「超弱いチームでも強くなるよ」と語る監督が実践した、選手がよく伸びる指導法
2018年4月 3日
「個性を生かす」「特長を伸ばす」の真義<前編>
元大分高校サッカー部監督・朴英雄氏。Jユース・公立高校に優秀な選手が流れる環境のなか、県内で二番手・三番手の選手たちを率いて全国高校サッカー選手権・インターハイに幾度も出場した名監督です。
2010年の高校サッカー選手権では全国3位という好成績。記者会見では
「うちのように県で2.5番目の選手を集めたって、弱いチームこそ強くなる。それを本にして、県でベスト8以上のチームには売らない。それ以下の、小学校から幼稚園までわかるような説明が入っているものを皆さんに配りたいくらいの気持ちがあります。そうしたら強くなるので。タイトルまで考えています。『超弱いチームほど強くなるよ』」と語り注目を集めました。
そんな朴監督の選手の個性を生かし、特長を伸ばす指導、そしてモチベーションを引き出すノウハウに迫ってみました。
(記事提供:内外出版社、取材・写真:ひぐらしひなつ)
■チームはオーケストラだ
僕はサッカーをよく音楽に喩えて考えます。ハーモニーが大事だということでね。
チーム編成はオーケストラ。走るのが速い選手がいたり遅い選手がいたり。背の高い選手がいたり低い選手がいたりする。いろんな楽器があるのと似ているでしょう。低い音域があるから高い音色が映えるように、補欠の支えがあって、主力が強くなるのも同じ。
そんな感じで緩急や強弱をつける。ここは一気にティンパニで攻めようとか、いまはちょっとフルートで安らぎの時間帯をつくろうとか。いつボールを前に運ぶかというのは、地のメロディーがあって、サビで盛り上がって、という感じで。だからサッカーの監督は、オーケストラで言えば指揮者です。
■本能的なクセを生かせばポテンシャルを引き出せる
背が高いとか走るのが速いとか足元の技術があるとか、プレーヤーの特長を見るというのもひとつですが、僕が最も見きわめたいのは、それぞれのプレーヤーの「良いクセ」。いわば、本能的なクセですね。
たとえば、食べるときに左右どちらの歯で噛んでいるか。あまり意識したことはないでしょう。人は意識せずにいると、自然とどちらかに偏ってしまっていることが多い。
サッカー選手もそうなんです。何の指示もせず自然にまかせてプレーさせてみると、ふらふらと右に寄っていったり左に行きがちになったり。前に出るのが好きな選手もいれば、どんどん後ろに下がってくる選手もいる。それは彼らのそれぞれの無意識的な動きです。つまり、本能でやっているプレーですね。
成長期で、これからスタイルやタイプを育てていく年代に対してならば、不得意なところを重点的にトレーニングするのも効果的ですが、高校生ともなると、すでにひとりひとりがある程度の「型」を持っている。その「型」をいかに生かしていくかが大事なんです。
たとえば身長の低い選手に「お前は身長の高い選手との空中戦で競り負けるから一所懸命ジャンプの練習をしろ」なんて言ってもナンセンスでしょう。それよりも「勝たなくてもいいから、相手に少しでも良い体勢でヘディングさせないように、タイミングよく跳んで体を当ててバランスを崩させろ」という指導のほうがいい。
あるいは、その選手にはセカンドボールの処理を担当させる。スペースや次にボールを受けそうな相手を見きわめて素早くプレッシングに行き、コントロールさせないようにすること。小柄なほど短距離を素早く動けたりするから。
でも、本当の勝負は、それよりも前の段階だと思っています。大きい相手に良いボールが来ないかぎり、彼にヘディングをするチャンスはない。球際の戦術を高めることによって、良いタイミングで良いボールがセンターフォワードに入らないようにする。もとの部分から対策するんです。
そんなふうに、それぞれの特徴のなかで自然に出てくるプレーを、その選手の最も得意とする形につなげていく。それを引き出して生かすことが、組織の力になっていくんです。
世界トップクラスで活躍している選手を見ていると、彼らは本能的に判断しているように見えてしまう。それだけ自然体でプレーしているのかなと。見ている人の予測を裏切るようなプレーをする選手がいるじゃないですか。ああいう選手がいるチームは防ぎにくいですよね。
だから、ある程度は理論的に教えることも必要だけど、やっぱり本来は、選手たちの本能的なプレーを日頃のトレーニングのベースとして取り入れて、選手個々のスキル、クオリティーの高い技術を応用できるようにしてほしい。そういうものを持っている11人を鍛えることによって、試合の中でそれが良いハーモニーを奏でたら、それもひとつの結実なんです。監督がつくった大枠の中で選手たちがのびのびと組み立てるサッカーというのは、その組み合わせでしか生まれてこないものですよね。