蹴球子育てのツボ ~サッカーで子どもは一人前になる~
2020年6月11日
強豪校に行った兄を追って伸び悩む弟を前向きにさせたい問題
強豪校へ行った兄にようになることがモチベーションの次男。楽しそうにサッカーしているけど、チームメイトとのレベル差もあり、最近ではスクールを辞めたいようなことを口にすることも。
運動神経あまりよくなく、兄のように強豪校へ進む進路は無理そうだけど、進路についてどう話せばいい? 前向きにさせるか、違うことにモチベーションを持たせるか......。と悩むお母さんよりご相談をいただきました。みなさんならどうしますか?
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、取材で得た知見をもとにお母さんへ3つのアドバイスを送りますので参考にしてください。(文:島沢優子)
<<グローブがなく素手でGKを務めた息子。Bチームは面倒見てもらえないのか問題
<サッカーママからのご相談>
10歳の息子ですが、強豪校に行った兄を目指し、週1だけクラブチーム下部組織のスクールに通い始めました。
最初はモジモジしていましたが段々と意欲的になり、今では早く行ってグランドの端っこで仲間とアップしています。
楽しそうにしているのですが、たまに「今日は3人に突っ込まれ削られた」など不満を口にします。
チームメイトとレベルがかなり違う(息子が下手)のは親もわかっているので、プレーがうまくいかなかったことは仕方ないと思うのですが、息子にとってはスクールでの不満が帰宅してから寝るまで続いている感じです。
それに対して私は「サッカーの中での事はサッカーで解決しなさい!」とか「仕方ないよ」としか言えなくて。
最近は「所属チームだけでいいかな?」と、スクールを辞めたい様な事も口にします。
前向きにさせる様にするには親はどうしたらいいのか悩んでいます。
兄は6年時にJrユース合格の為準備としてスクールに通い始めましたが、兄弟で運動神経は全く違う(今回相談している弟は鈍い)ので下部ジュニアユース→他県強豪校という進路は無理そうに思います。
ですが、兄の様になる事だけがモチベーションの子に、どうやって進路を話したら良いかも不安がありご相談しました。
息子を前向きにさせる方向がいいのでしょうか、それとも違うモチベーションを持たせるのがいいのでしょうか。
アドバイスよろしくお願いします。
<島沢さんのアドバイス>
ご相談いただき、ありがとうございます。
お母さんからのメールには、以下のような問いがありました。
前向きにさせる様にするには親はどうしたらいいのか。
息子を前向きにさせる方向がいいのでしょうか。
それとも違うモチベーションを持たせるのがいいでしょうか。
いずれも「○○させる」が並んでいます。
まずは、お母さんの中から、この「○○させなくては」「○○させるべき」「○○させたい」という欲求を追い出してください。
■子どもが自分から頑張るために、親はどうすればいいか
私も長男が小学校低学年のころはそんな言葉ばかりを頭に思い浮かべていました。
「宿題をやらせるのはどうしたらいいか」「サッカーの自主練をやらせるにはどんな方法があるだろう」
ところが、親が「こうさせるぞ!」と頑張れば、頑張るほど、うまくいきません。子どもから「嫌だ!」と反発されたり、渋々取り組んだとしても、しょせん親(他者)から言われてやることなので成果が上がりませんでした。
では、どのようにしたか。
何十万人もの子どもにサッカーを教えながらコーチたちを導いてきた池上正さんや、脳科学の専門家、成果を上げている教育現場の人たちの話を参考にしました。
すべての人が口をそろえておっしゃったのは「放っておけばいい」でした。そして、実際に放っておくと勝手に自分で自分の道を選び、そこに向かって努力を始めました。つまり、成長が始まったのです。
したがって、お母さんも次男さんを、まずはほったらかしにしましょう。こうさせたい、などと考える。それはいわゆるコントロールしようとする行為です。前向きにサッカーに取り組んでほしいなら「いつでも応援しているよ。できることがあったら言ってね」とひとこと言ってあとは黙っていればいいことです。
「私が干渉したままでは、息子は成長しない」
ぜひそのように考えてください。
■兄弟であっても違う個体なので、上の子の経験に縛られないようにしよう
そもそも第一子は、兄姉がないぶん可視化できる見本はないし、親も最初の子どもなので知見、経験がない。それは一見ディスアドバンテージに映ります。が、その実、子どもも親も何かの前例や価値観に縛られることなく、その子らしい道を自由に模索できるアドバンテージでもあると思います。
第二子は兄や姉の姿が良くも悪くも見本になり、親のほうも、上の子の経験に良くも悪くも縛られがちです。要するに、比べてしまう。これはストレス以外の何物にもなりません。
日本の子育てには「切磋琢磨する」とか「きょうだいで競い合って」という表現がありますが、そうしたいかどうかは子どもが決めることです。
ご相談文を読んだだけなので想像の域ですが、ご長男は、おそらく小さいころからサッカーが得意で自分からどんどん取り組んで強豪校への道も自分で選んだのだと思います。したがって、親のほうもただ見守っていればよかったでしょう。
ところが、次男は長男とは違う個体です。違っていて当然。でも、親は迷う。お母さんはいままさに「子育ての森」で迷子になっています。
■子どもをコントロールしないで見守ること
では、どうするか。以下の三つを参考にしてください。
1.コントロールしようとしない。
冒頭でも伝えましたが「○○させる」とは考えないこと。「この子、どんな大人になるかなあ」とゆったり構えてください。子育ては、飯の食える一人前の大人に育てることが第一目標です。
サッカーで強豪校に行く、名門のジュニアユースクラブに行く。これはプロセスにおける名誉かもしれませんが、実際はあまり重要なことではありません。例えば、本人が生きがいを見つけて気持ち良く人生を歩む。そんな姿を思い浮かべると、サッカーで試合に出られようが出られまいが大したことではない――親はそう思って見守ったほうがいいと思います。
子どもはこのことに懸命になるでしょうけれど、親はそのカオスに巻き込まれることなく離れて見守ったほうがいいのです。子どもは必ずや、のちにお母さんがそのような達観した姿勢で置いてくれたことに感謝するはずです。
「いろいろうるさくいわずに放っておいてくれて助かったよ」と。
2.「言わなきゃ」よりも「聴かなきゃ」
「サッカーの中での事はサッカーで解決しなさい!」とか「仕方ないよ」としか言えなくて。とあります。お母さんがおっしゃっているように、どちらの言葉も意味がありませんね。お母さんだけじゃないです。みなさん「親だからきちんといいアドバイスをしよう!」と思い込んで、空回りしがちです。
そうではなく、お子さんの話を聴いてあげてください。別にじっくりじゃなくてもいい。「どんな気持ちだったの?」「どう? 大丈夫? サッカー、楽しい?」質問をすると、次男君が自分の気持ちと向き合える機会が作れるかもしれません。