13歳までに身につけたいディフェンスの戦術講座
2017年2月13日
動画で解説!なぜバルセロナの選手は、ボールを失ってもすぐに奪い返せるのか?
昨年の夏に行われた「ジュニアサッカーワールドチャレンジ2016」。FCバルセロナが2年ぶりに優勝を果たし、攻守に完成度の高いサッカーが話題になりました。はたして、彼らの何がすごかったのでしょうか? 今回、この大会を放送したスカパー!さんにもご協力いただき、試合映像を使ってそのプレーを分析しました。
前回までのディフェンスの個人戦術につづき、今回からはチーム戦術について紹介します。今回も『知のサッカー』でおなじみ、サッカーサービスのアルベルトコーチが解説してくれました。(文:鈴木智之、映像協力:スカパー!)
今回はディフェンスの「チーム守備戦術」にフォーカスを当て、解説していきたいと思います。サッカーで大切なのが「攻守の切り替え」です。ボールを奪った後、相手の陣形が崩れている瞬間に素早く攻めることの重要性は多くの方が理解しています。
我々が調べたところ、サッカーの得点場面の70~80%が「相手からボールを奪って攻撃に出ようとした瞬間に、もう一度奪い返されて、攻撃をされる」という状態から生まれています。つまり、守備側はボールを奪ったからOKではなく、奪ったボールをつなぎ、ボールをしっかりと保持することが重要なのです。一方で攻撃側はたとえボールを奪われても、すぐに奪い返すことができれば、得点のチャンスにつながります。
以上を踏まえて、ディフェンスのチーム戦術について『ジュニアサッカーワールドチャレンジ2016」のFCバルセロナの試合を中心に、U13年代に身につけておきたい戦術を紹介したいと思います。
■ディフェンスのチーム戦術(1)
「ボールを失った位置と同一ライン上でプレーをする選手は、ボール保持者にプレスをかけ、プレーの選択肢を狭める」
失ったボールをすぐに取り返すためには、頭のチップを切り替えることが必要です。ボールを失った同一ライン(前後左右)の選手はボール保持者にプレスをかけ、相手に考える時間を与えないようにします。ポイントは「ボールの近くにいる選手が、どれだけ速くプレスをかけて奪うことができるか」です。
これらはチーム戦術ですが「ボールを奪う」部分のベースは個人戦術です。相手からボールを奪うプレーは、ボールと自分の関係のみでプレーする「エゴイスティック期」と呼ばれる10歳以下の年代で身につけることが望ましいでしょう。
ボールを奪う際に基本となるのが、ボール保持者に素早く距離を詰め、プレスをかけること。むやみに飛び込むのではなく、状況を認識し、正しい判断のもとにボールを奪いにいきます。U13年代になれば、個人でボールを奪うのではなく、周りの選手と協力してボールを奪うこともできるようになります。
たとえば、ボールに一番近くにいる選手がボール保持者にプレスをかけて、進行方向を限定していきます。そして、後方にいる味方と協力してボールを奪います。これが「チームとしてボールを奪う」プレーです。
以下のシーンでは、センターバックの選手がクリアミスをし相手選手の前にボールが転がりました。
その瞬間、黄色の丸で囲われたバルセロナの選手は、100%の力で相手選手にプレスをかけ、
ボール奪取に成功しました。
▼このシーンを動画で見てみよう!
つづいて別のシーンを見てみましょう。
バルセロナの中盤の選手が大宮の選手に囲まれボールを奪われてしまいました。
ボールを奪われたバルセロナの選手は、ボールを失った瞬間に、相手にプレッシャーをかけつづけ、大宮の選手は、味方へのパスを選択。
さらに、バルセロナの選手は、パスをもらった選手に対しても他のパスコースを閉じながらプレッシャーをかけつづけることで、ボール奪取に成功しました。
▼このシーンを動画で見てみよう!
■ディフェンスのチーム戦術(2)
「相手選手間のスペース(ギャップ)にあるパスコースをふさぎ、ボール保持者を自分たちが守りやすい方向に誘導することで、プレーの選択肢を狭める」
これはディフェンスのチーム戦術(2)から派生したもので、ただボール保持者との距離を詰めるだけでなく、パスコースを切りながら寄せていくことで、相手の動きを限定していきます。また、パスコースを切ることで相手の進行方向を誘導し、ボールを奪いやすいサイドや、守備側の選手が多くいる方へ進むように仕向けていきます。
以下、バルセロナとヴェルディの試合で分かりやすいシーンがありました。ヴェルディがボールを奪った瞬間、黄色の丸で囲まれた選手達は、うまく進行方向を誘導することで、サイドに数的優位を作り、ボール奪取に成功しました。
▼このシーンを動画で見てみよう!
■ディフェンスのチーム戦術(3)
「ボールを失った瞬間に後方のラインに加わり、ボールがあるラインに対して、数的優位を作り出す」
我々は攻撃のコンセプトとして「ピッチの幅と深さを使う」ことを推奨しています。前線の選手は相手の最終ラインと駆け引きをして、ゴール前でプレーすることのできるスペースを作るとともに、両サイドの選手(ウイング)はピッチの幅を最大限に使い、タッチライン際にポジションをとります。そうすることで相手チームの選手同士の間隔を広げさせ、自分たちが攻撃するためのスペースを作り出します。
ボールをポゼッションしてプレーする際に「幅と深さ」を使うのは重要なコンセプトなのですが、守備になると問題が起きます。ボールを奪われた瞬間、こちら側の選手同士の距離も開いており、ピッチの中央部にスペースができているため、空いたスペースを相手に使われてしまう可能性が高くなるのです。
そこで、ボールを失った場所と同一のラインにいる選手は素早く自陣へ戻り、後ろのライン(FWならMF、MFならDF)で数的優位を作ります。このとき、相手選手が技術的に優れていた場合、ボールに近い一方向からプレスをかけたとしても、簡単にかわされてしまうかもしれません。
そこで、一方向からだけでなく、ボールを失ったラインよりも前にいる選手が戻ってプレスをかけることで、味方と連携してボールを奪います。「ジュニアサッカーワールドチャレンジ2016」の試合を分析した結果、日本の選手のプレーからは、あまり見ることができなかったコンセプトでした。
以下のシーンで見てみましょう。バルセロナが中盤でボールを失いました。
その瞬間、フォワードの選手(写真左の黄色囲み)は、ボールを失った中盤のラインに素早く戻り、味方選手と数的優位の状況を作りました。
3対2の状況を作ったバルセロナは簡単にボールを奪うことに成功しました。
▼このシーンを動画で見てみよう!
チーム全員の攻撃から守備への切り替え、意識の統一はこれから学ぶことだと思いますが、FCバルセロナの選手たちは「攻守の切り替え」に関して、多くの場面でボールを失った瞬間を適切に認識していました。つまり、相手チームよりも速く反応し、スピーディに動いた結果、たとえ相手にボールを奪われたとしても素早く奪い返して、さらに攻め込むことができていたのです。
日本の選手たちは勤勉で、多くのアクションを起こしてはいます。そんな彼らが、さらにコンセプトの理解を深めたならば、よりよい選手、より良いチームになることができるでしょう。<第4回に続く>
サッカーサービス社/
スペイン・バルセロナを拠点に世界各国の主要リーグの選手、チームなどに対して、コンサルティングを行う育成のプロ集団。フランスの名門パリ・サンジェルマンのアカデミーもサッカーサービスが提唱する指導メソッド「エコノメソッド」を採用している。
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