W杯出場欧州列強 U-12育成事情
2018年10月29日
処理能力>判断能力 試合中に考えていたら遅い! 早く正確なプレーを身につけるスペインの育成指導とは
■試合中に考えていたら遅い! スペインでは
"考える力"が選手としての成長を育むということは、サカイクでも常に提唱しているキーワードです。ただ、スペインにおいてはどのようにその力を育むのでしょうか。
親や指導者のスタンスには、根底に存在するある文化が大きく影響しているようです。そして、プレー選択の指導法からその国の"色"を感じることもできます。
「幼い年代からそうですが、スペインは年下が敬われる文化があります。子どもたちはリスペクトされる。指導者がプレーモデルを示しますが、状況によってどんなプレーをするのか自分たちで判断することも往々にしてあります。自分で判断してプレーをするのは当たり前のことであり、ピッチ内の状況によっては選手は指導者に言われたとおりにプレーしなければ怒られるとは限りません。ただし、状況的にもやれたのに、指示されたことをやらなかった際に指導者は叱ります。逆に、自分で状況的に"これはできない"と判断して別のプレーを選択したり、指導者の指示よりもっといいアイデアがあったからそちらを選択したというなら褒めるんです」
多くの日本人選手は真面目なので律儀に指導者の指示を実践しようとすると思いますが、スペイン人は「あくまでプレーするのは自分」、「判断するのも自分」という意識を強く持っていると感じるそうです。
サッカーの局面の中で自分ができることと出来ないことを考えて、その場で最適な答えを出す。そのための思考力を養うことが指導者には必要ということでしょうか。ただ、厳密にいうとそうではないと矢沢さんは続けます。
「とはいえ、『考えるな』とは言います。試合中に考えていたらボールを取られるので、いちいち考えてたら間に合わないのです。だから、『見て(最適なプレーを)決めろ』と。戦術的なことを教える=判断を奪うという考えではなく、戦術的なことを教えるから、試合で正確な答えを選べるというのがスペインの考えです。もちろん感覚的な判断はするのですが、無限にある様々な試合の局面での選択肢を3つくらい教えておいて、その局面ではどれがベストなのかを判断することが基本ですね」
訪れる瞬間瞬間に思考して最適解を出す状況判断力とというより、直面した状況を自身がそれまでに学んだプレーモデルと照らし合わせ、選択する状況処理力が求められるということです。
そして、これができる選手を育てるためには指導者側のインプット力も必然的に問われてきます。ですが、だからこそスペインからは良質な選手が多く輩出されるのではないでしょうか。前述したような"サッカーだけ"では大成しないという事実も含めて、日本は多く学ぶべき部分があるでしょう。
次回は、ワールドカップ決勝でも印象的なプレーを見せたモドリッチの母国、クロアチアの育成をご紹介します。
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矢沢彰悟(やざわ・しょうご)
スポーツライター、カメラマンを経て2015年に渡西。バルセロナのコーチングスクールにて指導を学び、2016-17シーズンはカタルーニャ州の3部チーム「CE Jupiter」のU12を指導したのちバルセロナにある地域クラブ「UE Sant Despi」のU16チームの監督を務め、2017-18シーズンはリーグ4位。18-19シーズンは「UD Unificación Bellvitge」(スペイン6部)のトップチームコーチに就任。