バルセロナ発!賢い選手を育てる指導法
2012年3月23日
【組織化する】サッカーとは、オーガナイズされていないオーガナイズ
『知のサッカー』でおなじみ、FCバルセロナのメソッド部門責任者をつとめるジョアン・ビラ氏が、日本の育成年代の指導者に『賢い選手を育てるためのトレーニングメソッド』を明かしてくれました。前回はアナリティックメソッド(反復練習)とグローバルメソッド(包括的な練習)の違いについて、説明しました。今回はそれぞれの長所と短所を見て行きましょう。
■アナリティックメソッドの長所と短所
まずはアナリティックメソッドの長所から。アナリティックメソッドは、特定のテーマのレベルアップに集中することができます。たとえばパスの練習をするとき、インサイド、アウトサイド、インステップ、浮いたパス、ゴロのパスなど、テーマを明確に設定することで、集中的にトレーニングすることができます。
もうひとつの長所は、数をたくさんこなせることです。30分間、ボールを運ぶドリブル、相手を抜くドリブルの練習をすると、試合で実際に行うよりも遥かに多くの回数、ドリブルをすることができます。
アナリティックメソッドの短所は、ある特定の動作(アクション)しかできないため、トレーニングで学んだものを試合で発揮するのが難しくなることです。パスのトレーニングを例にあげると、ボールを受ける前にどうするのか、パスをしたあとはどうするべきか、状況に応じて判断する部分のトレーニングができていないので、アナリティックメソッドでしか学んでいない選手たちは、試合のどんな場面で身に付けた技術を出せばいいのかを理解することが難しく、それは選手がレベルアップすることの足かせになっています。
■グローバルメソッドの長所と短所
グローバルメソッドの長所は、認知・判断・技術・戦術・フィジカル・メンタル等、様々な要素を同時にトレーニングすることができる部分です。サッカーに必要な要素を包括的にトレーニングできるので、練習で学んだことを試合で発揮しやすく、トレーニングした内容と試合で起こる現象がつながっていることを理解できます。
グローバルメソッドの短所は、反復回数が少ないこと。そして、テーマとして設定した現象がトレーニングの中で頻繁に起きるとは限らないことです。グローバルメソッドのトレーニングを、指導者が完璧にコントロールすることは難しいと思います。私の好きな表現に、「サッカーとは、オーガナイズされていないオーガナイズである」というものがあります。その意味で、サッカーのトレーニングすべてを指導者がオーガナイズできるのであれば、そのトレーニングには何かが欠けているのではないでしょうか? バルサの試合を見ても、選手はずっと同じ場所にいるのではなく、たえず動き続けています。ポジションのバランスを崩しているにも関わらず、トータルで見るとバランスは保たれています。それが「オーガナイズされていないオーガナイズ」です。
※オーガナイズとは、「組織化する」という意味の英語。 「組織化する」「編成する」「体系付ける」「計画する」などの意味で
※オーガナイズとは、「組織化する」という意味の英語。 「組織化する」「編成する」「体系付ける」「計画する」などの意味で
■サッカーを理解した選手を育てる
アナリティックとグローバル、2つのメソッドにはそれぞれ長所と短所が存在します。繰り返しますが、アナリティックメソッドが悪いと言っているわけではありません。実際にサッカーサービスのトレーニングの2割はアナリティックメソッドを取り入れたものです。ただ、我々はグローバルメソッドを信じています。
サッカーのプレーにはイマジネーション、創造性が必要です。実際の試合と同じ状況でなければ、イマジネーションをトレーニングすることはできません。それには、グローバルメソッドが適していると考えています。我々が重要視しているのは、選手たちがサッカーを理解することです。たくさん走ることでもなく、テクニックだけがすばらしい選手を育てることでもではなく、マークだけが上手な選手を育てることでもありません。サッカーを理解した選手、刻一刻と変わる状況の中で「自分はいまなにをしなければいけないか」を考えることのできる選手を育てることです。
試合という、複数の味方と相手がいる状態でうまくプレーすることを学びたいのであれば、トレーニングのときにも複数の味方と相手が必要です。試合と同じ状況でトレーニングをすれば、試合でのプレーはレベルアップするでしょう。グローバルメソッドは、ボールを持っていないときの動きも鍛えることができます。ボールを持っている選手の味方がどう動くかによって、相手チームの動きも決定づけられるからです。グローバルメソッドを用いることで、試合で必要なすべての要素をトレーニングすることができる。我々はそう考えています。
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