蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2019年3月22日
敗戦後に「ざまあみろ」と言ったコーチに預けていいのか問題
強豪クラブで監督に目をかけてもらっていたのに、コーチが変わったら状況が一変。ジュニアユースの練習に参加したことを理由に小学生最後の試合に出してもらえず、負けた後に「ざまあみろ」と言われた。
4月からは新しいコーチになるけど、これまで指導者に委縮しながらサッカーしてきた息子に対して今のうちにフォローできることは? とご相談をいただきました。
今回も、スポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、ご自身の体験と数々の取材活動で得た知見をもとに、ご相談者さまにアドバイスを授けます。参考になさってください。(文:島沢優子)
<サッカーママからのご相談>
市内でも強豪と言われるクラブチームに6年間在籍しています。
小学生期間残り少しなのですが、とても後味が悪く今後のサッカーへの関わりに不安があるので相談させていただきます。
息子は背が小さいのですが足が速く3年の頃からチームの監督に目をかけてもらっている感じでした。トレセンを受けなかったのですが監督が話をつけてセレクションもなく、9月から行くように、と言われとても威圧的で断れずそのまま入りました。
息子は楽しく練習に行っていましたが、影でのバッシングは酷いものでした。
そんな中でも上の学年にも上げてもらいスタメンで試合に出させて頂いていたのですが、4年生の頃に新しいコーチがわが子と同い年の息子さんと共に入りました。
普段はとても感じの良いコーチでしたが、練習試合の時などうちの子にだけ厳しく、ファールなども見逃されていました。ほかの選手も首を傾げる行為でしたが、罵声が怖くて誰も何も言えなく、結局我が子が正義感なのか「間違ってる!」と言ってしまったのです。
色んな事が重なってのことですが、上記が他のチームのコーチにも広がり「暴言の選手」と言われるようになってしまいました。
息子はチームを辞めない意思で通い続けましたが、トレセンを取り消されると言われていたので我慢していたのかもしれないと今は思います。
コーチは、練習の時も大きな声で親たちの悪口を言ったり、他の子と比べて罵倒したり、子どもたちの話を聞かず臆測で怒鳴ることも多々ありました。
息子が辞めない、と言うので、理不尽を学ぶ機会と思い見守って来ましたが、ジュニアユースの練習に参加したという理由で、最後の大きな大会で試合には出れず、「人として最低だ」とSNSに書かれたあげく、負けた試合の後に「ざまあみろ」と言われたそうです。
まだあと1か月ほどありますが、この先練習に行きかせるのが不安です。
春からは新しいコーチ、新しいコーチになるので大丈夫と思いたいですが、恐怖で萎縮しながらサッカーをしてきたので、息子の態度や言動が不安です。
中学生になって楽しくサッカーをするために、今のうちに何かフォローすべきでしょうか。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
このような連載は次々に相談が入ってくるので、対応できないことも生じてしまいます。すでにもう卆団されていると思うので、最後の「何かフォローすべきでしょうか」というご相談には応じられなくてごめんなさい。
とはいえ、このようなケースは珍しいことではなく、似た状況に置かれている方もいらっしゃると思うのでお話しさせていただきますね。
読ませていただいた限り、お子さんがサッカーが楽しめない環境に置かれている様子が伝わってきます。
4年生になったら新コーチに罵声を浴びせられ厳しくされた。親の悪口を言う。他の子と比べ罵倒。これは、このコーチの子どもさんと息子さんの関係性も影響があるのでしょうか。
ジュニアユースの練習に出たことがなぜコーチの逆鱗にふれたのか私には理解できません。ただ、「人として最低だ」とSNSに書かれ、負けた試合の後にコーチが息子さんに本当に「ざまあみろ」と言ったのであれば、これは正気の沙汰ではありません。
私が親なら、抗議します。
ここから少し耳の痛い話しをします。
ご相談の文章だけで正確には判断できないことを前提に聞いてくださいね。
■お子さんは「二重拘束」状態にある
お母さんは「この先、練習に行かせるのが不安」だと書かれています。「恐怖で萎縮しながらサッカーをやってきた」とも。そして、「中学生になって楽しくサッカーをするためにフォローしたい」と。
しかし一方で、こうも書かれています。
「理不尽を学ぶ機会と思い見守って来ました」
いま、まさに息子さんは理不尽を学んで耐えています。
お母さんのお話しを整理すると、以下の二つのものになりませんか。
A)恐怖に委縮しながらサッカーするなんて言語道断。楽しくサッカーをさせたい。子どもの時期に「理不尽な指導」などあり得ないことを理解させたい。
B)社会には理不尽なことも多いので、子どものうちから体験させたい。
このように、二つの相反する価値観を保持することを、心理学の用語で「ダブルバインド」と言います。直訳すると「二重拘束」になります。
これは、二つの矛盾した命令をすることで、受けた人へ精神的にストレスをかけてしまうコミュニケーションの状態をあらわします。モラルハラスメントやパワーハラスメントを招きやすいと言われています。
例えば、このたったの一行からでも、ダブルバインドが透けて見えます。
「息子は楽しく練習に行っていましたが、影でのバッシングは酷いものでした」
え?サッカーは楽しかったの? バッシングされたらつらいのでは? どっち?――と、私たちは判断しかねるのです。
お母さんの中では、結構なバッシングだけど、楽しそうに行くし、試合に出てるし。といったところでしょうか。
私がダブルバインドの話をすると、多くの親御さんはこう言います。
「少しくらいの暴言や理不尽な扱いには慣れておいた方がいいと思ったら、いつの間にかエスカレートした」
「そんな大げさな話だと思わなかった」