2010年末に現役を退いた後、2年のスクールコーチ経験を経て昨季は川崎フロンターレU10コーチ、今季から同U12の監督に就任した佐原秀樹(さはら・ひでき)氏。
現役時代は2年間のFC東京在籍、グレミオ・ジュニオールへの留学以外では計12シーズンにわたって川崎Fに籍を置き、その能力の高さとキャラクターで川崎FサポーターだけでなくFC東京サポーターからも高い人気を誇った選手だった。
就任直後の佐原監督は、さっそくチビリンピック関東大会で準優勝という結果を残し、5月3日に行われた「JA全農杯 チビリンピック 小学生8人制サッカー全国決勝大会 2014」へ3年ぶりに出場。同大会では準決勝で惜しくもレジスタFCに敗れたものの、素晴らしい戦いを見せている。その佐原監督に、チーム指導のあり方について尋ねた。(取材・文 江藤高志)
――2年のスクールコーチの経験を経て、選抜チームの監督となりました。一般のチームの方もリーダーやキャプテン選びに苦労すると思いますが、どのように選んでいたのでしょうか?
「フロンターレの場合、U10からU11にかけて、キャプテンを月ごとに代えます。全員が必ず一回はやるようにしていました。ただU12になったら一人に固定します。
キャプテンになると、自分の行動で示さないといけなくなります。フロンターレは、試合会場の集合場所などは全部子どもたちに決めさせています。親御さんには送迎させていません。試合が10時からであれば、キャプテンが1時間ちょっと前にグランドに着いているよう調整するわけです。そこから逆算して、電車とバスの時間を調べて、みんなで情報を共有して集合する。これは大変だと思います。
ただ、そうしたことを経験することで、チーム全体の事を考えるようになりますし、責任感も当然出てくる。他には、そういうチームは少ないようですね。マリノスもそうらしいですが、この話をよそのチームの方にするとびっくりされます」
――試合会場に子どもたちだけで行くということについて、親御さんからの反対は?
「ないですね。最初はびっくりする親御さんもいるんですが、そういうことも経験だし、大人の社会を知る意味でもいいと思います。一人で来るわけではなく、みんなでまとまって同じ方向の子たちで待ち合わせて、最終的にはどこかで合流して来ますから」
――今までに事故は?
「ありません。ただ、これは首都圏のチームだからできることだとは思います。地方の場合、電車やバスが十分にはないと思いますし」
――選抜チームの場合、落ちこぼれてしまう子どももいるのでは?
「いますね。みんな、それまでのチームでは中心選手としてやってきていた子ばかりなので、"お山の大将"になっています。ところが、入ってきて分かるんですね、『さらに上がいる』ってことが。そうなると落ちこぼれるというか、自信を無くします。ピッチ外ではすごく元気なんですが、グランドに立つと周りに上手い子がいるので、萎縮しちゃう子も居ます」
――そういう子に対してはどう対処しますか?
「『這い上がってくるのは自分次第なんだ』と伝えます。練習の日にちは同じ、時間も同じ。そうするとどこで差をつけるのか、差を埋めるのかといったら、活動日以外でどれだけボールを触れるのかというところですよね。
結局、ジュニアからジュニアユースにも全員は上がれません。ジュニアユースからユースへの昇格も同じ。その先にあるトップチームに上がれる選手は、本当に一握り。ですから、そうした競争社会なんだということは小学生の段階で伝えています。もちろん、スクールを教えていたころはいかに楽しんで続けてくれるかが優先されます」
――考えさせるためのアプローチはどうしてますか?
「意見を聞きます。『(今のプレーは)どういう意識だったの?』と。で、自分の考えとリンクさせて『それだったら問題ないよ』と伝えます。成功、失敗に関わらず、『今どうだったの?』とは聞きます」
――子どもたち同士でコーチングさせるのは難しくないですか?
「それはそうですが、言いますね。ゲーム中に。自分が思っている事を伝えないといけないし、それがチームの為にもなるし、自分のためにもなる。喋れないとやっぱりダメですね。結局、コーチングはサッカーの理解力につながっていますし、日常生活にリンクしています。自分で考えて行動できる選手は、サッカーをやっても考えられる。これは顕著に出ますね」
――チームに対してのアプローチとして叱ることはありますか?
「もちろん、叱ります」
――"叱らない教え方"も最近は取り上げられている中、叱り方で気にしている事はありますか?
「たとえば、タイミングですね。今言わなければならないことはその場で言いますし、後で伝えていいと思うことは後にします」
――何について叱りますか?
「サッカーのピッチ内については、まずセオリーですね。ある状況の中であるプレーをした結果で失点した場合、『どうだったの?』という問い方をして、意見を聞きながらもこちらとしては結論を持って『でも結果的に失点したよね。だとしたら、判断を変えなければならないよね』という言い方をします。叱ると言っても『お前、何やってんだよ』という言い方はしないです」
――セオリー的にダメなものはダメという話はありますか?
「たとえば自陣ゴール前で困って中にパスを出して、それを取られてしまう、とか。『そこで失うと失点のリスクがあるから、良くないよね』ということは言います」
――攻撃面ではどうですか?
「点を取るときであれば、本当に自分で行ったほうがいいのか、味方がサポートしているのに、サポートしている選手を使った方が点を取る確率は高くなるのか、考えさせます。考えるためには見えていたのか、見えてないのかが重要になるのでそこは問います」
――パスなのか仕掛けなのかの判断についてということですね。
「だから、相手をよく見なさいと。相手がどういう状態だったのかを見て、判断する事を求めます」
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取材・文/江藤高志 写真/小川博久