考える力
ゲーム形式のトレーニングだけでは爆発的な成長はない⁉ 元バルサスクールコーチがドリル形式のトレーニングを取り入れる理由とは
公開:2016年7月11日 更新:2021年1月27日
かつてFCバルセロナの現地スクールコーチとして活躍した村松尚登さんは、バルセロナスクール福岡校での指導を経て、現在、水戸ホーリーホックのアカデミーで指導をしています。以前、スペイン流の指導をしていたときは”判断が伴うトレーニング”に重きをおき、ゲーム形式のトレーニングを主体としていましたが、今はゲーム形式のトレーニングに加えて、ドリル形式のトレーニングも精力的に取り入れるようになっているそうです。
現在の日本の少年サッカーシーンでは、どちらかといえばゲーム形式の実践型のトレーニングが重視され、ドリル形式のトレーニングを軽視する傾向にありますが、村松さんの指導はこの考え方とは異なります。これは一体どういうことなのでしょうか。村松さんにその真意を伺いました。お子さんのチーム選びの参考にもなる内容ですので、ぜひご覧ください。(取材・文 杜乃伍真)
■状況判断や相手との駆け引きがもっとも大切!それは今も昔も変わらない
まず、ぼくの考え方を最初に明確にしておきたいのですが、サッカーは複数対複数が対戦するゴールゲームで、攻守が連動する戦術ゲームだと認識しています。その意味でいえば、小さいころから戦術ありきで、状況判断を伴うトレーニングをすることこそ、サッカーの醍醐味や魅力を子どもたちにうまく伝えることができるのではないかと思います。それは今も昔も変わっていません。
極端な話でいえば、ボール扱いがうまくなくて30メートルのパスを正確に出せなくても、その選手がチームのなかで戦術的にうまく機能すれば、十分にプレーを満喫できる、それがサッカーの素晴らしさだと思います。
みんながみんな、ネイマールのようなドリブラーや、イニエスタのようなパサーである必要はありません。いろいろな持ち味のある11人の選手たちがいるからこそ、チームとしての完成度も高まるのだと思います。もちろん、ボール扱いがうまいに越したことはないのですが、そうではない泥臭いプレーヤーもいて、守備で活躍する選手もいる。では、そのなかで何が大切になるのかといえば、サッカーは駆け引きのゲームであるということ。私自身、それが今も昔も変わらずに大事だと思っているので、それは引きつづき、子どもたちに一番に伝えたいと思っています。
■元々ポテンシャルの高い子は、ゲーム形式のトレーニングで伸びていった
ただし、その一方で、私がスペインから日本に帰ってきて感じたのは、日本にはスペインよりも「もっとうまくなりたい!」と思っている子どもが多いということです。“今”のレベルに関係なく、サッカーに情熱をかけて、自主練習をこつこつと積み重ねて、よりレベルアップしようとする子どもの数はスペインよりも多いと感じるのです。
では、そういう子どもたちにスペイン流の戦術的なゲーム形式のトレーニングだけをさせてあげることで、 “化けた”といえるほどの飛躍的な成長を望むことはできるのでしょうか? 今回の私の新しい著書は、そんな疑問に端を発しているのですが、「決してそうではないのではないか?」と思うところがあるのです。
私が日本でこれまで指導した子どもたちの中には、バルサスクール福岡校から年代別の日本代表選手や、サガン鳥栖やアビスパ福岡のアカデミーに加入する選手が生まれたりしています。そういうニュースを耳にすると、自分の指導に自信を持つ一方で「あの子たちは小学生のころからすごいものを持っていた」という見方ができることも、事実として受け止めなければいけないと思っています。
確かにポテンシャルがすごい子どもたちでした。その子どもたちにスペイン流のゲーム形式のトレーニングをさせてあげることで彼らの実力は伸びたと思います。しかし、それは“化ける”と言えるほどの飛躍的なレベルアップというよりも予想の範囲内での成長だったのではないかと考えています。
■子どもたちを“化けさせる”街クラブに衝撃を受けた
そう思うのは、日本のとある街クラブの取り組みが私にとっては衝撃的だったという経験があるからです。その街クラブがプロ選手を輩出しているかどうかはさておき、自分が指導した子どもたちと、その街クラブの子どもたちの合同練習や練習試合での様子を見比べてみたときに、明らかに街クラブの子どもたちのほうが成長の伸び率が高いという事実に直面したのです。これは衝撃的でした。
私も非常に参考にしているのですが、その街クラブでは、ボールを扱う技術を高めることに力を入れながら、同時に、ゲームのなかで状況判断を伴うパスも出せるし、状況判断が伴うドリブルもできる、そんな子どもを育てることに成功しているのです。
つまり、チームとして目指すサッカーの中に、個々のテクニックをどうやって活かすのか? という、とても大事なレベルまで掘り下げて指導がなされているのです。それらをゲーム形式のトレーニングと、個々の技術を伸ばすドリル形式のトレーニングをうまく織り交ぜながら、子どもたちを“化ける”ほどのレベルに飛躍的に伸ばすことに成功しているのです。
■いまチームに貢献するために状況判断するスペインのトレーニングとは異なる、日本の街クラブのトレーニングに感じた特長
スペインでの指導の場合、ゲーム形式のトレーニングのなかで、「“今”、君はどうやったらチームに貢献できるのか?」という見方によってそれぞれのテクニックを伸ばしていきます。それゆえに結果として、チームが強そうに見えるし、試合にも勝てる、大人びたゲームが展開される、という現象につながります。
一方で、前述の日本の街クラブの取り組みでは、“今”はそれほど重要ではありません。
「将来的に、君はどういうふうにチームに貢献したいのか? どういうレベルで貢献できるようになりたいのか? そのためには今は百万回難しいプレーにチャレンジしたほうがいいのではないか?」
そんな極論にいきついているのです。だから、”今”、目の前で起こっている現象としては、小学生のころの団子サッカーを想起させるような感覚に戻ってしまっているように見えるかもしれません。しかし、1年後、2年後、3年後、将来的な個々の成長を考えると、飛躍的に個々のテクニックが伸びているんじゃないか? という感覚を持つことができるのです。
■“ゲームかドリルか”ではなく、“ゲームもドリルも”大切なトレーニング
繰り返しになりますが、私はスペイン流の状況判断が伴うゲーム形式のトレーニングはとても大事だと思っています。
チームの仲間のポジション取り、相手の配置によって、その選手のプレーが決まる。もちろん本人の個性も発揮されて当然ではありますが、それ以上にチームと対戦相手、その兼ね合いをもとにしながらプレーを選択していく。ひとりではできないことを、チームとして協力しながらプレーすることで、チームとしての完成度がより高まり、勝つ可能性が高まること。それがチームスポーツとしてのサッカーの醍醐味だという考えは揺るぎません。
そして私は少し前まで、止まっているコーンを抜いていくようなドリル形式のトレーニングなどは、判断が伴わないその状況というものが試合中にはないのだから、やる意味がないのではないかとさえ思っていました。それならばゲーム形式のトレーニングのなかでドリブルをやったほうがいいんじゃないか? という考えがあり、極力ドリル形式のトレーニングを敬遠しているところがありました。しかし、私はいま、指導している子どもたちにドリル形式のトレーニングの重要性も伝えています。
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取材・文 杜乃伍真