ボランティアコーチお助け隊
2016年11月 4日
初心者コーチの心得その3:サッカーというスポーツを知ろう
前回の連載第2回では「子どもの性質や特徴を把握しよう」をテーマに、「初心者コーチ&ボランティアコーチ 5つの心得」の一つをシンキングサッカースクールヘッドコーチ・高峯弘樹さんに話してもらいました。第3回のテーマは「サッカーというスポーツを知ろう」です。(取材・文 木之下潤)
【初心者コーチ&ボランティアコーチ 5つの心得】3.サッカーというスポーツを知ろう4.個々のキラッと光る部分を探そう5.コーチもクリエイティブになろう
■サッカーの本質、子どもの本気度はどんなコーチにもわかる
育成年代は、選手が主役だから「子どもの性質や特徴を知っておく」のが指導の前提です。その上でトレーニングを構成してシンプルな練習メニューを考え、「子どもに気づきをもたらすことが大切だ」と高峯さんは語ってくれました。さらに、それには時間を要するので、「コーチには、我慢や忍耐が必要だ」とも教えてくれました。
子どもが“サッカーを体現する”ことは、簡単なことではありません。なぜならボールを足で扱うスポーツだからです。しかも常に状況が変化する中で、走る・蹴る・止める・運ぶを、状況に応じて連続して行うことが難しく、それぞれの技術を試合でより適切に生かせる判断力、戦術やフィジカル、さらに思考やメンタルを同時に養うことが求められます。
このように言葉を並べると困難なように感じます。しかし、サッカーは遊びです。だから、初心者コーチやボランティアコーチが支える街クラブのコーチには高度な戦術論や技術論よりも、どの子もサッカーを長く楽しく続けるために必要な基本的なスキルを身につけさせることが本分です。だからこそ、コーチはサッカーというスポーツを知る必要があります。
「育成年代のサッカーが語られるとき、『こんなサッカーがいいよね』『フィジカルがもっと必要だ』『日本にはパスサッカーが合っている』……など、さまざまなことが挙げられます。どれも正解だと思います。でも、ぼくは少し論点がずれていると感じています。もっと大切なことは本質を理解することだと考えています。ゴールが2つあり、ボールが1個ある。ボールを奪い合い、勝つために相手より多くゴールを決めること。これがサッカーというスポーツではないでしょうか」
サッカーに必要不可欠なスキル、フィジカル・メンタル・思考はそれぞれの要素が複雑に絡み合っているため、一つの要素だけを抜き出した練習メニューをトレーニングさせてもその他の要素とリンクしていないのであまり効果的ではないと思います。
それゆえ、練習はできるだけ試合に近い状況を作り出し、トレーニングをすることが重要だと謳われているのです。ただし、その状況も試合のある部分を切り取ったシチュエーションにすぎません。だから、育成年代では練習の最後にミニゲームをすることが推奨されているのです。
「ぼくは『本気』が大事だと思っています。『日本は守備を向上させるべきだ』とよく耳にします。でも、守備を向上させたければ、攻撃を向上させるべきだし、その逆もしかりです。練習から本気でボールを奪い合う状況がなければ、守備も攻撃も試合に生きる本物のスキル(技術・戦術・判断力・フィジカル・メンタル・思考)は習得できません。本気のやり取りがあるから、悔しいとか、うれしいとか、心から沸き立つ感情が生まれ、自主的にサッカーに向き合えるのではないでしょうか。
どうやったらボールを奪われないでゴールに向かえるか。どうやったらボールを取り返してゴールへ向かえるか。ボールとゴールに対する本気度がサッカーの本質に直結しているのです。そこだけは絶対にいい加減な基準で子どもたちを見ていないし、そこだけは信念をもって伝えています。
サッカーの知識はなくとも、この部分だけはどんなコーチでも子どもたちに真剣に目を向けていればわかることなので、初心者コーチやボランティアコーチにも伝えられることだと感じます」
■サッカーはボールを奪い合い、相手よりゴールを決めるスポーツ
攻撃はボールをゴールに入れること、守備はゴールを守るためにボールを奪うこと。そのサッカーの本質を選手たちに投げかけつづけ、それぞれの状況で自分なりの判断しプレーできるようになる。それが街クラブのコーチに求められる指導であり、そこから先はプラスαだと捉えていいでしょう。
それなのに、最近はプラスαの部分ばかりがクローズアップされ、サッカーの本質を伝えることがおざなりになっている現状があります。当然、プラスαの部分に子どもたちの求める答えが潜むことがあります。そのため、初心者コーチやボランティアコーチは日々勉強を積み重ねることが重要です。しかし、本質をおざなりにしプラスαばかりを指導してしまえば、スキル習得においてドーナツ化現象を起こしてしまいます。結果的に、サッカー選手として必要な核は空っぽの状態です。
ジュニア年代における指導の難しさとは何なのか。それはサッカーが上手下手など、選手たちを大人が考える一括りで見るのではなく、一人ひとりに目を向けることではないでしょうか。しかも、数十人を同時に指導しながら。
「うまい子が下手な子と同じチームになり、ミニゲームで負けていると、うまい子が『コーチ、チームを変えて!』と要求してくることがあります。そんなときは『お前がみんなの3倍走ってボールに触って、みんなの3倍守って攻めてチームを助けたらいいじゃん。お前ならやれるよ』と言葉をかけます。褒められたら悪い気はしません。
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