子どもが心からサッカーを楽しむための「サカイク10か条」
2017年8月14日
子どもは親の分身ではない 指導はコーチに任せ、チャレンジの姿勢をほめることが成長の糧になる
■鈴木少年を奮い立たせたコーチの一言
その状況を、鈴木長官はどのように乗り越えたのでしょうか。ひとつは別の水泳クラブに移る、つまり環境を変えることでした。
「新しいクラブは、レベルも高く、年長の人たちがたくさんいるところだったので、刺激を受けましたし、頑張ろうと思える環境でした」
一方で、当時はまだ身体が小さく、このまま選手として伸びていけるのかという不安もあったといいます。
「はじめのうちは一生懸命取り組んでいたのですが、このまま水泳をやっていく価値があるのかなと考えるようになり、次第に練習をさぼるようになってしまいました」
そんな鈴木少年のやる気を再び奮い立たせたのはコーチの一言でした。
「お前は、将来必ずオリンピック行けるから頑張れ、と言ってくれたんですね。本当にそう思っていたのか分からないですが、そういう励ましを受けたことで、やる気が再び出てきました」
また、親の気づかいやサポートも、水泳を続けていく要因の一つになったと言います。
「朝練や大会の時には朝早く起きて会場まで送ってくれましたし、個人的には日曜日の練習が一番練習きついんですよ。みんな休んで遊んでいるのに、練習しなくちゃいけないわけですから。そうした思いを汲んでくれていたのか、親は休みの日でも出掛けるわけでもなく、家で私の帰りを待ってくれていた。そうした家族の協力がないとなかなか続けることは難しかったのかなと、今となっては思いますね」
■子どもは親の分身ではない、指導者を信頼して任せることも大事
鈴木長官がもっとも感謝しているのは、水泳に関してなにも口出しされなかったことだと言います。
「親なりに、私がハードな競技生活、トレーニングをやっていることは感じていたとは思います。だから家庭の中では水泳の話はまったくしませんでした。外で水泳を、それこそ嫌になるほどしてきて、家の中でも水泳の話をされたら正直うんざりですからね。これは、サッカーでも同じだと思います。必要であれば励ましだったり、鼓舞する必要はあるかもしれませんが、家の中では普段通りに自然な形で接していけばいい。一番良くないのは、親が教えたり、口出しすること。そこは指導者の役割ですから。指導者を信頼して、子どもを信頼して任せることが大事なのではないでしょうか」
いい意味での“無関心”こそが、子どものやる気を失わせず、成長に導くための重要なキーワードなのかもしれません。実際に、鈴木長官は自身の子どもたちに対しても、励ましの言葉はかけても、ダメ出しやアドバイスを送ることはないそうです。
「今、中1と幼稚園の息子がいて、下の子が水泳をやっています。一度、スイミングの進級テストに落ちた時に、妻が叱りまして(笑)。そこで私はたしなめて、叱るのは辞めてもらったんです。周囲は私の子どもだから、水泳が得意だと思っているのかもしれません。でも、やっぱり、子どもは親の分身ではないんですよ。私自身の考えでは、その時点で本人のベストを尽くすことが、一番大事だと思っています。だから子どもに対してはそういう意味で、『頑張れよ』というような言い方をするだけですね」
親の期待も重圧となり、子どもからスポーツの楽しさを奪ってしまう要素となる可能性もあります。口出しせず、温かく見守ることがスポーツを続ける子どもを持つ親にとって、もっとも大切なことなのかもしれません。
鈴木大地(すずき・だいち)
スポーツ庁長官。元水泳選手。100メートル背泳ぎ金メダリスト。
小学2年生で水泳を始める。高校在学中の1984年にロサンゼルス五輪に出場。1988年のソウル五輪ではバサロ泳法を駆使して男子100メートル背泳ぎで金メダルを獲得。日本競泳界では16年ぶりの金メダルとなった。選手引退後は米国ハーバード大学にてゲストコーチを務め、帰国後は母校である順天堂大学の水泳部監督に就任した。2007年には同大学にて医学博士号を取得。2013年同大学スポーツ健康科学部教授就任。日本水泳連盟会長、日本オリンピック委員会理事、日本オリンピアンズ協会会長などを歴任し、2015年にスポーツ庁の初代長官に就任。
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