自分で考えて決められる 賢い子供 究極の育て方
2019年2月26日
サポーターの姿を見て後悔......。 戦力外Jリーガーがセカンドキャリアで成功できた原点にあったもの
サカイクが開催している「サカイクキャンプ」では、2017年の春よりライフスキルプログラムを導入しており、この度「自分で考えて決断できる」子どもに育てるための親の関わり方のヒントをまとめた「自分で決められる賢い子供 究極の育て方」(KADOKAWA)を発売しました。
サッカーを通じて人生に必要な"ライフスキル"を身につけた人たちを紹介するこの連載、Jリーグ・ガンバ大阪からの戦力外通告から自ら創業した会社を異例のスピードで成長させている株式会社SOU代表取締役の嵜本晋輔さんの第2回は、嵜本さんの著書、『戦力外Jリーガー 経営で勝ちにいく 新たな未来を切り拓く「前向きな撤退」の力』の中でも度々触れられている嵜本さんの成功の原点、育った環境と家族との関係性を中心にお届けします。
嵜本さんが挫折や失敗に屈しなかった理由、"折れない心"、"再び立ち上がる勇気"というライフスキルを獲得できた理由はどこにあるのでしょう?
※ライフスキルとは、WHO(世界保健機関)が各国の学校の教育課程へ導入を提案している考え方で、「人生で起こるさまざまな問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」と定義されています。
(取材・文:大塚一樹 写真:平瀬拓)
<<前編:21歳でガンバ大阪を戦力外! ビジネス界に転身し今や古巣のスポンサー。元Jリーガー社長が成功できた理由とは!?
■「なりたい」ではなく「なる」Jリーグしか見ていなかった子ども時代
――子どもの頃、プロサッカー選手を目指すに当たって、親御さんはどのように関わっていたんでしょう?
「小学校5年生の時に、父のすすめでサッカーを本格的にできる小学校に転校したくらいなので、応援してくれていました。小さい頃、水泳、体操とやって、他の競技と明らかに違うくらいのめり込んだのがサッカーでした。ちょうどその頃Jリーグが開幕して、憧れはカズ(三浦知良)さん。ゴールを決めたらカズダンスを踊っていました。
父は野球しか知らない人でしたけど、すべての試合に必ず駆けつけて試合を見てくれました。試合が終わると素人ながらに僕のプレーについていろいろ言うわけですよ。いま振り返ると感謝しかないのですが、小学校高学年から中学校は思春期ということもあって、正直『来て欲しくない』と思うこともありました。高校生になると、これは本当に偶然なのですが、別の選手を観に来ていたスカウトが僕のプレーを気に入ってくれて、プロに進むきっかけをつくってくれました。
この頃には父にも素直に感謝ができるようになって、プロに進むことで恩返しをしたい、結果を出したいと思うようになっていました。父はいつも『なんで勝負しないんだ』と言っていましたが、サッカーのことは知らなくても僕のプレーを世界で一番見てくれている父がそう言うときは、やっぱり勝負できていなかったんだと思います。中学生の時あの助言をちゃんと聞いていたらとは思いますね」
――高校を卒業してすぐにプロに進むこともお父さんは応援してくれていたんですか?
「小学生の頃から『Jリーガーになりたい』ではなくて『なる』と決めてサッカーをしていたので、父もプロになること自体は応援してくれていました。でも、ある程度いい大学に進んで、プロになれなければ就職してとは思っていたと思います」
――小・中・高、サッカーに打ち込んでいたとき、もっとこれを学んでいれば良かったと思うことはありますか?
「J リーガーになると決めてはいたものの、そうなるために"いま何をするか"というところまでは落とし込めていませんでした。目先のこの試合に勝つ、とか県大会で優勝するとか、高校選手権に出るとか、そういうことに没頭していたというのが正直なところです。もっと先を見据えて、いま何をすべきかを考えるべきだったなと思います。
サッカーをやってきた中で後悔があるとすれば、試合を"こなして"しまっていたことですかね。小学校、中学校、高校と上の段階に進むにつれて、正直言ってそこまで本気でプレーしなくても試合に勝てるような場面が増えていたんです。合宿の2試合目とか3試合目って体力的にもしんどいし、自分をより高めるためではなく、なんとなくこの試合を"こなす"事が目的になってしまっていたんです。あの時手を抜いていなければサッカー選手としてのパフォーマンスが変わっていたかもしれません」
――では、その頃サッカーから学べたと思うことは?
