W杯出場欧州列強 U-12育成事情

2018年10月25日

「考える」はスタート。スピードに乗ったボールコントロールを重視するドイツの育成とは

今年6月から7月にかけて行われたFIFAワールドカップロシア大会はフランスの20年ぶり2度目の優勝に終わりました。大会を振り返ると前回優勝国のドイツがグループリーグで敗退したり、開催国のロシアの躍進があったり、クロアチアがファイナルへ進んだり、とこれまでよりも話題性が強い大会になっていたように思えます。

そんな中、サカイク読者の皆様として気になるのはピッチ上で繰り出される世界最高峰のプレーを生み出す"各国の育成事情"ではないでしょうか?

選手の自主性にゆだねているのか、厳しい規律のもとで育てられているのか。また、サッカーと学業の両立などはどうなっているのか。日本との共通点や相違について、各国在住経験のある関係者の方々にお話を伺いました。

第1回は近年では育成で成功を収めて2014年のブラジル大会で王者にもなったドイツにフォーカス。フライブルクにある古豪クラブ・フライブルガーFCでU16監督を務める中野吉之伴(なかの・きちのすけ)さんにお話を伺います。

大学卒業後にドイツに渡り、18年もの長期に渡って現地で指導者を務める中野さんに聞く、ドイツの指導とは。(取材・文:竹中玲央奈)

ドイツ代表でバイエルンミュンヘン所属のトーマス・ミュラー(C)新井賢一

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■ドイツには「考えない子」がいない

ドイツ代表は2000年のユーロで1分2敗という成績でグループリーグ最下位を喫しました。それを受けてドイツサッカー協会が選手育成システムの見直しに力を入れました。それ以降、多くの地域から才能ある選手が生み出され、2014年のFIFAワールドカップ ブラジル大会では見事世界の頂点の座に輝きました。

今年開催されたFIFAワールドカップロシア大会では残念な結果に終わりましたが、ドイツはこれまで常に国際大会で結果を残してきた強豪国であり、育成面でも世界をリードしてきた国です。

「世界のサッカーの潮流が変わるたびにドイツサッカーどうかわるか。また世界で戦える選手が生まれてくる土壌はあったんだろうか、というところをその時期から見直すようになりました」

中野さんが渡独したのは2001年。まさにドイツが強くなっていく過程を、育成の現場で見てきたことになります。長い指導者生活を振り返り、ドイツの育成について中野さんはこう語ります。

「ドイツサッカー協会をはじめ、ブンデスリーガのユースアカデミーといったタレント育成に力を入れているところで共通しているのは"スピード"ですね。かけっこの速さもそうだし、5~10mのスピード、ターンのスピード、体を動かすスピード、認知・判断・選択・決断のスピード。それをコントロールしながら、どう活かしていくか。上に行けば行くほどここが重要視されている。スピードに乗った状態でも、そして相手からのプレッシャーを受けた中でもしっかりとしたプレーができるようになることが求められます」

スピードを出すためには、いわゆるフィジカル能力的な要素もプレーの技術も求められます。ただ、その中で難易度が高いのが、局面における適切な判断を下すスピードを上げること。ピッチで最適な判断を下すための思考力はどのように養われるのでしょうか。

■知識、経験がないのに「考えろ」と丸投げしても混乱するだけ

「ドイツでは考えない子がいるという考え方があまりないと思います。誰だって考えてはいるわけですから。あるいは考えなくてもできるようになることが練習でまずすべきことといえるかもしれません。色々と選択肢ある中で、基本となるものを身に付けてもらい、『このプレーはダメだよ』『こうしたプレーをするとプレーしやすくなるよ』ということも伝えます」

判断のベースとなる知識があった上で、試合でその選択肢を超えるアイディアを身につけていくという形ですね。指導者が"考えろ"というと子ども任せで終わってしまいます。だからこそ、その中で問いかけたり選択肢を与えたりするのは重要視されていますし、"考えろ"というのはゴールではなくスタートです」

ヒントや手がかりとなる過去の経験がない中ですべてを丸投げにしたところで、子ども達は混乱するだけです。成長を促すためには、コーチがまず基本原則などを示し、吸収してもらうことが重要ということです。そして子ども達が自ら下す選択・判断を尊重した上で、NGなポイントについてはしっかりと刷り込み、ベースとなる思考力を作っていくのです。

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