えを伝え合うことで信頼関係が築けていたからです。
■考えること、サポートの質が大きな違いを生みだす
実はこの話には続きがあって、その下の後輩の選手たちは「僕らはノートよりも練習を重視したいです」と言ってきたので野球ノートをやめたそうですが、その代の選手たちはうまく上達しなかったそうです。やはり思考力を高めることは日頃からの積み重ねから始まるのではないでしょうか」
最近ではサッカーノートを利用するチームが増えましたが、子どもたちの考える力を育むのはもちろん、指導者にとっても選手たちの考えを知る機会になります。それは結果的に練習での関わり合い方に生きるし、より深い信頼関係を築ける一つのツールになります。この野球部の話はノートというツールがライフスキルを高め、結果につながった一つのエピソードです。
私はコーチングを「指導者が持つ権限を状況に応じていかに配分して選手を目標達成に導くか」と定義しています。ですので、監督やコーチが選手にできることは限られています。「Player's First」とよく言われますが、監督やコーチができることはあくまでも選手たちの成長のサポートです。しかし、そのサポートの質が子どもたちの上達に大きな違いを生むことは間違いありません。
高校の野球部の野球ノートの事例で見られるように、指導者は学生との信頼関係を築いたり、パフォーマンスの向上に向けて試行錯誤を繰り返しながら望ましいコーチングに近づきます。指導者は失敗を伴うことももちろんあると思います。それを次のコーチングに必ず生かすという意識のもとでの修正が必要になります。そうやって指導者は指導力を高めていきます。よって、選手のトライ&エラーと同様に指導者にもトライ&エラーは必要なのです。
「スポーツは不確実性が高いものです。競技力を高めても結果にうまく反映されないことがあるし、人間力を高めても結果に表れないことも多くあります。人間力は大事だと言いつつ、競技力とどう関係があるのか、子どもにどう伝えたらいいのかがわからない指導者がたくさんいます。だから、私は勝利の一つの一因としてライフスキルがあるという仮説のもと研究に取り組んでいます」
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