健康と食育
オンライントレーニングに潜むケガリスク、Jクラブのドクターが忠告する「痛みを発症する原因」とは
公開:2020年7月28日 更新:2020年8月 7日
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"コロナ自粛"の影響で、スポーツ界にオンライントレーニングが広がりました。場所を問わず、フィジカルトレーニングができる便利さが受け、多くの選手やチームが取り入れています。
ですが、正しく行えていないとケガのリスクもあるのだとか。
そこで、日本サッカー協会のスポーツ医学委員でJクラブのドクターも務める大塚一寛先生(上尾総合病院スポーツ医学センター長)に「オンライントレーニングをする際に気をつけたいこと」について、話をうかがいました。
(取材・文:鈴木智之)
後編:肩甲骨はがしとコア強化で身体の連動性アップ! Jクラブのドクターが教える家でできるトレーニングのチェックポイント>>
■アライメントが崩れているとオスグッド→シンスプリントなど芋づる式にケガをする可能性
大塚先生がまず強調したのが「正しい姿勢でトレーニングを行うことの大切さ」です。
オンライントレーニングは一気に身近になりましたが、痛みの発生につながることもあるので注意しなければなりません。
「正しい姿勢でトレーニングをしないと、体が"代償"を覚えてしまいます。代償とは、代わりとなる部位の筋肉が動くことで、本来鍛えたい箇所に負荷がかからなくなり、トレーニング効果が得られません。画面を見て、ただ『型』をマネするような形になってしまうので気をつけましょう」
と、間違った姿勢でトレーニングすることのリスクを教えてくれました。
ジュニア年代でも、オンライントレーニングでフィジカルに刺激を与える取り組みを、たくさんのチーム、指導者が実施しています。サカイク編集部にも「何歳から筋トレをしたほうがいいですか?」という質問が届くなど、保護者の関心が高いジュニア年代での筋トレの情報。
ですが、大塚先生は「ジュニア年代であればまずは正しい動きづくり、いわゆる"アライメント"を高めるトレーニングをする方が良いと思います」とアドバイスを送ります。
アライメントとは骨、軟骨、間接の配置のことで身体の連動性にも影響します。たとえばシュートを打つときは、ボールに直接触れるのは足ですが、両手を振って、上半身と下半身をねじって、パワーを生み出して、足をボールに当てるという動作をします。
この上半身と下半身の連動性、各パーツの動きが連続して行われることがケガをしないために大事なことなのです。
「アライメントが崩れていると、慢性障害(痛み)につながる恐れがあります。そうすると、コンスタントにピッチに立てなくなってしまいます。とくに、神経系が発達する"ゴールデンエイジ"と言われる時期の、8歳~12歳前後の子どもたちはボールを蹴ることで感覚を身につけることが大事なので、筋トレではなくアライメントを含めた身体の使い方を身につけることに意識を向けると良いと思います」
ケガを未然に防ぐことで、常に練習に取り組むことができ、技術や体力面のレベルアップにつながります。大きく伸びると言われているゴールデンエイジの貴重な時間を、ケガで棒に振ってしまうのはとてももったいないことです。
「バランス能力やアライメントが悪いと、小学生の時にオスグッドになり、中学生になってシンスプリントになるなど、芋づる式にケガをしてしまう恐れもあります。アライメントが悪い影響で、身体の至るところに負荷がかかっているのです。元の部分を改善していかないと、痛みが出るたびに治療をしても、根本的な解決にはなりません」
■体のバランスを整えるのは「サッカー以前」のこと
アライメントが大切なのは、子どもだけではありません。大塚先生が日ごろ接している、プロ選手でも、入団したばかりの若い選手はアライメントに改善の余地がある選手がいるそうです。
「例えば、あるプロ選手に片足立ちのスクワットをやらせると、片方に傾いて、まっすぐできないことがありました。これがアライメントが良くない状態、つまり機能不全です。選手としてはすごくまずい状態ですよね。アスリートではない私がその選手とおしくらまんじゅうをすると、簡単に勝つことができました」
その選手は空中戦やハイボールには強い一方で、相手を背負ってプレーする際には、アライメントが良くないので苦戦していたそうです。
「繰り返しお伝えしているとおり、身体のバランスが悪いのでグロインペインなど、股関節周辺のケガをよくしていました。私からすると、プロ選手であるにも関わらず、サッカーをする以前の状態と言えます。それから、アライメント向上のトレーニングに取り組んだことで動きが改善され、いまでは大活躍しています」
ジュニア年代から動きづくりに取り組んでいたら、早い段階から上のレベルに到達できたかもしれません。
■筋トレなどフィジカルトレーニングは16歳以上で十分
「男の子の場合、技術面に関しては、16歳ごろまではやればうやるだけうまくなります。一方で、それ以降の伸びしろは5%ほどしかないと言われています。だからこそ、ジュニア年代から16歳ごろまでは、ケガをせずに、コンスタントにピッチに立つための身体作りが大切なのです」
さらに、こうアドバイスを送ります。
「その意味でも、指導者の方々は、子どもたちがケガをせず、ピッチに立てるようにしてあげてほしいです。フィジカルトレーニングは16歳以降に取り組んでも、十分に間に合います。ボールテクニックや、ラダーを使って動きの敏捷性を高めるトレーニングなど、ゴールデンエイジのときにするからこそ、より効果的なトレーニングはたくさんあると思います」
次回の記事では、正しい姿勢でトレーニングする際に、保護者がチェックすべきポイントについて紹介します。
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大塚一寛(おおつか・かずひろ)
医師、上尾中央総合病院整形外科・スポーツ医学センター長。1999年からJクラブのドクターとしてチームとともに帯同を続けている。そのほか、『日本サッカー協会スポーツ医学委員』や、『Jリーグチームドクター会議部部会長』を務める。多数の講演にも出演し、現場のノウハウや選手のケガ、障害予防などの啓発活動も積極的に行っている。