バルセロナ発!賢い選手を育てる指導法
2012年3月30日
周りを「見る」ではなく、「分析しながら観る」ことを学ぶ
『知のサッカー』でおなじみ、FCバルセロナのメソッド部門責任者をつとめるジョアン・ビラ氏が、日本の育成年代の指導者に『賢い選手を育てるためのトレーニングメソッド』を明かしてくれました。これまでアナリティックメソッド(反復練習)とグローバルメソッド(包括的な練習)について説明してきましたが、今回はグローバルメソッドでトレーニングするポイントについてお話します。
■「観る」ことは低い年代のうちから学んだ方がよい
グローバルメソッドでトレーニングする際に、大切なポイントが3つあります。子どもたちが、まず何をトレーニングしなければいけないかというと、「ペルセプシオン(認知)」つまり「観る」ことです。ボールだけでなく、仲間がどこにいるのか、相手がどこにいるのか、スペースはどこにあるのか、「観る」ことを学ぶ必要があります。
そして次に重要なのが、「状況を把握する」ことです。ただ首を振って周囲の状況を見るのではなく、「どこに味方がいるか」「どこにスペースがあるか」など、「分析しながら観る」ことで、目で見た情報をプレーに結びつけていきます。
そして3つ目、周りを分析しながら観た後に、「どんなプレーをするか」を選ぶこと。それが「判断」です。周りの状況をよく見て、ベストなプレーを選ぶことができたら、プレーの実行もうまくいくでしょう。
子どものうちに、トレーニングすべき内容はたくさんあります。よく「周りを観ること、分析し、判断することは何歳から行えばいいですか?」と聞かれるのですが、私は「なるべく早いうちがいいですよ」と答えます。なぜなら、サッカーを理解することが、上達の道だからです。
ボールを思い通りに扱う技術を身につけることと同じぐらい、よりよい状況把握、よりよい判断をすることも学ぶ必要があるのです。我々が長い時間、グローバルメソッドでトレーニングをする理由もそこにあります。
■多くの選手がボールを持っているときだけプレーしている
多くの選手がドリブル、パス、シュートをしたあとに、足を止めてしまいます。ボールを持っているときだけプレーしていて、ボールを放した瞬間にプレーが終わってしまうのです。そのような選手はたくさんいます。ボールを受ける前、そして受けたあとに何をしなければいけないかを、グローバルメソッドを通じて身につけることができます。
サッカーは動くことだけでなく、どこに立ち、どのような身体の向きを作るかも重要です。ポイントはボールを持っている選手と、自分がパスを出したい相手の両方が観える位置にいること。そして、足は常に動いた状態を保ちます。
たとえば「あの選手にパスをしよう」と思っていたところ、相手が寄せてきたので、周りを見て分析した結果、味方にボールを戻すことを選択した選手がいたとします。私はそれを、正しい判断だと評価します。なぜなら、相手にボールを奪われたくないからです。ボールを失わないために、ボールを受ける前に周りをしっかり見て、適切な判断をしたので「いいぞ」と言います。
■「ボールを失うな!」では、選手は理解できない
パスのテーマでミスをした選手には、「なぜいまミスをしたのか」「なぜボールを失ったのか」と質問をします。賢い選手であれば、「強いパスを出すことができなかったから」や「ボールを受ける前に周りを見なかったから」「身体の向きが正しくなかったから」と答えることでしょう。そのようにディスカッションを通じて問いかけ、考えさせながら解決方法を探していきます。
選手がボールを失った際、「ボールを失うな!」と声をかける指導者がいます。しかし、その声かけでは、選手は「なぜボールを失ったのか」を理解することはできません。指導者の役目は、選手たちに「なにを意識してパスをしなければいけないか」を説明することです。そのような問いかけを繰り返すことによって、選手たちは少しずつ学んでいきます。それはパスに限らず、ドリブルであっても、マークを外す動きも同じです。これらを指導し、身につけるには、長い年月が必要です。だからこそ、早いうちからグローバルメソッドでトレーニングすることが重要なのです。
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ジョアン・ビラ・ボスチ//
Joan Vila Bosch
FCバルセロナでクライフと共にプレーし、引退後はバルサの下部組織で14年間監督を務めた。現在はバルサのメソッド部門ディレクターとして、下部組織におけるトレーニングの進化・改善、コーチの指導を担う。監督時代はシャビ、プジョルなど現在のバルサの中心選手を育てた。
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