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■結果ではなく頑張っている態度をほめる
二つめは「最近は、どう声をかけたらいいのかもわからないようになってしまっています」
臨床心理の専門家でもあるスクールカウンセラーの方を取材した際、「島沢さん、中学生や高校生が挙げた信頼できる大人ってどんな人だと思う?」と聞かれたことがあります。私が「うーん。嘘をつかない大人でしょうか」と言ったら、「子どもに嘘ついたこと、ないの?」と言われ、百ほどついた私はえへへと笑うしかありませんでした。
答えは「自分をわかってくれる人・わかろうとしてくれる人」でした。
「わかるにはね、子どもたちの話を聴かなきゃいけないでしょ」
つまり、子育ては「(何かを)言わなければ」より「聴かなければ」なのです。しかも、父ひとり、子ひとりなら、尚更聴き役はひとり、お父さんだけになります。八つや九つで最愛のお母さんを亡くした心の穴は、そうそう埋められるものではないと思います。
加えて、仕事に家事にと奮闘するお父さんの姿を毎日見ている彼のほうにも、葛藤があるでしょう。大変そうなお父さんに迷惑をかけたくない。勉強だってサッカーだってできる自分を見せたいはずです。
けれど、理想と現実の乖離はなかなか埋められない。「息子ももがいているのかもしれない」という言葉の通りでしょう。
中学生あたりから、人生はさまざまなものとの戦いであることを少しずつ気づき始めます。特にサッカーは、負けたり、勝ったり、逃げたり、挑んだり。その繰り返し。でも、そんな経験ができるから、スポーツで成長できるのです。
息子さんの控えという立場は、とても辛いものです。けれども、多くのサッカークラブはBチームの練習試合を組むなどして、出場機会を増やす傾向があります。そういう機会があって、彼が見て欲しいと言えば応援に行ってあげてください。そして、結果ではなく、頑張っている態度をたくさんほめてあげましょう。
親は子どもにとって安全基地にならなくてはいけません。それでなくても、日本の教育は成果主義なのでプロセスを認めてもらえる場面が少ないはずです。サッカークラブのコーチが頑張った姿を見てくれる人なら良いですが、そうでなければお父さんがたくさん認めてあげることが必要です。脳科学的にも、結果よりもプロセスをほめる「強化学習」が有効だと言われています。
「よく頑張ってるねえ。心臓がバクバクしちゃうだろ?」
「お父さんはあんなふうには走れなかったよ」
■まずは親自身が日々の生活を楽しみ、辛い時は素直にこぼす
息子は無意識でも、父親を超えたいものです。でんと構えて、いつか超えてくれよという姿勢でいてください。「超える」の意味は学歴とか収入ではなく、人の幅という意味です。最愛の母親の死を乗り越え、学校に通い、サッカーを続ける彼は、すでにお父さんを超えているのかもしれません。
まずは、スイッチを入れなくてはとか、何か効果的な声がけなどと焦らずに、お父さん自身が日々の日常を楽しんで生きてください。そして、お父さん自身が辛いときは「パパもなかなかつらいんだよ。困ったときは助けてね」とこぼしてもいいのではないでしょうか。
家族は「チーム」です。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)
スポーツ・教育ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てる テニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。
文 島沢優子
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