「超弱いチームでも強くなるよ」と語る監督が実践した、選手がよく伸びる指導法
2018年4月 3日
「個性を生かす」「特長を伸ばす」の真義<前編>
■まずは出来ることを究めさせる
ウチの選手たちは器用じゃない。僕は1個しか持ってない子に2個、3個を要求しません。持っている1個をきちんと出来るようになれと言います。それは大事な1個なんです。すると、試合の中で2個、3個が出てきたりするんですよね。だからつねづね「自分の得意なことを伸ばせ」と選手たちに伝えています。
たとえばある選手は、よくしなる身体を持っている。だけど少し線が細い。だから人と接触せず、オフ・ザ・ボールにおいてどうすれば相手の視野から消えて良い状態でボールを持てるかという動きを指導するんです。そうすることで彼は自分の身体的なハンディキャップを克服できる。大きな相手が来ても、圧迫された状態でボールを受けずに済むようになる。
それが出来はじめたら、今度は体のしなりを生かしたプレーに入る。ボールを受けてドリブルをする、あるいは周囲を生かしていく。相手から逃れて良い状態でボールを受けることが出来れば、今度はドリブルが映えてくる。
でもいくらオフ・ザ・ボールの動きを鍛えても、試合の中では必ず圧迫されるときが出てくる。そうなったら今度は、どういうふうに周囲を使い周囲に使われるかを考えましょうと。高い位置にいるときと低い位置にいるときで、それは変わってきます。低い位置にいたら人を使う。高い位置にいるときは人から使われる。そういう技術を身につけさせるんです。
また足が速い選手には、まずは自分のスピードを生かせるボールの受けかたをトレーニングしなさいと言う。下がってボールを受けて、ボールが来たらこうしなさいああしなさい、ということは最初からは言わない。最初の段階が出来るようになったら、次は相手の背後へと走り出すことを教える。でも相手がそれに慣れて対策してくるようになったら、今度は下がってボールを受ける技術がないといけない。
そんなふうに、まずは出来ることを究めさせる。そうすると喜びもあるけど、やがて壁にぶつかるときが出てくる。そうなったら、それまでは選択肢になかった技術を教えていく。ドリブルもして前にも走って配球もしてという要求は、最初からはしないんです。走れる選手には、じゃあどうすればその走りを生かせるかということを、まず求める。走れるようになったら、サッカーは走るだけでは成り立たないから、どこでボールを受けて自分の走りを生かすかを考えさせる。
だから、1個をきちんと出来るようになれというのは、足が速いから走るだけ、ドリブルが上手いからドリブルだけという考えかたではないんですよ。そこから生まれる「壁」が、次へのステップになるんです。
人は、良くないところがあるとしたら、そこばかり見てしまう。成功したときの喜びを考えるのではなく、もし上手く行かなかったらいけないからこういう手を打っておこうと考える。先にその対策から入る。現状を変えることに対しても怖がる。それで良くならなかったらどうしようと怖れて、いまの状態を維持したい。
かつては僕にもそういうところがあって、出来ないところをどうやって修正してやろうかと考えていたんです。でも、よく考えたらそれは逆だとわかった。人間は、良いところをもっと良くしていくと、悪いところも自然に引き上げられて消えていくんです。悪いところを良くさせようとしてそこにずっと集中すると、良いところもすべて消えてしまうようだ。欠点を修正したと思ったときには、その選手の長所も消えてしまって安全パイなプレーヤーに過ぎなくなっていたりする。ミスせず無難にこなすだけでアイデンティティーがない。
だから選手たちに指導するときは、悪いところは控えめに見ようと思っています。そして得意とするところをもっと伸ばしてあげようと。
<後編に続く>
朴 英雄(パク・ヨンウン)
1960年6月12日韓国大邱(テグ)出身。韓国高校サッカー常備軍メンバー選出、嶺南大学体育教育学部卒。
1992年、大分市サッカー協会に招聘されて大分市トレセンチームを率い、第11回京都招待中学サッカー大会で優勝。翌年から大分高等学校サッカー部の指導に携わる。
1996年、第3回FBS杯高校サッカーチャンピオン大会で市立船橋高校を下し優勝。
全国高校サッカー選手権全国大会8回出場、うち2001年度大会ベスト8、2011年度大会3位。インターハイ全国大会出場8回。
韓国陸軍将校の経歴や独自のサッカー観と指導理念から「異色の監督」と呼ばれ、選手のポテンシャルを最大限に引き出すことに定評がある。
2016年11月、大分高校サッカー部監督を退任。