運動能力

2015年10月21日

筋トレは何歳から? 日本と海外の子どもの発育、環境に違いはあるの? 皆本晃×片山堅仁対談3

フットサル選手として2年間をスペインで過ごしたフットサル日本代表・皆本晃選手(府中アスレティックFC)と、高校卒業後にアルゼンチンやブラジルにサッカー留学していた元フットサル日本代表候補の片山賢仁さん(元シュライカー大阪)。海外サッカー留学を経験するふたりに海外と日本の子どもの違い、自身が子どものころに海外に出てみて、どのような衝撃を受けたかを語ってもらう対談企画を5月に配信しました。

今回は、そのときに出た話のなかで、テーマから反れてしまい掲載できなかった筋力や体幹などフィジカル面のお話など番外編もお送りします。
(取材・構成 澤山大輔)

 

Photo by Humphreys

 

▼皆本晃×片山堅仁対談・前回記事はこちら

<<なぜ、海外の子どもたちは8歳で自立できるのか?

<<おれならできる!その"自信"は子どもを成長させる起爆剤

 

<目次>

1.日本の子どもとスペインの子の身体を比較した印象
2.砂場やダンスで体幹を鍛えている?
3.南米でフィジカルコンタクトは磨かれる

 

■日本の子どもとスペインの子の身体を比較した印象

日本の子どもがスペインの子と比べて身体的に劣っている印象は受けない>――スペインの子どもと日本の子どもでは、運動能力に差を感じましたか? たとえば日本では、文部科学省の調査で「昭和60年ごろからずっと運動能力が落ちている」という統計があるようです。スペインでは、そういうことはあったりしますか?

  

片山 ぼくはフィジカルコーチの通訳をしていたのですが、スペインでは1週間をしっかり分けてどれくらいの強度で練習を組むか数値で出しています。練習時間を合算して、これくらいオーバーするとこの日はそれ以上トレーニングを行ってはいけない、この日ならそれくらいの負荷がかかってもOK、というように。日本にもそうやって計算しているコーチが一部にはいると思いますが、スペインは育成年代のどのカテゴリーでも計算しています。

  

――限られた一部の子どもたちだけでなく、広く一般的にそういった環境でサッカーをしているということですか?

  

片山 そうです。多くの育成年代のチームにフィジカルコーチがついています。すごく緻密に計算してやっているんですよね。スペインも、昔に比べると遊ぶスペースが限られてきていて、地方によっては野原を駆け回るようなことが少ないケースもあります。それでも、日本に比べれば遊ぶスペースは与えられている。

  

皆本 パッと見ですけど、ぼくは日本の子どもが向こうの子と比べて身体的に劣ってるような印象は受けませんでした。スペイン人の子と日本人の子を並べて見比べたわけじゃないので、なんとも言えないですが、そこまで差があるとは思いません。ただ、スペイン人は、子どものころから踊るのがうまいです。

  

片山 海外はみんな踊りがうまいですよね。日本は踊る文化がないですからね。

  

皆本 公園などでクラブで流れているような曲がかかると子どももステップを踏んでいるんですよ。「子どもの頃からこんなに踊れるんだ」とカルチャーショックを受けました。ぼくは全然踊れないので。スペインで夜に出かけたりしても、ステップワークがついていけないんです。それがピッチの上でどれだけ影響しているのかはわからないですけど。公園でその辺の子どもたちを見て、「何して遊ぶのかな」って思ったら、お母さんから借りた携帯でYou Tubeを開いて曲を流して踊っててるんですよね。そういう文化が向こうにはあります。

 

■砂場やダンスで体幹を鍛えている?

――それは関係あるかもしれないですね。以前にフィジカルコンタクトの強いあるJリーガーに取材した時も、「特別なトレーニングは何もやっていない」と言うんですよね。よくよく聞いたら、小さいころは野山を駆け回っていたと。知り合いのトレーナーからは「野原を駆け回ることで体幹がいろんな方向に鍛えられるし、股関節の柔軟性もそこで鍛えられる」と聞いたことがあります。踊りにせよ何にせよ、小さなころからいろんな方向に負荷をかけるということが大事なのかもしれません。

 

片山 なるほど。そういった点でいえば、ブラジルでは、どこのクラブに行っても砂場があるんですよ。ビーチでもみんなボールを持ってビーチサッカーをやっています。しかもめちゃくちゃうまい(笑)。小さいころから身体を動かす環境は、充実していると思います。

  

