W杯出場欧州列強 U-12育成事情

2018年10月29日

処理能力>判断能力 試合中に考えていたら遅い! 早く正確なプレーを身につけるスペインの育成指導とは

日本代表が2大会ぶりのベスト16進出を果たし、国中を沸かせたW杯。興奮冷めやらぬ中、その大会で活躍したスペイン代表のイニエスタ選手がヴィッセル神戸に加入し、Jリーグを盛り上げています。そんなイニエスタ選手をはじめ、技術と判断に優れた世界的名手を輩出し続けるスペインの育成事情はどういったものなのでしょう?

"欧州列強国の育成方針"と題したこの企画。前回のドイツに続き、今回はスペインに迫ります。

自らもJクラブの下部組織で育ち、メディア側の立場へ進んだ後に指導者に転身して渡西。現地で10代の選手のチームの監督を務めた矢沢彰悟さんにお話を伺います。
(取材・文:竹中玲央奈)

優れた状況判断で攻守の要となるセルヒオ・ブスケツ(C)新井賢一

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■『親はあくまでもサポート』という共通認識

ジュニア年代の育成において重要なのが、"親やコーチの接し方"であることは間違いありません。サッカーの現場ではコーチの高圧的な指示によって子どもの成長の幅が狭められたり、試合中に応援席から応援を通り越した指示を出すことで困惑する子供の姿が見られたりすることがあります。

スペインでは基本的に"サッカーのことはクラブチームにすべてを任せる"というスタンスがあるそうですが、その中でも直接指導者に意見を言う親も存在するようです。そこについて矢沢さんは、日本よりも頻度や熱量は高いと言います。

「私自身日本でも指導者をやっていましたが、スペインのほうが思ったことを言ってくれる分、わかりやすい。国民性なのかもしれませんが、言いたいことを直接はっきりと言ってくれるから助かります。逆に日本は思っていることがあってもあんまり(親が指導者に)言わないから逆に対応が難しいというのはありますね。

例えば『なんでうちの子はメンバーに入れないんだ!』というようなことを言ってくる親御さんはいます。ただ、そういう話が来たら上の者に報告します。スペインのクラブには中間管理職のような存在の人がいるんです。クラブの幹部と現場の人間を繋ぐという部門ですね。そもそも、選手の親は監督との直接のやりとりは基本的にはしません。チームのサッカー的なことには干渉してはいけない。親はサポートである。という共通認識はあると感じますね」

■サッカーの成長のためには人間的成熟も必要

スペインではクラブチームはあくまでも"サッカーを教える"場所であり、教育的な側面はあまり持たないとも語ります。

ただし、自チームにとって必要ならば教育的なアドバイスも行うことはあるそうですが、あくまでサッカーやチームのためであって、サッカークラブが教育的なアプローチもしなければならないというわけではない、という前提のもと子どもたちに接しているのは間違いないようです。

「クラブチームの指導者からすると選手が学校でどうしているかを何も知らないことはあります。それは別の現場ですから。学校でやっていることは先生と親がやれば良い、という形ですね。ただ、テスト勉強があるから休む、ということはあります。スペインでは小学生から留年もあるので、勉強はしなければいけない。なので、指導者側から『勉強をするな』と言うことはないです。知り合いのチームなどでは宿題をしていないことを隠して通っていた子がいたそうなのですが、それがバレて帰されたという話は聞きますね。そういう意味では学校とクラブが完全に別とは言い切れないかもしれません」

とはいえ、"サッカーだけが上手ければ成功する"という考えはないようで、むしろサッカー選手として成長するにあたって人間性は重要視されているようです。

「例えばバルセロナのカンテラに入る人はやはり、人としてしっかりしています。バルサくらいの規模になるとクラブで人間教育プログラムというのものもやっていますし、人間性という意味ではメッシやイニエスタを見てもわかるかなと思います。実際に11歳までバルサのカンテラに居たけれど人間的な部分が足りずにサッカーのスキルも伸びず、他のチームに行った子も見ました」

サッカーの現場ではサッカーしか教えないというのが基本とはいえ、やはり人としての成熟はプレーヤーとして成長するにあたって万国共通の要素と言えるでしょう。

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