子どもに自信がつく!サカイクキャンプWINTER2018特集
2018年12月 8日
サカイクが「"サッカーを教えない"サッカーキャンプ」をやるワケ
サカイクの考えを実践するサッカー合宿「サカイクキャンプ」の高峯弘樹ヘッドコーチは、「サカイクキャンプは"サッカーを教えない"サッカーキャンプだ」と言います。
サッカーのキャンプなのに、サッカーを教えない? そこにはどのような意味があるのでしょう。高峯コーチに聞きました。(取材・文:サカイク編集部)
■サッカーの技術・戦術よりも人としての土台づくりが重要
2020年から大学入試制度が変わることはご存知でしょうか。新しい入試制度についてはいろいろな議論が交わされ、内容が検討されている最中です。これまでの入試制度では、学力の三要素と言われる「1.知識・技能」「2.思考力・判断力・表現力」「3.主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」の中で「知識・技能」が重視される傾向がありました。
しかし国際社会化がどんどん進み、ますます様々なことにおいてボーダレス化する現代社会では「2.思考力・判断力・表現力」と「3.主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)」が問われていることは間違いありません。
サカイクキャンプやシンキングサッカースクールで2,000人を超える子どもたちを指導してきた高峯コーチが感じるのはパーソナリティの重要性だと語ります。
「何度もサカイクキャンプを開催してきて現場で感じるのは、ジュニア年代は、将来サッカー選手として成長する為にサッカースキルの向上はもとより、それ以上に人としての土台作りが必要だということです。もちろんサッカーの戦術や技術は必要ですが、考える力やチャレンジする力など失敗を力に変えたり、人から何かを学んだりして自分自身に昇華していく力が備わらないと伸びないと思っています」
「2020年の大学入試改革で、これからの日本の子どもたちに必要なものも変わっていくでしょう。そういう視点で私たちがサカイクキャンプを通じて子どもたちに伝えられるものは何かを考えた時に"ライフスキル"という存在にぶつかりました」
■「ライフスキル」とは何か?
ライフスキルとはWHO(世界保健機関)が定義する「ライフスキル=日常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処するために必要な能力」です。文部科学省のホームページにも掲載されていますが、具体的なライフスキルを10項目挙げています。
意思決定/問題解決/創造的思考/批判的思考/効果的コミュニケーション/対人関係スキル/自己認識/共感性/情動への対処/ストレス・コントロール
サカイクキャンプではライフスキル研究の第一人者である慶應義塾大学・東海林祐子先生の監修のもと、サッカーを通してライフスキルを高めるために必要な項目を子どもたちやお父さんお母さんにもわかるように5つにまとめました。
<サッカーを通してライフスキルを高めるために必要な項目>
1.考える力
2.リーダーシップ
3.感謝の心
4.チャレンジ
5.コミュニケーション
「これまでも私自身はこの5つのことを意識して指導していました。ただコーチたちの間で具体的なキーワードがあったわけではなかったので、コーチによってバラバラな部分があったと思います。だから、去年のサカイクキャンプからはこの5つを指導コンセプトとして取り組み始めました」
「もとからサッカーのトレーニング内容はサカイク側が考えますが、それ以外のことは極力選手たちの自主性に任せています。チーム分けや部屋ごとの就寝時間、起床時間などサッカー面も生活面も自分たちでやれることはすべてです。私たち主催者側が用意されたものをこなしても選手たちには何も残りません。それは私の過去の失敗が物語っています」
■『サッカーを教える』こだわりを捨てたら子どもたちが思い切りプレーしだした
高峯コーチはそう言うと過去の失敗を教えてくれました。一時はサカイクキャンプもサッカーのスキル向上を掲げ、トレーニングの内容や座学など2泊3日のスケジュールを綿密に練り上げていたそうです。だから、子どもたちも上達のためにサッカーを習いに来ているし、コーチ陣も教えている印象を持っていたと言います。しかし、それが落とし穴だったそうです。
「たった2泊3日のキャンプでサッカーが上手くなろうなんてたかが知れています。私も子どもたちも手応えをあまり感じられなかったんですよね......。選手たちにとっては用意されたものをこなすだけでは何も得るものはありませんから。その頃は開催するごとに参加者は減っていくし、私たちにも手応えはありませんでした。
それで、ある時『サッカーを教える』というこだわりを捨て、子どもたちが思い切り自由にプレーできるようなキャンプにしようと開き直ったんです。そうしたら子どもたちが笑いながらサッカーをやるし、夜も枕投げなんかをして楽しそうで。私たちコーチも自然に笑顔だったんです。その時に方向性が見えました」
「サカイクキャンプのトレーニングの目的は『攻守における基本的な個人戦術を身につけること』そして、『思い切りプレーすること』です。ミスしてもコーチが怒ることはないし、選手自身が思ったこと感じたことをまずプレーで表現することが一番なんです。だから、コーチが伝えるのは攻撃も守備もサッカーの本質、原則をもとに全力でプレーすること」
なぜだかわかりますか?
「サッカーの本質をもとに本気でプレーするから『相手に勝つにはどうしたらいいのか』を考えるし、だから試合で生きるテクニックや戦術が身につくんです。サッカーの本質に本気で取り組んだからこそ自信がつくし、本気でぶつかり合ったからこそ仲間たちと信頼関係が築けてキャンプ中ピッチ外の私生活も楽しいんです」
■チームのためにプレーすることは、社会生活にも通じる
サカイクキャンプではコーチが夜のセミナーにて日本代表選手などのプレー映像を見せ、どうして「1.考える力 2.リーダーシップ 3.感謝の心 4.チャレンジ 5.コミュニケーション」がサッカー選手に必要なのかを講義します。子どもたちは憧れの選手たちの話を聞き、目を輝かせながら「そうなんだ」と納得するそうです。
トップレベルのプロクラブでも苦しい時にチームのために犠牲を払って働ける選手を必ず獲得するし、評価をします。それはチームがうまくいっている時に貢献できる選手はたくさんいるけれど、長いシーズンを戦う時に必ずうまくいかない時があり、そこで力を発揮して貢献できる選手がチームに必要だからです。だからこそ、日本代表の長谷部誠選手のような選手は評価されるのです。これは社会においても必ず通じる部分ですし、生きる部分です。
「過去のキャンプで岡崎慎司選手の言葉とそれに裏付けられたプレー集を見せたら子どもたちは食い入るように見ていました。『足が遅くても、背は高くなくても、考える力があればプレミアリーグでプレーできるんだよ』、『チームのためにプレーできる選手ってすごいよね』と子どもたちに言ったら、みんなが『すごい』って。次の日から全員が全力でプレーしていました」