スペインのエスパニョールというチームに所属する13歳か14歳くらいの子で、すでに大人のようなフィジカルをした黒人選手がいました。それこそお尻なんてボラ(ペスカドーラ町田所属のフットサル選手)みたいにガッシリしていた。瞬発力も半端じゃなくて、簡単に相手を抜いてしまう。当時は、「反則だな、これはDNAの違いだな」と思いました。

 

けど、当時のコーチは「彼はフィジカルで追いつかれた時にすぐに抜かされるよ」と言っていました。「ずっとスターでいるには、彼自身が気付かなきゃいけないし、コーチや周りの大人たちが気づかせてあげなきゃいけない」と。

 

――仰るとおりで、子どもの時期に突出したフィジカルを持った選手の課題はそこですよね。

 

片山 成長のスピードはホントに速いです。ぼくも11歳のときに初めてスペインに渡ってエスパニョールと対戦しました。1年後にまた対戦したのですが、「あれ、別人が出てきたのかな?」と思うくらい彼らの身長が伸びていて。もちろん、ほとんどが同じ子だったんです。とても同年代と試合をしてるとは思えませんでした。

 

 

■南米でフィジカルコンタクトは磨かれる

――お二人は海外でプレーされて、フィジカル面で課題を感じたことはありますか?

 

皆本 意外と、フィジカル面では(日本人も)いけるかなと感じました。一番最初にスペインに留学したのが22歳の時で、その時には「全然だめだ」と思ったんです。もちろんフットサルの考え方など頭の部分が一番劣っていたのですが、フィジカルの部分でもやはり差を感じました。でも、その2年後にスペインに行った際には、意外と勝負できるんじゃないかなって感じましたね。

 

――具体的には、どういう部分で勝負できると感じたんですか?

 

皆本 ぼくのサイズとスピードで、ぼくの強さで当たれる選手はいなかったですね。ぼくより小さくて速い選手はいるけど、そういう選手はそんなにフィジカルが強くない。逆に、大きい選手は鈍いです。ぼくはその間くらいだったんで、意外とスピードでも勝負できるし、スピードの中でパワーを発揮できた。自分が相手より優位に立てる状況が、すごく多いと感じていました。もちろん、最初にスペインに行ってからの2年間で、がんばって体重を増やしたりする準備期間があったと思います。

 

ただ、フットサルはサッカーとはまた違います。サッカーはジャンプしなきゃいけないですから。フットサルはほとんどが平地での戦いで空中戦と言われるような場面は少ないです。だから、身長のデメリットよりも足の長さの方が重要。足の長い選手の方が有利なんですよね。そういう意味で背の大きい選手の方が有利な場合もありますけど、意外と小さくても動き回れて強く当たることができれば、それがメリットになる。そこが勝負していくポイントだったのではないかと思います。

  

もちろん、自分より大きい選手が守ってくれていたり、身体を張ってくれたおかげもあります。僕みたいな日本人選手を5人並べて勝てるか、と言ったらまた違うと思いますけど。

  

片山 ぼくはブラジルやアルゼンチンでの経験になりますが、18歳まで全くフィジカルトレーニングをやっていませんでした。日本でも目立って細い方だったんで、身体に当てられないでプレーすることばかり考えていました。そんな選手が海外に行ったもんだから、最初は飛ばされまくりでした。南米ってスペインと違って芝を短くしないんです。スペインは芝を短くして、水を撒いて、ボールを走らせるようにします。だけど南米は「手入れするのがめんどくさいから」みたいな感じで、芝が伸びっぱなし。

  

だからボールが止まるんですよね。で、止まるってことは必然的にコンタクトが多くなる。南米のサッカーのスピードがプレミアリーグやスペインリーグに比べて遅いって言われるのは、それが一番の理由です。そうなるとフィジカルコンタクトがすごい。スピードももちろん大事なんですけど、やっぱりぶつかって負けないというベースがないといけない。そう感じて、そこからめちゃくちゃウェイトトレーニングをしました。

 

皆本 向こうの選手、それに加えて相当肉を食べていますよね?

 

片山 肉を食べる量も違います。牛肉の消費量は2009年まで世界一でしたから、本当に毎食が肉です。あと筋トレの量が多いです。プロになると違うのかもしれないですけど、育成年代から始めるタイミングが早いですね。13歳~14歳で始めています。発育スピードに違いもあるので、日本でもそうしたほうがいいかはわかりませんが、南米では中学生年代から普通に筋トレをしています。どの年代もどのカテゴリーもやってますね。身体の使い方も、そのころには身につくように訓練しています。

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