「自分で考える力なんかはそうですよね。サッカーに限らずスポーツの世界って、自分の経験則で語られることが多いじゃないですか。コーチや監督も自分のプレー経験を元に教えがちです。しかし、指導者は『あなたのプレーはこうだよ』という事実を伝えるだけでいいと思うんです。その事実を受け取った選手が、どうとらえて、何をするのか? それこそが考える力になると思います。
サカイクさんが掲げている5つのライフスキルでいえば、『感謝の力』もまさに生き抜く力として重要だと思います。チームの話もしましたが、人間一人でできることなんてたかがしれています。自分としては感謝の気持ちが身近にある環境で育ったのですが、それがサッカーに活きるとか、いまの自分、経営者としての自分を支えるようなものになるよなんて誰も教えてくれませんでしたからね。こういうことを子どもの頃に学べたらまた違った未来があったかもしれないなと思います」
■「感謝する心」を育んだ嵜本家のファミリーヒストリー
――感謝する心が身近にあったというのは?
「うちの父は、3人の子どもたちに『生まれてきてくれてありがとう』とか、母に『いつもありがとう。ほんまに感謝してるんや』とか、家族の前で声に出して言うような人なんです。昔はそれが当たり前だったので気がつきませんでしたが、これって実はすごいことなんですよね。
おかんの愚痴を言うこともあるんですけど、実は本当にちゃんと感謝しているということを言い続けている。そういう環境で育ったので、3兄弟の仲がめちゃめちゃいいんですよ。父が自分たちを認めてくれて、母をリスペクトしている。だから、僕たち3人の兄弟もお互いをリスペクトし合っている。
今はそれぞれ独立して別の企業の社長になっていますが、3兄弟で一緒に事業を行っているときは、『3兄弟で事業をするなんて難しくないですか?』と驚かれるたのですが、僕たちにとってはそれが自然で普通のことでした。いまでも年に数回は家族全員で集まって食事会をしますし、お互いに感謝を声に出して言い合えるような仲なんです。こういう家庭環境で育ったからこそ、いまの自分があるなとは感じています」
感謝の力の重要性を語った嵜本さんは、現在、古巣のガンバ大阪のゴールドパートナーとしてスポンサーに就任していますが、さらにクラブと組んで新たな事業を始めようと計画しています。その計画は、クラブと選手、そしてサポーターやファンをつなぎ、アスリートの未来へつなげる新たな取組です。
「Jリーグは現役生活が非常に短いのに収入がかなり低いという課題があります。引退した後どうするのかというのは選手にとって切実な問題です。そこで、ガンバ大阪さんと選手が試合で着用したユニフォームに鑑定書をつけてオークションで販売し、その収益をクラブや選手に還元する取組を始めました。
ファンの方たちが、それぞれ好きなクラブ、好きな選手のユニフォームをオークションで購入することが、クラブや選手の未来につながる、そしてクラブや選手もそのファンの方たちのおかげで自分たちの成長や未来があると思えれば、ファンとクラブ・選手のつながりもより一層、強固なものになると思います。いずれはサッカー選手はもちろん、他のスポーツのプロアスリートのセカンドキャリアにつながるようなサービスにできればと考えています。」
このプロジェクト誕生の背景には嵜本さんのセカンドキャリアの実体験が関係しているそうです。
「本にも書いたのですが、3兄弟で洋菓子のお店を開いたとき、真っ先に駆けつけてくれたのが、ガンバ大阪のサポーターの方たちだったんです。彼らの姿を見て僕は本当に後悔したんです。現役時代には大した成績を残していなかったのに、ファンの人に対して相手の立場に立った対応ができていなかったなと。応援してもらって当たり前、サッカーができて当たり前。それに何も感じることなくただプレーをしていたんだという後悔ですよね。この思いは若い選手、アスリートたちに伝えていかなければいけないなと思っています」
サッカー選手に限らず、自分を応援してくれるファンを増やす。そのファンに応援してもらうことで力を得て、自分もそのファンや社会に有形無形の何かを返す。嵜本さんは、応援する気持ちや感謝の気持ちの循環が、Jリーガーのキャリアサポートになり、プロサッカー選手が"撤退後"、"引退後"を考えるきっかけになればと考えているといいます。
「一流選手になるにしても、社会人になるにしても、サッカーで学んだこと、得たことを社会に活かせる人間であって欲しい。これはJリーガーでなくても、サッカーをプレーする小学生、中学生、高校生、すべての人に言えることだと思います。いま、自分からサッカーをプレーするお子さんやその親御さんに何か伝えられることがあるとすればそういうことじゃないでしょうか」
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インタビューに答えてくださった嵜本晋輔社長の書籍
「自分で決められる賢い子供 究極の育て方」