元日本代表コーチが教える! サッカーと勉強の相乗効果を引き出す方法
2014年3月24日
頭の良いアスリートを目指せ 勉強は頭のトレーニング
元日本代表コーチ、小倉勉さん(ヴァンフォーレ甲府ヘッドコーチ)が教える、勉強とサッカーどちらも諦めない方法。前回と今回は授業時間の過ごし方にスポットを当ててお送りしています。
知的な“サッカーバカ”になることを推奨する小倉さんは「何でもサッカーに置き換えて、サッカーに役立てようと努力すること」がサッカーバカへの近道だと言います。
子どもたちは興味があることなら頑張れる。自発的、内発的なやる気を引き出すには、発想の転換が必要なのです。小倉さんは、勉強に興味が持てない子どもたちにこう話しかけます。
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■勉強は脳を鍛えるトレーニング
みなさんはサッカーがうまくなりたいと思って、毎日一生懸命トレーニングに励んでいると思います。試合でたった一点を決めるため、たった一本のシュートを成功させるために、毎日何十本ものシュート練習を繰り返しているはずです。
何十本ものシュート練習を一年続けたらどうでしょう?
サッカーをはじめてからこれまで、一体どれくらいボールを蹴ったでしょう?
きっと数千? いや数万本になっているかもしれません。
はじめは弱々しく飛んでいったボールが次第にスピードを増し、ネットを揺らすようになります。ボールを蹴り続けているうちに「今度はもっと隅のコースを狙ってみよう」「GKの位置を確認して逆を突こう」と、どんどん「良いシュートを蹴るための工夫」が頭に浮かんできます。ときにはシュートを外すこともあるでしょう。しかしその失敗も次の成功のための糧になります。シュート練習を繰り返すうちに良いシュートが打てる回数が増え、試合でも使えるシュートの技術が身についていくはずです。
同じように、小学校で掛け算の「九九」を覚えたときのことを思い出してみてください。
最初は2の段でも苦労し、時間をかけないと答えが出てこなかったのが、繰り返し練習するうちにスラスラ言えるようになったのではないでしょうか?
シュート練習も九九も同じこと。練習を繰り返すと、素早く、正確にできるようになるのです。つまり、勉強もせずに「自分は頭が悪い」とか「成績が悪い」と言っている人は、サッカーの練習をろくにせずに「自分はサッカーが下手」と言っているのと同じことです。
■学校の授業もトレーニング
これまでの話でサッカーがうまくなりたければ、身体や技だけではなく脳も鍛えなければならないことはなんとなくわかってきたでしょうか? また、サッカーが好き・得意なことと、勉強が好き・得意なことも自分の思い込みで、実はそんなに大きな違いがないこともぼんやりとはわかってきたはずです。
「発想力を身につける勉強が重要なのはわかったけど、暗記型の勉強はどうなんでしょう?」
保護者の方の中にはこうした疑問もあるでしょう。
悪く言えば詰め込み型といわれてしまう受験を前提とした日本の教育にまったく問題がないとは言いませんが「暗記はしなくても良い」と子どもたちに教えてしまうことには問題があります。
じつはこうした暗記型の勉強につまずいて勉強嫌いになってしまう子どもが意外に多いのです。
なかなか覚えられない、覚えたつもりでもすぐ忘れる……だから自分は頭が悪い。こうした思い込みで勉強を諦める、結果として成績が悪くなる。こんな悪循環に陥っているお子さんはいませんか?
何度も繰り返しますが、記憶も脳の働きのひとつである以上、授業で暗記をすることとリフティングの技やボールタッチができるようになることは原理的には同じことなのです。
反復練習で何度も練習しているうちに脳に記憶させるテクニックが上達したということなのです。人間の脳というのは、意識しないと不必要なことは覚えようとしませんし、また忘れることで新たな情報を受け入れるということを繰り返しているのだそうです。つまり、記憶力は覚える事で強化されるのです。
あまり重視されない暗記型の科目ですが、理解したことを秩序立てて覚えておくというトレーニングに最適の教科です。
■サッカーに関連づけて覚える
「うちの子は物覚えが悪くて」
それって本当でしょうか? あんなに複雑なリフティング技を一度見ただけで覚えてしまうサッカーキッズが、数回耳にしたことがあるだけの外国のサッカー選手をスラスラ言える子どもたちが、物覚えが悪いはずはありません。
本田圭佑選手が活躍するACミランはどこの国のチームでしょう? 香川真司選手がプレーしているのは? 次のW杯が開催されるブラジルはどこにあるでしょう?
たとえば世界地図を持ってきて、こんなことを聞いてみるのはどうでしょう? 画像や映像、風景を整理して関連づけ、記憶にしていくことは脳を活性化するのにも最適ですが、地理や歴史が苦手な子どもたちもサッカーに関わることなら抵抗なく覚えられるのです。
数学と並ぶ苦手教科、理科にもサッカーに役立つ要素があります。
生き物の生態を観察したり、実験や実習を通して物事の原理を理解する理科は観察力、分析、推理力を養うのに最適です。動物や植物の成長を記録したり、顕微鏡を使って普段とは違う世界を覗いたりすることで「見る」ではなく「観る」方の観察力が身につきます。
物体の運動を学ぶ物理的な分野はまさにサッカーにうってつけです。詳しくは中学、高校で勉強しますが、子どもたちは論理を学ぶ前に物理の法則を身体で学んでいます。
■ボールを曲げる原理の基本を知る
パスやシュートをする際に、どこをどう蹴ればボールが曲がるのか? どの角度でボールを受けたらいいトラップができるのか? サッカーの動きは物理の法則の宝庫でもあります。
ボールが曲がったり、浮き上がったり、沈んだりするのはボールの回転と空気の抵抗によるものですが、物理を勉強するとボールの変化を理論的に知ることができます。もちろん小学生ではこうした考えの基礎となる部分しか教わりませんが、理科という教科の要素にサッカーが関係していることを知ったら、子どもたちの理科に対する見方も変わってくるはずです。子どもたちはもともと「なぜ?」「なぜ?」とうるさいくらいに聞いて回るのが仕事です。「なぜ?」を自分で探究するが理科で経験する観察や実験です。
空気抵抗を揚力の関係を知ることでボールが曲がる理由を知ることができれば、自分のフリーキックがなぜ曲がるのか? どうやったら無回転のブレ球を蹴ることができるようになるのか? を理論的に理解できるわけですから、やみくもに工夫したり、経験から学ぶ以上に効率的に体得できるはずです。
物理を勉強することは、即実践テクニックに活かせる力学を学ぶことでもあるのです。
小倉 勉(おぐら つとむ)
1966 年生まれ大阪府出身。大学卒業後、同志社香里高等学校で講師として教鞭を執りながら、サッカーを指導。1990年に渡独、ブレーメン国際日本学園の教員、サッカー部監督を務める。92年、帰国し、ジェフユナイテッド市原 (現、市原・千葉)で育成部、サテライト、トップなど、あらゆるカテゴリの指導者を歴任。日本代表コーチとしてイビチャ・オシム監督、岡田武史監督の下でコーチを務め、2010年南アフリカW杯に出場。12年には関塚隆監督の下U-23日本代表コーチとしてロンドン五輪に出場。大宮アルディージャを経て、現在はヴァンフォーレ甲府ヘッドコーチ。
日本サッカー協会公認A 級、AFC 公認プロフェッショナル
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