サッカー豆知識
2022年9月13日
指導者の横暴を黙認する保護者も問題、日本サッカー育成年代の間違った熱血指導による暴力問題の本質
今年の春、秀岳館高校サッカー部のコーチが男子部員を暴行する動画がSNSで拡散されました。しかし、その後に部員が顔出しで謝罪動画を公開し、暴力は日常的なものではないとメディアで報道されている内容を否定しました。
その後、監督がテレビに出演し「謝罪動画は部員の主体的な行動によるもので、自分は関与していない」と釈明しましたが、数日後に監督が指示したという事実が発覚し、指導者としてあるまじきことであると大きな問題として取り上げられました。
筆者は、長年育成年代を取材してきた経験からこのような問題はまだ氷山の一角で、表に出てきていないことはたくさんあると感じています。
今回は、日本の育成年代で度々起こる暴力問題の本質を紐解いていきたいと思います。
(構成・文:KEI IMAI)
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■古いままの指導観、アップデートされない教育観
まず、日本の学校教育を筆頭に教育観がアップデートされていないという問題があります。
欧米ではより科学的にスポーツ指導が行われ、サッカー以前に人間性を育む指導が当たり前になっていますが、日本は未だに根性論が根強く、暴力を伴う行き過ぎた指導が散見されます。
熱血指導、暴力をともなう強制的な指導は、軍隊教育の名残だと言われています。
日本野球界の偉大な指導者、野村克也さんは著書「指導者のエゴが才能をダメにする ノムラの指導論」の中でこう書かれています。
「私が現役の頃、『指導』には暴力がつきものだった。当時は軍隊を経験した人たちが指導者となるケースが多かった。軍隊は生死を懸けた戦いの場所だ。とくに太平洋戦争を経験された人は、さぞかし苦労されたと思う。
そうしたなかでも特筆すべきことは、一般社会では例を見ないほどの『行き過ぎた上下関係』が、軍隊で行われていたことに尽きる。俗に言う『しごき』の類は、ここで体験したことを、戦後になって『教育』という名のもとに、一般社会に持ち込まれてしまったからに他ならない。」
出典:指導者のエゴが才能をダメにする ノムラの指導論 著者:野村克也
サッカー以外のスポーツでも根強く残る、いき過ぎた熱血指導は古いままの指導観、教育観が原因であると感じています。
■指導者の横暴を許容、黙認する保護者たちも問題
もう一つ問題なのは、このような指導者を黙認してしまう大人だと思います。
ジュニアサッカーの現場に行くと、未だに高圧的で横暴な指導者もいますが、これを後押ししているのは保護者の方だったりします。
保護者世代も同じような指導を受けてきたので問題に気が付かない人が多かったりと、決して悪気はないと思うのですが、お茶汲みなどの過剰な接待をしながら「子どもたちを鍛えてください」などと熱血教育に対するニーズも残っているように思います。
また、指導者に対して違和感を感じながらも黙認してしまう大人も多いように思います。同調圧力や声が大きい影響力のある人に対して意見しにくいという国民性もあるかもしれません。
しかし、子供たちのためにより良い方向にいけるように考えていかなければなりません。
■指導者が勝利至上主義に陥る理由
また、指導者が勝利至上主義に陥ってしまう理由の一つに全国大会などの構造問題があります。負けたらおしまいのトーナメント方式中心の大会運営はその最たるものです。
サッカーを含めたスポーツと呼ばれるものは本来、生涯スポーツとして楽しみ、心身ともに健康的に過ごすためのものです。
しかしながら、実際には多くのジュニアチームが勝利至上主義に陥り、子どもを消耗しています。目先の勝利が最優先になり、熱血指導、先回り指導が跋扈しています。結果として暴力事件や、オーバーユース、バーンアウトが起こりやすい構造になっているように思います。
行き過ぎた指導により、サッカーが嫌いになって辞めてしまう子どもの話もよく耳にします。そんなことは、あってはならないことだと思います。
サッカーを楽しみながら、好奇心と主体性を育み、それぞれのレベルに合ったプレー環境が大切なのです。
全国大会を廃止とまでいかなくても、その方式は早々に変えるべきだと思います。レベル別にリーグを分けて戦えるような仕組みにすること、そのカテゴリの中でトーナメントなどを行うのはいいと思うんです。
既存の全国大会はそのような仕組みになっていません。レベルが圧倒的に違うチームが試合を行わなければならない仕組みも、変えていかなければならないと思います。
サッカーコンサルタントの幸野健一さんの著書「パッション 新世界を生き抜く子どもの育て方」にはこう書かれています。
「サッカーも、冬の高校選手権が選手の最大の目的になっているよね。勝てば天国、負けたら地獄みたいな戦いは、もちろん、選手にとってかけがえのない経験となる面もあると思う。
でも僕は、それが本当に選手のためになっているのかは疑問に思ってしまうんだ。考えてほしいのは、ゲームそのものではなく、誰のためのものかということ。
育成年代のスポーツの主役は、あくまで選手でなければいけない。でも現実は、選手の手を離れて、視聴者を意識したテレビ局や大会関係者のものになっているよね。
ヨーロッパや南米の育成年代においては、日本のような全国大会はないんだ。あまりにも強いスポットライトを浴びることで、選手が天狗になるのが良くないという理由でやっていないんだよ。選手を保護する考えがある」
■保護者ができること
構造をすぐに変えることは難しいかもしれません。しかし、問題提起すること、コミュニケーションを取ることはできます。
もし、自分のチームの指導者が熱血過ぎるのなら、子どもがサッカーを心から楽しむための親の心得「サカイク10か条」を思い出してください。保護者としてどうあればいいか、わかるはずです。
そして、チームの保護者、指導者とコミュニケーションをとってみてください。
親御さんが、間違った指導を知ることができれば問題はすぐに把握できます。
まずは知ること、そして必要なアクションを考えることです。