自ら考えて行動する子どもに育てる合言葉「プレイヤーズファースト」
2013年11月 5日
子どもを変える、大人が変わる「プレイヤーズファースト」入門
子どもたちが自ら考え、行動するサッカー。すべての基礎を学ぶ小学生年代でそんなサッカーができれば、プレー面に限らず生活面、大げさに言えばその後の人生も大きく変わっていきます。子どもたちが自分で考えて、判断し、行動するようになるために周りの大人たちは何ができるのでしょう?
「プレイヤーズファースト」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 子どもが「サッカーをやりたい」と意思表示をしてきた瞬間から、保護者、指導者その子に関わるすべての大人たちにとって「プレイヤーズファースト」は特別な意味を持つ言葉になります。今回の連載では、キッズサッカーではしきりに使われるようになった「プレイヤーズファースト」についてじっくり考えます。
■最初に覚えてほしいプレイヤーズファースト
日本サッカー協会(JFA)が発行する10歳以下の選手指導のガイドラインの中に「JFAキッズサッカー指導のフィロソフィー」というのがあります。サッカーのプレー人数にちなんだ11項目の10番目に「プレイヤーズファースト!」の文字があります。
プレイヤーズファースト!
何が選手にとって一番良いのか。
何か問題が生じたときにはこのスタートポイントに立ち返りましょう。
子どもたちのサッカーは子どもたちのものです。当たり前のことですが、時に周りの大人はその当たり前の基本を見失うことがあります。うまくプレーできない選手、失点した選手を怒鳴りつけるコーチを見たとき、あなたはどんな気持ちになるでしょう?「走れー、こっちにパスパスー、もっと走れー」とピッチに響き渡る声で叫んでいるお母さんを冷静な第三者として見たときあなたはどんな気分になりますか?
おそらくコーチやお母さんに話を聞けば「子どもたちのために」精一杯真剣にやっているという答えが返ってくるでしょう。でも、それって本当に子どものためでしょうか?勝ちたいのはコーチ、よその子に負けたくないのはママ。子どもたちはそんな気持ちを敏感に感じ取っています。
■「“プレイヤーズ”ファーストの真の意味
可愛さ余って。もしかしたらこれはサッカーに限らず、どんなことにもあることなのかもしれません。過保護になってしまったり、逆に過剰に厳しくしてしまったり……。「子どもたちを主役にサポートに徹する」とよく言いますが、適切な力加減は案外難しいものです。
そのときに思い出すべき言葉が「プレイヤーズファースト」です。プレイヤー=選手、ファースト=第一に。サッカーにおいては、ピッチの中でプレーする選手が第一であり、最も尊重されるべきです。「選手第一主義」はプロサッカーにも通じるメッセージです。子どもたちのサッカーで「プレイヤーズファースト」が重要なのにはもうひとつ理由があります。「プレイヤーズファースト」は「チルドレンファースト」ではありません。「子どもが主役」ではなく、あくまでもサッカー「選手」が主役なのです。
子どもはサッカーボールを蹴り始めた瞬間から「選手」として尊重される存在になります。サッカー選手は紳士としてルールを守り、フェアプレーを遵守し、仲間と力を合わせてプレーします。サッカー選手は自ら考えてプレーし、試合中は自己の責任でチャレンジを繰り返し、試合終了の瞬間まで諦めません。これは多くの親から見ても、たとえプロ選手になれなくても「サッカーを続けてよかった」と思える理由になるのではないでしょうか。指導者の立場でも細かい注意を与えなくても「こんなときサッカー選手ならどうする?」と子どもに示してあげれば、自ずと子どもたちの行動も変わってくるはずです。
子どもは信頼を寄せられたときに、自ら考えて行動し自立し始めるのだといいます。
サッカーを通じて子どもを選手として尊重してあげることができれば、子どもが成長する環境作りの「はじめの一歩」は成功です。
■今日の一勝より人生の勝利を目指して
子どもたちを選手として尊重し、そのプレーのための環境作り、周囲の大人ができるサポートを考えていくことこそが「プレイヤーズファースト」の真の意味です。これを指針に行動すれば、「子どもたちのために」を隠れ蓑にした「実は自分のため」の行動も見えてくるはずです。
ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)の技術委員長を長く務めたアンディ・ロクスブルクさんは、育成に関してこんな言葉を残しています。
「私たちは、選手の未来に触れている」
子どもたちが成長したときに「サッカーをやっていて良かった」「サッカーを続けたい」と思うプレー環境とはどんなものなのか? 目先の勝利、今日の一勝ではなく、5年後、10年後、そして人生の勝利を勝ち取るために、いま何ができるのか。これからしばらく「プレイヤーズファースト」をキーワードに考えていきます。
大塚一樹(おおつか・かずき)//
育成年代から欧州サッカーまでカテゴリを問わず、サッカーを中心に取材活動を行う。雑誌、webの編集、企業サイトのコンテンツ作成など様々 な役割、仕事を経験し2012年に独立。現在はサッカー、スポーツだけでなく、多種多様な分野の執筆、企画、編集に携わっている。編著に『欧州サッカー6大リーグパーフェクト監督名鑑』、全日本女子バレーボールチームの参謀・渡辺啓太アナリストの『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』を構成。
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