W杯出場欧州列強 U-12育成事情

2018年10月25日

「考える」はスタート。スピードに乗ったボールコントロールを重視するドイツの育成とは

■12、3歳には"サッカー以外"の選択肢も

いわゆる"サッカーIQ"を育む土壌があるように思えますが、とはいえジュニア育成の現場では"サッカーだけ"の指導をしているわけではないと中野さんは語ります。いわゆる人間形成の場としての機能も重視されるようになったようです。

「かつてはサッカーがうまい子はサッカーさえやっていればいいという感じがありました。ただ、現在はサッカーをやっていれば良いという考えはだいぶ少なくなってきました。サッカーがどれだけうまくても活躍し続けられるのは一握りです。プロの道に進めなかったり、もしサッカーを辞めることになったらどうするのか、ということです。

プロクラブでもアマチュアクラブでも、どのように僕らはサッカーと一緒に生きていくのかということを大事にします。知り合いの指導者は日本の子どもたちが毎日のように練習をしているという話を聞いて、『それだと誰も大人になってもサッカーをやりたいと思わないじゃないか』と驚いていました。まさにその通りですね。ドイツでは大人になってもサッカーを続ける人がたくさんいます。日本ではどうでしょう? 引退話を美談化しすぎていませんか? いくつになってもサッカーをやっている人は素晴らしいですし、それが許される環境こそが必要なのだと思っています。

サッカーがだめになっても社会人としてやっていけるように、子どもたちの将来も考えて指導をしています。ドイツでは10歳で最初の進路を決めなければなりませんし、12,13歳にもなると少しずつ将来のことを考えるように導かれます。どういった資格を取って行くかということを考え始めますし、職業研修を学校のカリキュラムとして受けることも普通にあります。学校の宿題もしっかりとしないと困るのは本人ですし、テストがあれば練習を休むこともあります。それをクラブ側がとやかく言ったりはしません。むしろそこをおざなりにしてはいけないと話をします。プロクラブだと教育面でのサポートもありますね」

まさに文武両道を地で行く形。サッカーはプロ選手になる人だけのものではなく、サッカーをしたい人が無理なくやれる環境がドイツにはあるわけです。プロになることだけがサッカーをする答えではないはずですから。基本的にはどこのクラブにも自前のグラウンドとクラブハウスがあります。プロクラブのユースアカデミーとなるとさらに優れた施設で、確立されたクラブ哲学をベースに、育成に秀でた指導者の元でトレーニングを積むことができます。

「3部以上のプロクラブはさらに設備の整ったユースアカデミーを持っていなければいけません。4部でも持っているところは何箇所かありますすね。また、そうした施設ではフィジカルコーチ、心理療法士、教育係といった育成専任職員も常勤しています。様々な角度から、子どもたちが成長していくためのサポートが整えられているのです」

元日本代表で現在は鹿島アントラーズに所属する内田篤人選手が所属していたシャルケ04は、トップとアカデミーの練習場が隣接しています。グラウンドに入るときの門はアカデミーの選手もトップの選手も同じで、左に行くとプロ、右がアカデミーという形になっているとのことです。

「アカデミーの選手には、『将来は左に行けると良いな』と指導者は言うんですよ」

子どもたちが「いつかは自分も」とモチベーションを高く持って練習に挑める環境があるのです。強い文化をベースに整備された施設の存在と、指導者の教育方針。この2つがドイツを強豪国たらしめているのかもしれません。

次回は、今夏に来日しJリーグに"フィーバー"を巻き起こしているあの選手の母国に迫ります。

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中野吉之伴(なかの・きちのすけ)
武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。2009年にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルク U-15 チームでの研修を経て、FCアウゲンU15などの監督を歴任。現在は息子が所属するSVホッホドルフU9でコーチ、また元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU16監督を務める。

2017年11月新著「ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする」(ナツメ社)を上梓し、WEBマガジ配信中

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